お守り
…律花達と別れた後、篤矢は、何事もなく町を歩いていた。白部山に向かった音羽が気にはなったが、敢えて追わずに、散歩している。町は静かで、普段と何ら変わりなかった。
そんな中だった。誰かが篤矢の名前を呼んだ。振り向くとそこには見知らぬ青年が立っている。青年は、頭からつま先まで真っ黒な風貌で、その顔立ちは整っていた。
「あなたは…?」
青年は剣崎智と名乗った。篤矢がその名を聞くのは初めてだったので、智を警戒した。
「明らかに怪しいですよね…。」
「仕方ないさ。この姿で会うのは初めてだから。」
智は篤矢に親しく話し掛けるが、篤矢にはその理由が分からなかった。
智は篤矢の手に小さな水晶玉を載せた。その水晶玉には穴が開いていて、そこから緑の紐が通されている。
「これはお守りだ。君に持ってほしいんだ。」
篤矢はお守りを握り締めた。水晶玉はほのかに温かく、生き物みたいだと篤矢は不思議がった。
「ありがとうございます…」
このような物を渡したのに、智は見返りは求めない。お守りというからてっきり怪しい商売なのではないかと篤矢は不審がっていたが、どうやらそうではないらしい。
「もう一人の子は?」
「星藍ちゃんの事ですか?そういえば、どこに居るんだろ?」
「そっか…、もう手遅れかもな。」
「手遅れ?」
智はずっと篤矢を見て何か考えているが、それを篤矢には教えない。まるで音羽の態度みたいだなと篤矢は不思議がった。
すると、智は篤矢の両肩を持った。
「星藍の事を探すんだ。他の誰かが星藍の存在を忘れたとしても、君だけは忘れてはいけない。」
篤矢は智の言葉の意味が分からなかったが、大事な事を伝えようとしているのは分かった。
そして、智がその場を去ろうとした時、一言こう呟いた。
「律花と音羽をよろしくな。」
「音羽君を知ってるんですか?」
「遠い親戚、とでも言っておくよ。」
智は篤矢から離れ、白部山へ向こう。篤矢は追おうとしたが、それよりも星藍を探さなければならない気がして慌てて町を駆け巡った。
町中探しても星藍の姿はなかった。そこで篤矢は星藍の家に向かう。呼び鈴を鳴らすと、星藍の母親が顔を出す。
「星藍ちゃん、家に居ますか?」
すると、星藍の母親は何食わぬ顔でこう返した。
「星藍ちゃんって、誰?」
それを聞いた篤矢は膝から崩れ落ちた。まさか母親が子供を忘れるなんて考えたくなかったからだ。
自分が知らない中で何かが変わろうとしている。それに気づいた篤矢は寒気を感じ、先程のお守りを握り締めた。そのお守りはまだほのかに温かかった。




