妖と怪
八咫烏の里に戻った松葉は、教育係の青鈍に会いに行った。ところが、家にも森にも青鈍は居ない。それどころか、松葉が知る八咫烏の姿は無い。
里は異様に静かだった。松葉が戻ったというのに誰も姿を見せない。何があったのだろうか。松葉が里中を探していると、梅重が烏の姿で倒れていた。その先にも、同じように倒れている烏が居る。
「皆さん…!」
八咫烏は皆烏になっていた。しかも何者かの攻撃を受けたのか力尽きている。
「君には僕の術が効いてないのかな?」
そこに現れたのは、律花達の前から消えたはずのゼオラだった。
ゼオラの術というのは、相手を強制的に本来の姿に変えてしまうというものだった。
「この妖は変化で人に化けているようだね。でも君だけは違う。」
ゼオラが手には細身の剣があった。
「君だけは怪の力を持っていて烏として生まれていない。だから元からこの姿で術が効かなかった、そうだろ?」
ゼオラは松葉が何者か知っているような素振りを見せた。
「妖と怪の間の子、どちらからも疎まれる歪な存在。この里は妖しか居ないからね、君は相当嫌われてたんだろうね。」
ゼオラの背後には怪が蠢いていた。烏達はそれにやられたのだろうか、次は松葉を、狙っている。
「私は、最初は妖として生きようとした。でも今は迷っている。妖として生きるのか、怪として生きるのか、それとも異なる道を進むのか悩んでいる。」
松葉は刀を抜き、ゼオラに近付いた。
「私とは違う存在だったけど、この里の烏達は好きだったよ。もっと色々話したかったし、修行の事も伝えたかった。だから、元に戻して!」
ゼオラは松葉を見下ろしていた。
「僕はね、この星に楽園を造りに来たんだ。だけどそこには君達は必要ない。だから排除させてもらうよ。」
ゼオラの顔から余裕が消えた。本気で松葉を潰す気だ。濡烏との修行とは訳が違う。これは互いの欲による命の潰し合いだ。
松葉は小さな身体でゼオラの死角に回り込んだ。そこでゼオラに一撃が入ったがすぐに避けられ、背後に立たせてしまった。そしてゼオラの攻撃で、松葉の尾羽根が切り落された。
「次は背中の羽根だね。」
ゼオラは少しずつ松葉を追い詰めようとしている。それに、正々堂々と勝負するつもりはない。どんな手を使ってでも、松葉を潰すつもりだ。
ゼオラをどうすれば倒せるか、松葉は考えた。ゼオラの背後には怪が居るが、今の所攻撃はしていない。そこで松葉は八手の団扇を取り出し、風で怪を吹き飛ばした。
「風の妖術も使えるんだ、やるね。」
ゼオラは松葉が飛ばしたはずの怪を剣に集め、黒い斬撃を飛ばした。それを食らった松葉は大きく飛ばされ、里の石垣にのめり込んでしまった。
そこで松葉が倒されようとしたその時、鬼界に居るはずの濡烏が突然現れた。
「へぇ、鬼が味方してくれるんだ。」
「弟子がやられるのを師匠として見過ごす訳にもいかなくてな。」
濡烏は松葉を石垣から引き抜き地上に降ろした。そして自らも刀を抜き、松葉の方を見る。
「修行の成果を見せてやるんだ。」
「はい!」
松葉は濡烏と共にゼオラに勝つと決意した。




