松葉は、青鈍との修行が続いていた。内容は主に飛ぶ練習や、風の妖術と剣技の習得だった。
その修行の中で出来る事も増えたが、青鈍は厳しかった。他の烏達も何処か冷たい。松葉の肩身は狭くなっていた。
それも、松葉が烏の姿になれなかったからだった。あれから、何度も試みたが、それだけはどうしても出来ない。
神々の伝達役に重宝される八咫烏にとって、身軽な烏の姿は重要視される。
それに、八咫烏の本来の姿は烏の姿だ。人型で生まれた松葉とはそもそも性質が異なる。それは責められるべきではないが、規律を重視する八咫烏達にとっては大問題だった。
里の烏でただ一人、松葉に優しかったのは従姉妹の梅重だった。梅重は両親が鬼神の蘇芳に仕えている事から、怪に対する嫌悪感がなかった。怪の血を引いている松葉にも平等に接している。
「松葉ちゃん、修行はどうなの?」
「はい、これでも出来る事増えました。」
「そっか…」
梅重はなるべく松葉の側に居るようにしている。それは嬉しいが、自分の事をおざなりにしていないかと心配になる。
「それでは、私はここで失礼致します。」
松葉は梅重から離れ、修行に戻った。
青鈍は松葉をよく見ている。それは松葉も承知していた。青鈍は時々無謀な、それこそ獅子の子落としのような手に出る。彼は優秀な教育係だが、その手は厳しく、途中で諦めた者も居る。青鈍は松葉の父親が優秀なのを知っていた。だからこそ、松葉には一層厳しかった。
松葉は音を上げたが、修行を止めようとは思わなかった。父親のような優秀な八咫烏になるのが夢だからだ。父親も主人に仕える前は修行の日々だった。同じようにしなければ憧れる存在にはなれない。その思いで青鈍に向かった。
そんなある日の事だった。修行している松葉の元にある人物がやって来た。それは、父親の師匠で、鬼の濡烏だった。松葉は、濡烏の存在は知っていたが、実際に会うのは初めてだった。
「濡烏さん…」
「松葉、君に見せたいものがあるんだ。」
濡烏は松葉の手を引きながら大空へ飛び去ってしまった。