白銀の村
…現世と鏡写しの冥界には、現世と同じように様々な世界が広がっている。豊かな森林、雨が降らない砂漠、それから極寒の大地が広がる所もある。
…隕石が落ちた荒地から幾つもの山を超えた先に、『白銀の村』と呼ばれる村があった。そこには、ソルベという死神が暮らしていた。彼女は、学校に通いながらアイスクリーム屋をしている。今まで食文化が乏しかった冥界だが、現世の影響を受け、食べ物の力を持った死神も産まれるようになった。
その中の一人でアイスクリームの死神のソルベは、アイスクリームを『白銀の村』で売っていた。アイスクリームは子供達に好評で、ソルベは人気者だった。
ソルベの両親と祖父母は、昴の命で戦場に駆り出されていた。子供のソルベは村に帰って来るのを待っている。アイスクリームの原料となる砂糖や果物も、船の便が少なくなった為に減っていた。その為、ソルベはアイスクリーム屋をしばらく閉めていた。
そんな時だった。アイスクリーム屋の扉を誰かがノックした。一体誰が訪ねたのだろうとソルベが開けると、そこには雪女と雪男、それからソルベと同い年くらいの小さな男の子が立っていた。
「すみません、しばらくここに居させてもらえませんか?」
そう言ったのは雪女だった。彼女は頭に雪うさぎを乗せている。
「一体どうしたのですか?」
ソルベは三人を店に招き入れた。客も商品も無い店はしんとしていた。
雪女は雪乃、雪男は雪男、子供は雪太と名乗った。雪太は二人の息子で、妖と怪の間の子になる。
雪乃は、無口な雪男に代わって話し出した。
「私達が暮らしていた雪山が戦場になってね。そこから逃げてきたの。」
「ここに居れば戦いに巻き込まれないと思います。」
ソルベは食料庫にあるシカの怪の肉を持って来た。それを焼いて持って来る。普段から一人で居るソルベは、料理も手馴れていた。
「ソルベちゃん、お父さんとお母さんは?」
「昴様のご命令で戦いに出てます。しばらく帰って来ません。」
ソルベは三人にスープを出そうとしていたが、温かくするか冷たくするか悩んでいた。そんな時、雪太が小声でこう言った。
「寒い…」
「ごめんごめん、部屋暖めるね。」
ソルベがストーブに火を点けると、店全体が暖まった。後は温かいスープを持って来ようとソルベが立ち上がったその時、雪太がまたしても小声で言った。
「暑いよ…。」
ソルベの横に居た雪太の身体が熱で解けていた。
「大変!解けてる!」
ソルベは水になった雪太を器に集めた。そして外に出て人型に穴を掘り、雪太を流し込む。すると、雪太は元に戻った。
「ありがとう…。」
外に出た雪太はまたしても寒がっていた。
「僕は寒がりだけど、暑いのもだめなんだ。この身体だと解けちゃうから…、だから、解けない身体が欲しい。」
雪太の願いは切実なものだった。だが、ソルベはそれを叶える手段が分からない。
ソルベは、雪太の頭にあった笠を深く被らせ、背中を支えながら店に戻った。