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迷宮運営委員会/お前はまだダンジョンを知らない  作者: あらいん
第2部

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第26話 月命日と御礼参り

誤字を修正しました。


 006


 ウサコに仲間の解呪を頼んで回ってもらった後に、俺は鬼人族の長老のお見舞いに行くことにした。


 それにしても鬼人族の男達はみんな揃ってウサコに鼻の下を伸ばしていたな。

 平然としている所を見るとウサコにとっては日常茶飯事なのだろう。

 同行するイッカが苦笑していた。


 鬼人族のご老体宅は一人の少年鬼人族が護衛中だった。

 少年は俺とイッカの姿を見て静かに頭を下げる。小さくなった俺の情報もしっかり回っているので、止められることなく中に入れてもらえる。


 木材で組まれた家の奥に部屋があり、ベッドが置かれて、ご老体は静かに眠っていた。

 小さな体だ。迷宮の知恵袋自慢の頭の2本の白い角もくすんでいる。


「おじい様、おはようございます」


 西川がぺこりと頭を下げる。


「長老、お喜びください。主様がお戻りになられました」


 イッカも柔らかい声で声をかける。

 だが、目を閉じたご老体は静かに息をするだけで反応はない。


「菊千代、何か方法はないか?」


 菊千代は黙って俺を窺う。


 わかってるさ。方法はある。それは俺自身が体験している方法だ。

 どの時点から、ご老体がこのくそったれな迷宮運営に参加した初期状態なのかは不明だが、リセットを行うことで少なくとも何年かの延命は可能だ。


 ただしリスクが半端ない。

 ペナルティによって迷宮効果範囲の端に転移する場所は菊千代にも予測不能で、人族の街も当然含まれている。


 迷宮の効果が及ぶ範囲というものが、迷宮を中心に広がっているのだとしたら、北側の森も当然含まれている。ご老体には酷な境遇になることは違いない。


 だから、それ以外での方法だ。


 ポーションは怪我や病気に効いても歳を戻してくれるわけではない。

 手に入れた回復魔法でも同様だ。

 老衰というどうしようもない自然の摂理というやつに理不尽で呆れさせる迷宮の力も敵わない。


 手を握り締めているとウサコがそっと頭を撫でてくれた。

 イッカが沈んだ顔で俺を見る。


「申し訳ございません主様。ですが我ら鬼人族は戦闘種族、戦えなくなった者は朽ち果てるのが摂理でございます」


 そんな、戦場では怪我をしたものは置いていかれるみたいな悲しい話はやめてくれよ。


「そうなんですか? じゃあ歳とか考えずに、おじい様も魔物と戦えばよかったですね」


 西川が唇を尖らせた。

 敬老精神が仇となったか。やるせないな。

 前世界の常識がマイナスに働いた結果だ。


「今となっては、それも叶わないことです」


 イッカは目を伏せた。


 菊千代がじぃと俺を見てくる。

 分かっているさ、だからそんなに俺を責めるようなジト目を向けるな。


 この迷宮攻略という名の迷宮育成は紛れもなく戦いだ。当然ながら、いずれ命を落とすものも現れる。俺自身が死に掛けているんだ説得力がある。

 その度に心を痛めていれば先には進めない。


「あの、一条様」


 説教は勘弁して欲しいんだがな。


「とりあえずこの方のステータスを上昇させてみては如何でしょうか?」


 は?


 思わず、菊千代を見つめてしまう。

 菊千代は指を動かして、白い文字を浮かばせる。


 → ギルド加入手続きが完了しました。

 → 加入者のポイント操作を有効に設定しました。


「まあ、お歳ですので肉体的な限界はあるとは思いますが体を鍛えれば気力もみなぎるものです」


 常識にとらわれて失念していたが、ここはイージーモードだということを思い出す。


「一条様が、失礼な物言いですが老い先短いお方に貴重な迷宮ポイントを使用する、ということに躊躇いを覚え、職務に対し真摯な姿勢を見せていただけました事に菊千代は大変感服いたしました。しかしながら周囲に与える活力となる方法としての非効率というのも時には必要だと愚考いたしますよ?」


 おいまてコラ。そのまるで俺が迷宮ポイントを出し渋った冷酷ケチみたいな印象操作をするんじゃない。

 単純に考え至らなかっただけだよ!


 ご老体のステータスをすこしずつ上げてもらう。

 加減が分からないので、1レベル分ずつ、ステータスの配分は鬼人族に倣ったもので。


「どうしたのコーキくん?」

「真面目な顔のショタとか萌えますね」


 落ち込んで悔しそうにしていると思ったら気が抜けて真剣な態度を見せたのだろう俺を見て3人は戸惑っていた。


「うふふー、でも何だか嬉しそうな顔してて可愛いよ」


 ぎゅうとウサコが抱きついてきて、このビッチがと西川が吐き捨てながら、負けるものかと抱きついてきて、イッカは呆れたように溜め息をついた。


「おや、そこにおられるのは、主様ですかな? 随分とお若くなられたご様子ですが、この爺が年を取っただけですかな? いずれにしましても、お帰りなさいませ」


 むくりと体を起こしたご老体が、こんな格好で失礼しますと頭を下げた。

 長い年を生きてきたご老体から見れば俺なんて小僧みたいなものだからな。残っていた面影から看破された。どこかのお貴族様といい、年寄りには敵わないね。


「ほほ、イッカよ、この爺の目など気にせず主様にあぴーるしていいんだぞ?」


 いきなり元気になって呵々大笑するご老体の言葉に、呆れるやら赤面するやらイッカは大慌てだった。


「あれ? おじい様、元気になったんですね」


 俺に抱きついたまま西川がにんまり笑う。


「西川様もお元気なご様子で何よりです」


 目を細めて笑うご老体は少しだけ精悍さを身に纏っていた。


 さて気が抜けて、さっきまでレベル上げに逸っていた気も収まった。

 元気を取り戻したご老体の家からお暇して、気分転換に建築中の拠点全体の視察を行う。


 建物は本格的な造りではなく簡素なものだ。今後の計画を考慮するとマイナスではないのであまり問題にはしていない。今のところは仮住居でいい。


 元々60人程度の小さな村程度の人数しかいないため、家が立ち並ぶだけだ。発展などない。発展を促すには圧倒的に人の手が足りない。外的な要因も足りない。まず必要としていない。


 食べて、生きていけるという最低限の保障だけで充分満足な仲間達の集まりだからな。

 普通の村なら人手を増やさないと過疎まっしぐらだ。


 イッカに聞いた話では、この1年間で仲間は増えていない。

 迷宮に進入する許可が与えられない状態だったのだから仕方がないか。


 お使いに出した鬼人族も不発に終わったらしい。

 迷宮産の一部を物々交換する以外では外界との接触を絶っていた鎖国状態だったわけだ。


 そう広くない拠点を散策している時に、井戸で水を汲んでいる鬼人族の少年を見かけた。

 そういえば、井戸の量産も途中だったな。道作りも同様だ。


 水脈探索関連のスキルを菊千代に上げてもらい使用すると、一点だけ他と違い淡く赤に光るポイントが目に付いた。

 近寄って立ち止まる俺を見て三人が首を傾げる。

 これはおそらく定番ネタだ。シロウに話してみることにしよう。


 休憩終了だ。


 迷宮第二層は回廊の迷宮と呼ばれているらしい。

 10キロ四方の回廊が一周しており、真ん中に十字の大きな通路が通り、後は無数に枝分かれしている造りだ。

 入口正面から見て前に行くほど、左右に行くほど現れる敵のレベルが上がり、左右斜め上の位置にボス部屋がある。

 俺を伐った鬼骸だ。その内お礼参りに行こう。


 迷宮第三層は一転して最初からフィールドマップらしい。迷宮とは何なのか理解に苦しむ。

 レベル帯は川によって区切られていたり、塀によって区切られていたりして、先に進むためには門番を倒す必要がある。門番は時間経過で復活する。

 そのレベル8の門番こそが札を使って呪いを付与をしてくるつるっぱげの蛸坊主だ。


 未だ退治には至っていない。


 俺はウサコのレベル上げに追従して第二層の攻略を開始する。

 第二層は攻略されてからは三種類の魔物のみの構成となったらしい。ただし奥に進むと同じ魔物だが進化して強くなっている。


 鬼骸にたどり着く頃には相当レベルとスキルを上げることが出来た。

 もう少しでリセット前と同様のスペックだ。

 一度経験しているからスムーズだった。


 ここからはギルド上納分のポイントを使用してさくっと強化しようと思ったが、そう上手くはいかなかった。


「年齢制限ですよ一条様」


 は? なにそれ? あ、そういえばミコとユウのスキルとステータスも一定以上に上がらないことがあったな。


「本来はスキルもステータスも体の成長と共に手に入るものですから体や脳に負担が掛からないように制限がかかります」


 まあ、なんとなく理解できる。こんな細い腕ではステータス上昇で筋肉が付いたとしても持てる重さには限度があるもんな。


「それじゃあある程度体が育たないと強くなれないって事かよ」

「ご安心ください主様、このイッカが御守りさせていただきます故」

「子供は無理しちゃダメなんだよ」

「コーキ様、私もお守りします」

「女に守られる少年とか、ヒモまっしぐらですね先輩」


 イッカ、ウサコ、ミコは力強く頷いていた。ちなみにユウはニコニコ笑うだけだった。シルヴィはどこにいるのかわからなかった。


 とんだデスペナだよまったく。

 女子供に守られる冒険なんて願い下げだ。上げられるだけステータスを上げてもらおう。


 だがしかし、鬼骸の戦いは呆気なく終了した。

 戦い方が研究され尽くされているというのもあるが、イッカの強さが桁違いなのだ。


 まるで親の仇を討つかのような鬼神のごとき一閃は一太刀で鬼骸を真っ二つにした。


「主様を害した外道は……皆殺しです」


 低く呟くイッカの声に、ああそうかと納得する。正真正銘の仇討ちなのだった。


 もう片方の鬼骸は任せてもらう。

 子供とは言えレベルは充分。スキルも充実。戦い方も理解している。

 禍々しいドクロ頭の鬼骸をイッカを真似てスキル一閃で滅多切りにする。


「お見事です」


 イッカが一礼する。

 ウサコがにこにこ笑いながらぱちぱちと拍手してくれる。

 うん。すっきりした。


 迷宮入口に転移すると丁度ワンコの部隊が中に入るところに遭遇する。


「これはコーキ様」


 ワンコが深々と頭を下げると残りの犬人族もそれに続く。


「ウサコ様の供ですが、お疲れとのことですので休憩なさっております。ジュニア達と一緒です」


 それは今ごろ涎まみれだろう。

 外敵が無いとはいえ護衛は必要なので甘んじてもらおう。


「ワンコ達は訓練ですか?」

「今日は月命日ですので」


 月命日というとあれか、誰かが亡くなった日ということか。ていうか俺か。毎月鬼骸を討伐しているのか? イッカに目を向けると目を逸らされた。

 まあ戦うことは悪い訳じゃないからやりたいようにやらせるとしよう。


 陽も大分傾いてきたので本日の業務は終了とする。


「ウサコさん、寝床はどうですか?」

「うん? 快適だよ。でも私はコーキ君と一緒でいいよ?」


 まあ孤児院では雑魚寝をしていたからそれでもいいんだけどイッカとかミコとか西川がなにかと理由をつけて反対している。

 まあ久しぶりの三姉妹水入らずを邪魔するのも野暮だしな。


 迷宮帰還翌日に、「ウサコ殿の住居は既に準備しております」とイッカは事も無げに言ったのだ。準備がいい。さすがイッカだ抜かりはない。


「家まで用意してもらえるなんて、もしかしてコーキ君って思った以上に偉い人なのかな?」


 残念ながら、偉い偉くないと言われれば大したことはない。


「ウサコ殿、主様はこの迷宮の主ですので、偉い御方です」


 イッカによいしょされた。


「ああ、このへんてこな場所はコーキ君の領地だったんだ。なるほど。うん、偉い人だね」


 弟を自慢する姉のような微笑みだ。

 何故かイッカも誇らしげに胸を張っている。

 西川はぷーくすくすと笑い転げていたがな。


読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただけましたら幸いです。

ブクマ、評価、感想、ありがとうございます。大変、励みになります。

では、失礼しまして。

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