第27話 定番ネタサプライズ
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翌日の朝は千客万来だった。
俺の家は間取りでいうと2LDKの平屋で、個室を俺と西川が使っている。リビングというか広間は仲間との打ち合わせ場所だ。自宅というより職場に近い。
目と鼻の先に離れが二棟あり、イッカとミコユウの姉妹が使っている。一緒に住めばいいのに二人とも目で牽制しあいながら、いずれはそうしたいと思いますと言っていた。
ちなみにユウはニマニマ笑っていた。
料理スキルを上げているミコユウ姉妹が食事の準備をしてくれて、朝食にはイッカも参加する。初めの頃はシロウも参加していたが、非戦闘者の責任者になってからは週に一度顔を出す程度だった。
「改めて、ご帰還、おめでとうございます」
久しぶりということなので顔を出してもらったシロウが嬉しそうに笑ったので、素直にありがとうと返しておく。なんだかんだ言ってこのシロウと猫人族のクロ、犬人族のワンコが常識人だ。重宝したい。
「長老の体調回復にもご尽力いただきまして、感謝いたします」
「いえ、あれは――」
「主様のおかげです」
横で断言するイッカからあふれ出す全幅の信頼が眩しい。
どちらかというと視界の隅で座ってパンのようなものをもぐもぐと食っている菊千代の功績に近いんだがな。というかお前はプログラムだろうが、なんで物を食ってるんだよ。
「一条様、それはこの菊千代が良く出来たプログラムだからでございますよ」
理屈も通っていない。
まったく。このくそったれな迷宮運営に関わってから俺の常識という名の辞書は書き換えだらけだ。
用意された朝食を食べながら軽く今後の打ち合わせをする。
忘れないように再確認だ。
大事なことは、目標の着地点。最終目標は迷宮第10層の攻略。
皆には内緒だが、俺達が元の世界に戻るために必要な目標なので、何事においても優先度は高い。
次に方法の模索についてだ。
俺が死に掛けた経験上、今後の攻略にも困難は多いと予想される。
今までのやり方では通用しない部分も出てくるかもしれない。
だから、方法そのものを見直そう。
迷宮の攻略は結局のところ、数が必要だと結論付けているので、ヒトモノカネを集めて回す環境を整えるように動く。
経済や流通に関しては専門知識層に任せるとして、まずは、シロウをトップに据える。
内政を担う文官というところだ。
やることは大まかに三つだ。
環境整備、宣伝、囲い込み。
どこかの国に間借りして迷宮運営を行うのは後のリスクを考えると愚策だ。
国家レベルでの邪魔が入る事疑いなしだ。
集団として、国家としての独立が中間目標だな。
宣伝はまあ迷宮そのものが宣伝みたいなものだから後回しで。
囲い込みは国家として独立できるなら税制面と安全で補える。
よし、まずは、周辺国家から独立して街を作ろう。
迷宮に集う仲間達はもはや弱者ではない。搾取される側でない以上引きこもる必要もない。
さすがに話を聞いていた者達は目を丸くしている。
「コーキ様、街の建設ですか?」
シロウが考え込むように手を顎に当てた。
「そうですね。国として独立するためと、迷宮攻略のハードルを下げるための街作りが当面の目標です」
国家設立という案に更にシロウは鼻白む。
自らを鍛えて戦闘に身を置くだけが攻略じゃないさ。
どんなに頑張っても手が増えるわけじゃない以上、両手に余るものは持てないんだから。
「畏まりました。それで、迷宮内部の扱いは如何しますか?」
「先の話になりますけど、迷宮の入り口近くに関所のような機能を持たせてください。それと、セーフゾーンでの資源資材の調達は制限を設けますので、区画の整理もお願いします」
入場の制限を設けるから立ち入りはできないけどな。
シロウはこくりと頷いた。あとは昨日見かけた定番ネタを話しておく。
「ねえ、イッカさん。コーキ様は何をするおつもりなんですか?」
ミコが小声でイッカに囁いている。
「そうですね……沢山の人を呼んで、迷宮攻略を手伝ってもらうんですよ」
簡単に言うと、そういうことだ。
迷宮攻略部隊として直接指揮をとるのは今の所はリッカだな。武官として存分に暴れてもらおう。
問題点は人手が圧倒的に足りていない所だ。
少数精鋭で挑むには力が足りないし、力を付与すると統制する俺の力が足りない。
バランスが大事なんだよな。
後は、将来的に問題となりそうなのは、防具だ。ここまで防具の類いがドロップされない以上、最後までないと考えた方がいい。
そして、統合司令部として迷宮攻略ギルドがあり、俺がトップだ。補佐にイッカをつける。
扶養する保護対象に西川、ミコ、ユウ、ウサコ。
シルヴィは、うん、護衛ということにしておこう。
最後に現金だ。
外貨の獲得が必要だ。いくら迷宮で色々手に入るとはいえ、万能ではない。金で買えるなら金で買えばいい。
売るものは山ほどあるのに売れない現状打破に必要なのは伝手なんだよな。今なら街に俺やウサコが売りに行けるけど、欲しいのは流通のシステムなので、やはり外部と繋がりを持ちたい。
細々と毛皮などの物々交換は行っていたみたいだが、りんご等ドロップアイテムの販売はやんわりと拒絶された。
やはり高級品であるりんごなどはしっかりした所に卸さないと危ないらしい。目をつけられて襲われたり足元を見られたりする。
うんうん唸っているのをハラハラした顔でイッカが見てくる。
「おじゃましますわ」
「邪魔するぜ!」
「コーキくん、皆さん、おはようございます」
ウサコ達三姉妹がやって来た。
「おなかがすきましたわ」
「どっかでくいもん売ってねえの?」
「ごめんねコーキ君」
なるほど、昨日までは迷宮攻略や案内人が着いていたけど、一旦落ち着いたので今日からの予定をたてていなかった。
食べ物をどうしたらいいのか聞きに来たらしい。
「ご一緒にいかがですか?」
ついでに食べましょうとイッカが誘い、明日からも良ければ食べに来てくださいとミコが朝食ののった膳を持ってきた。
一気に賑やかになった。
「何やら難しいお顔をなさっていますわね」
基本のほほんとしているウサミにそう言わしめる程俺は悩んでいたらしい。
「どうしたの? コーキ君」
ウサコが顔を覗きこんでくる。本日もウサミミが愛くるしい。
そうだな、三姉妹になら話してもいいだろう。
俺は目下の悩み事を話す。
「ああ、それなら行商人を雇えば宜しいですわ」
あっさりとウサミが言った。
各地を転々とした姉妹は同じく各地を回る行商人に伝手があるらしい。
なるほど、行商人か。
「大概の国は入場時に税を徴収されますから、国内で国外のものを仕入れられる訳ですからさぞや協力的になりますわよ」
「いや、ウサミさん、できれは帝国じゃなくて、王国に卸したいんですよ」
「あら、そうですの? まあ、同じですわね。声をかけてみますわ」
なんとかなりそうだ。俺は胸を撫で下ろし、イッカも落ち着いた俺を見てホッとしていた。
朝食を終えてすぐにリッカは訪れた。
「今日から戦線復帰するぜ」
昨日の内にウサコに解呪と回復を済ませていたので「特攻隊」メンバーが出揃ったらしい。
「リッカ、戦線復帰は喜ばしいですが、回復役が居ないと二の舞です、自重なさい」
イッカのお諌めの言葉にリッカは肩を竦めリハビリだから第三層には入らねえよと告げるとさっさと出ていく。
あれ? もう少しウサコに絡むかと思ったけど意外とサバサバしてるな。
よし、ひとつずつ片付けていこう。
後日のことだ。
「先輩、どうしてこの場所に新しい家を建てるんですか?」
西川が首を傾げる。
拠点の建築場所からは微妙に離れた場所にぽつりと隔離されたように木の囲いが出来上がっている。さすがシロウだ、仕事がはやい。
「他の家に塀なんてないですよね? あ、何か重要な建物なんですか?」
「いや、そういうのじゃない。今回は塀が必須なんだよ。中に入れば分かる」
2メートル程の高さの囲いに沿って進むとす布をかけたすだれの入り口が現れる。
仮のものだから、中はあまり広くしていない。
中にも、衝立を何箇所か用意している。
「主様、これは……貯水庫でしょうか?」
「コーキくん、なんかもやもやした白いのが出てるよ?」
イッカもウサコも首を傾げた。
好奇心旺盛のミコとユウが近付いて3メートル四方のプールのような窪みになみなみと溜められた水面におっかなびっくり手を入れる。
「あ……」
「あったかいよ、コーキ様」
お湯だからな。
「定番ネタきましたね」
西川はにんまり笑う。
「これは温泉といいます。地中から湧き出ている天然のお湯を溜めてます」
実際には源泉の他に温度調節用にもう一本井戸を掘っているが、説明は要らないだろう。
西川はウキウキとした様子だが、風呂をそもそも知らないのか他は困惑顔だった。
硬質化スキルで固めた土はしっかりと水を溜めているようだな。
排水をどうするかが今後の課題だが、まあゆっくり考えよう。溢れたお湯は外に水路を設けてある程度は溜まる様にしているので問題はないだろう。
「あ、西川殿!」
イッカの悲鳴に近い声に我に返ると、服を脱ぎ捨てた西川が全裸になっていた。
さすがの西川も少しは羞恥心を持っているのか手で大事なところは隠しながらそろそろとお湯にはいる。深さは60センチほどだ。子供用に浅い場所も設けている。
「うはー」
「と、まあ、体を休ませる所です」
さすが西川だ。いきなり試すとか畏れ入る。説明が省けてよかったがいきなり服を脱ぐなよ。
あとはもう雪崩のようだった。
ユウが真似をして服を脱ぐとざぶんと中に入る。
「あったかーい。お湯で水浴びみたいー」
ウサコが服に手をかける。
「うふふー。コーキくん、あんまり見てはだめですよ」
いえ、ごめんなさい。無理です。
「もう」
少し拗ねたように唇を尖らせるが、まあ弟に見られる程度にしか思っていないらしいウサコに躊躇いは感じられない。少し悔しい。
しずしずと清楚な体をお湯につけていくとほんわか笑う。
ミコも脱ぐ。上目使いで拗ねたように睨んでくるとさっとお湯に入り体を隠した。
皆の目がイッカに集中していた。
普段は凛としたクールな鬼人族の美女は顔を真っ赤にしていた。
「これが主様の……作法でしたら」
諦めた様子ですこしずつ服を脱ぎ始める。
勢いがない分やけに色っぽいな。
少しずつ見える白い肌や体の隆起を思わずごくりと唾を飲み込んで見ているとばしゃりとお湯がかけられた。
「先輩、いくら子供だからって見すぎです。キモイです、あっち行ってください」
西川、お前な。
紹介だけでいますぐ入浴とかする予定じゃなかったんだよまったく。
「体を拭くもの、とってきます」
あとの説明は西川に任せるか。
だが少し癪だ。
「みんな、綺麗でかわいい魅力的な体でしたよ」
にっこり笑って称賛すると、お湯に浸かっていた女達は一斉に顔を赤くして俯いた。
さて、大量のお湯が降ってくる前に退散しよう。
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