第25話 あれな鬼人族
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夜も遅いし誰が一緒に寝るかという議論は決着がつきそうもなかったので素直に迷宮に入ることにする。正直、付き合いきれん。
迷宮内には寝泊りできる拠点となる建物が複数あるというイッカの意見に従った形だ。
戻ってきた管理者権限を使用して兎人族の三姉妹と亜人族の三人に迷宮進入許可を設定。
扉をすり抜ける時はさすがに全員躊躇していた。
おっかなびっくりという態度が微笑ましい。
ついでにギルド加入を行っておくか。事後承諾になるが、行く所もなさそうなのでいいだろう。
「なんだか立派な通路だね、コーキくん」
天井がうっすらと光る石畳の通路を歩きながら物珍しげに壁にペタペタと触れるウサコは首を傾げている。不安そうにウサコにまとわりついている三人娘も不思議そうな顔だ。
「魔法……というわけではなさそうですのね。不思議ですわ」
原理は俺も知らないのでこっちに視線を向けないでくれ。
ジュニアたちはもう夢の中でそれぞれ母親に抱かれている。
西川も欠伸をしていた。俺の視線に気付いて何故か赤面している。
「先輩、女子の欠伸を盗み見するとか変態ですか? そんな趣味に目覚めたんですか? ショタの癖にマニアック過ぎますね」
俺は一度でいいから、お前の頭の中身を盗み見してみたいよ。
通路を抜けると視界が広がる。
一年ぶりの迷宮だ。緑の匂いが懐かしいな。
夜の第一層は、月は出ないが月明かり程度に天井が発光しているのでぼんやり程度に見通しがきく。
初見の6名は困惑顔だ。
説明は明日にしてとりあえず休んでもらおう。子供の体力しかない俺も眠い。
「私、ずっとコーキくんと一緒に寝ていたよ?」
ウサコは最後まで俺と寝ることを主張していたが久し振りの再会の姉達に連行されていった。
三人娘もぞろぞろとついていく。
ワンコが案内人として担当についたらしい。
「先輩の腕枕もいいですけど、先輩を腕枕してあげるのもまた風情がありますね」
中身はともかく外見は年端も行かない少年に添い寝してどこに趣があるのか理解できないんだが。
「西川殿、お気持ちは分かりますが、今夜は主様もお疲れですから」
「何もしないよ? ホント、寝るだけです」
嘘付け。ぎゅうと抱きついてくる西川に僅かながら背丈が負けているのが何故か腹立たしい。しかも拘束から抜け出せない。
ステータスで優位に立っている事を最大限利用しようという気持ちが駄々漏れだろうが。
「一条様、菊千代はこの後、様々な処理が溜まりに溜まりまくっておりますので、朝までお暇させていただきますね」
お前も、変な気を利かせるなよ。
まあ、再開した迷宮攻略の止まっていた処理が動き出し忙しいのは本当なんだろうが、録画モードがどうとか不穏な言葉が聞こえてきていて不安しかないわ!
いなくなる前にステータスだけでもあげてくれ。
「え? 上げるのですか? 明日にしませんか、一条様」
いや、どうしてそこで残念そうな顔をするんだよ?
「仕方がありませんね、ユウ、しっかり主様をお守りするのですよ?」
イッカの真剣な顔にユウはこくこくと頷いている。
ミコがショックを受けたように涙目だ。
西川の舌打ちが飛ぶ、見事な采配だった。
さすがに今夜は寝かせてもらおう。
ユウ、護衛はお前に任せる。
「らじゃー」
こくこく頷くユウを前にミコと西川は崩れ落ちていた。
翌朝の事だ。
1年ぶりに見た迷宮第一層は、こじんまりとした村程度に発展していた。
初見の6人は、またポカンとしている。
説明は受けたが、ここが巨大な門を抜けた通路の先にある迷宮という名の洞窟内部だという理解が追い付かないらしい。
そんなに心配そうな顔をしなくても大丈夫だ。俺だって目を逸らしているだけで理解もしていなければ納得もしていないんだからな。
「なんですの、ここは? うずうずしますわ!」
「うは。なかなか暴れがいがあるじゃねぇか!」
あれな姉妹は、あれなだけあって順応性がある。
ウサコと三人娘は腕まくりをしている兎人族の姉妹を羨ましそうに眺めている。
呆れを通り越すと、そうなるらしい。
わーわー歓声をあげながら走っていくジュニア達と、忍のように散開していく猫人族の子供達を微笑ましく眺めながらお仕事再開だ。
まずは戦力増強。早速ウサコに相談を持ちかける。
「迷宮? 攻略ギルド? うん、いいよ。コーキ君にお任せするよ」
あっさり協力を取り付けた。
相変わらず疑うことを知らない箱入り兎だ。将来、悪い男に騙されないかとても心配だな。
他の5人にも状況を説明する。
「わたくし、ひとつの場所でじっとしていられない性格ですわ」
「オレの住みかはオレが決めるぜ」
兎人族の姉妹は定住はしないけど参加はしてくれるらしい。
亜人族の三人組はウサコ姉についていくとのこと。参加と。
色々と近況は気になるがまずは最低限のレベル上げだ。
レベル2のアナライズで確認するとウサコは驚きのレベル10。あれな姉妹も同様だった。
聞いていて気持ちの良い話ではないが、その見事な肢体を含む容貌は人族以外にも狙われるらしく、自衛のためにやむを得ず相当に鍛えているらしい。
確かに納得の凹凸だ。
しかも性分なのか特性なのか寂しがり屋で面倒見が良い。
男の羨望の的になってもおかしくない。
まずはみんなを引き連れて第一層のフィールドでレベル上げをする。
護衛にイッカがついているので安心だ。
溜まっている迷宮ポイントを使用すれば楽々スキルステータスアップが可能だが、リハビリの意味もある。好きにポイントの使用ができるとはいえ、勝手に仲間が溜めた物を使うのも気が引けるので最低限に留めたい。
身を隠しながらシルヴィもついてきている。シルヴィといえば、今日の朝に隙を見て近付いてきたと思ったら体を二度程擦り付けて去っていくという謎の行動があった。
クロに聞いてみると自分の匂いをつけたらしい。マーキングとスキンシップだ。本当に猫みたいな種族なんだな。
レベル3地帯をクリアしたところで戦闘経験のない亜人族の三人組はワンコに預ける。
薙刀を見る目が羨望だったので、上手くやっていけるだろう。
ウサミとウサヨはまだまだ行けるらしいのでシロウを護衛につけて行けるところまでいってもらおう。
「おまかせですわ」
「度胆を抜いてやるぜ!」
まあ、大丈夫だろう。
ウサコを俺のパーティに編入し、イッカ、ミコとユウ、西川を加えた6人パーティーで第一層のクリアを目指す。
あ、シルヴィもいるから7人組か。
2時間でレベル10をクリア。
ウサコは戦闘経験があったのでステータス上昇でかなりの戦力になった。スピードよりも一撃の重さを得意とするタイプだ。
途中にレアドロップで魔法の書(回復)をゲットしたので思いきって回復系プラス鈍器使用の神官タイプを勧めてみる。
「うん、わかったよ」
これまたあっさり頷く。
「よろしいのですか? もう少し考えてもいいのですよ?」
さすがに心配になったのかイッカが進言したが、うふふーと笑って返すだけだ。
確かに面倒見が良くて気配り目配りのできるウサコにはピッタリだけれど、ここまで主体性がないと不安になるな。
「私はコーキくんの側にいられるならなんでもいいんだよ」
イッカとミコがピクピクと眉を揺らす。
意外に西川は落ち着いていた。
なんでここまで懐かれているのだろう?
思えば孤児院で意識を戻したときからやけに親切にされているけれど、恋愛感情のようなものは感じないんだよな。どちらかというと姉のような暖かさなのだ。
「目を離せないというか、心配なんだよ」
まんま姉か母親のような顔だ。
イッカとミコもどう反応していいのか困っていた。
西川は察していたのか澄まし顔だ。
第二層にはいる前に、ウサコに魔法書を転写する。生活魔法程度なら1分程度らしい。さすがに回復魔法は一時間ほど時間が必要だった。
迷宮ポイントで回復魔法、治癒を10まで上げると解毒のスキルが解放された。解毒レベル5で解呪が解放。解呪レベル5で完全回復というスキルが解放された。レベル1以上は上げることが出来ない。
解放にはウサコのレベルが関係しているようだ。もしかするとステータスかもしれない。
「完全回復はその名の通り回復魔法スキルです。マイナスをイーブンに戻す効果があります」
部位欠損にも効果があるらしい。
よし、呪い療養中のリッカに会いに行くとしよう。
「リッカ、大事ないですか?」
リッカの住む家を訪れると大きな剣を振るリッカがいた。目に巻いた包帯が痛々しい。
「お? 姉貴か、あと何人かいるみたいだが、医者なら不要だぜ。それとも呪い師か?」
相変わらず不遜で減らず口をたたくやつだ。
「リッカ」
「あん? 聞いたことがねぇ声だな、誰だ? 体もちっちぇな」
声の位置から身長もわかるのだろう。
リッカはにかっと笑う。
これは! 今まで姉にたかるハエのような扱いであった俺がリッカに受け入れられている!
一生正体は伏せておこう。
「初めまして私は兎人族のウサコだよ。今からリッカさんの解呪と目の再生を行うね。そこに座って」
ウサコが声を出すとリッカはお、おうと戸惑いながらもイッカに付き添われて椅子に腰掛ける。
リッカを蝕む呪いとは部位欠損ではなく部位欠損を自然の状態とする完全回復の逆のタイプの類いらしい。
リッカ以外の何人かも別の呪いを受けていて、ポーションにて回復可能の場合でも時間経過と共に症状は元に戻るらしい。
ウサコは解呪スキルを発動。派手なエフェクトも祝詞もない事務的に体が微量発光した程度だ。
続いて完全回復スキルを発動。
「終わったよ」
「なんだ、呆気ないもんだな」
憎まれ口を叩きながらリッカは乱暴に目に巻いていた包帯をとる。
「お、おお、見えるぜ」
恐らく礼を述べようと振り返ったのだろう、だが、ウサコの姿を見て硬直してしまった。
「リッカ、きちんとお礼を言いなさい」
小さい子を叱るお母さんみたいにイッカが弟の不作法に眉を寄せて苦言を呈する。
リッカはそろそろとウサコに近付くと傅いた。ん?
すっと手に持っていた剣の柄をウサコに差し出す。
「なっ」
イッカは絶句した。驚愕の表情から見て何か鬼人族に伝わる儀式の一種なのだろう。
「ウサコと言ったな、オレの剣を捧げる」
なんだか忠誠を誓う騎士のようで格好いいな。リッカのくせに生意気な。
困った顔でウサコが俺を見てくるが首を振る。知らない知らない。
イッカは静かに抜刀する。
なんだなんだ。
「リッカ、主様を愚弄するとは、例え愚かな弟とはいえ許しませんよ」
「姉貴こそいつまで寝言をいってやがる! あいつはもういねえんだよ!」
姉弟喧嘩になってきたぞ。いやイッカさん? リッカが俺を愚弄するなんていつものことですよ?
「二君に仕えるとは不敬な……」
あ、やっぱりその手の儀式だったのか。
姉を睨み付けるリッカはだが眉を寄せる。姉の態度に不審を抱いたようだ。
それから凄まじい眼力で周囲を窺い俺で目を止める。
「てめぇ、やっぱり生きてやがったのか!」
えええ! なんでバレた!
「んなもん姉貴の目の色を見りゃわかんだよ!」
シスコン侮れないな。
「主様を確認したのなら剣をしまいなさい」
「いや、しまわねえよ」
「……」
無言でイッカは殺気を迸らせる。
「勘違いすんじゃねえよ、オレの剣はそういうんじゃねえ、ウサコ、俺と結婚してくれ」
「は?」「は?」「は?」
「うはー。プロポーズとか滾りますね、先輩!」
西川、とりあえず、黙れ。
ウサコを見る。実は知り合いだったとか? 幼馴染みだとか?
ふるふるとウサコは首を振る。
「一目惚れだ」
イッカの殺気も消し飛んでいる。表情はあれだ、いつの間にか弟も大人になったものだという慈愛が浮かんでいる。いやいや。
「突然すぎてアレですけど、お気持ちだけいただいておきます」
ウサコの目は姉を思い出したような呆れた色に染まっている。
「ふん、今日のはただの挨拶だ。俺の気持ちは変わらねえ」
刀を鞘に戻してリッカは立ち上がる。
うん。まあ、一目惚れというからには目は回復したのだろう、良しとしよう。
「それにしてもなんだコーキ、随分小さくなっちまったな」
「一度死んだようなものだからな」
口調が戻ってしまった俺を見てウサコは目をキラキラさせていた。
「てめえなら生き返ってきても不思議じゃないな、しかしそんななりなら姉貴とは釣り合いとれなぇな、ざまあな――」
リッカは言い終わる前に腹に蹴りを受けて壁まで吹っ飛ばされた。
「何かいいましたか? 愚弟」
「ぐふ……さーせんでした」
イッカは眉をピクピクさせていたが澄まし顔だった。
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