蘇った少女
コウモリは、冥界と現世の境目を抜け、現世にやって来た。そして、律花と音羽が暮らす青波台に辿り着く。そして、町を歩いている律花と音羽を見つけると、急降下し、人の姿に変身した。人が突然降って来たと驚く二人に、コウモリだったその存在が口を開いた。
「お前らが風見律花、それから音羽なんだよなぁ?」
コウモリは律花と同級生の少年の姿になっていた。一見人間とさほど変わらない姿をしているが、耳はコウモリのままになっており、更には黒いマントを羽織っていた。
「そうだけど、君は…?」
「会いたかったぜ!」
コウモリは律花に突然抱きついた。律花は目を丸くしている。律花はこの少年がコウモリである事には驚かなかったが、それよりも初対面で慣れ慣れしいのに戸惑っている。
「待って…、それよりも君は何なの?どうして」
「俺は一八!昴様の命でここに来たんだ!」
「昴様って、曾お祖父ちゃんの事?どうして君が?」
「風見家が現世に居るって本当だったんだな!」
一八は律花の話を聞かず一人喜んでいた。
律花と音羽の血筋である風見家は陰陽師と死神の力を受け継いでいた。一族にはこれまで、霊を視る者や過去と未来を見通す者、それから夢への干渉や寿命を察知する者といった能力者が生まれた。律花と音羽もそれを受け継いでいる。更には二人は冥府神皇昴の曾孫だ。二人は未だその全容を掴めていないが、何らかの力を持っているのは確かだった。
風見家については、これまで関わりがあった者と冥界の者は詳しく知っているが、それ以外の者には普通の人間という事になっている。律花と音羽が篤矢と星藍に隠している秘密というのがそれだった。
律花は、一八と音羽を家まで連れて行った。そして、自分の部屋に連れて行く。
「それで、曾お祖父ちゃんは私達に何を伝えたいの?」
一八は足に巻いてあった手紙を二人に見せた。
昴が二人に伝|えたのは、先日冥界に堕ちた隕石の話だった。その隕石の正体は怪の卵で、Star dustと名乗る存在が送ったものらしい。そのStar dustが組織なのか、はたまた特定の個人を指しているのか、昴は予知出来なかった。ただ、隕石と同じように地球にやって来たソニアという少女が、Star dustに関係があるのではないかと昴は睨んでいる。そのソニアを見つけて殺すのが現世に居る二人の仕事だと書かれてあった。
手紙を読み終わった律花は昴の頼みに戸惑っていた。
「そんな…、隕石と関係あるからって女の子を殺すなんて…。」
「ただの女の子じゃない。その子は死人で、現世に居るらしい。」
「俺達の成長の為とはいえ、随分と惨い話だよなぁ…。」
三人は死人とはいえ一人の少女に手を掛けるのを躊躇っていた。だが、そのソニアを見つけなければ話にならない。まずは、三人でソニアを探す事になった。
二人はソニアという少女の手掛かりを掴もうとしたが、一八はその情報を聞いていたかった。一八は昴に聞いておけば良かったとしばらく後悔していたが、急に話を変えてきた。
「二人は兄弟なのか?」
「兄弟じゃなくて従兄弟なの。」
「そっか、俺は双子なんだ。姉ちゃん、元気にしてるかな…。」
「お姉さんは何処に居るの?」
「八咫烏の里で修行してる。姉ちゃんは八咫烏になりたいんだってさ。」
「八咫烏って事は、お姉さんはコウモリの姿じゃないの?」
「俺は八咫烏とコウモリの怪の間に産まれたんだ。」
「というと、一八君は妖と怪の間いの子なの?」
「そうなるのかな、昴様によると、俺達以外にも居るらしいけどな。。そうそう、俺はしばらく現世に居るよ。」
「しばらくってどれくらい?」
「ソニアっていう子が倒されて、Star dustの一件が終わるまでかな。とりあえず、今は律花の所に身を寄せるよ。」
一八はそう言うとマントを脱いでいた。そして今までそうしてきたかのように律花の部屋でくつろいでいる。
「待って!お父さんとお母さんの許可がないと!」
「昴様から話は聞いてると思うけどなぁ…」
一八は机の上にあった本を読み始めた。そうなると、しばらく話は聞かないだろう。
「私が話すの?っていうか一八君の事どう説明すればいいの?」
床で寝そべっている一八を前に、律花は一人頭を抱えていた。