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第16話 情報漏洩の兆し


 016


 なんとも言えない空気の中、ドロップアイテムを確認する。

 ひとつだ。レベルの一桁の数と連動か? まあこのまま数が増え続けて50個とかになったら拾うだけで腰が痛くなりそうだったから助かった。


 何故かデカイ鮭だった。

 ぽんっとコミカルな音と共に宝箱が出る。

 中身は未鑑定のネックレスだ。

 毒耐性とか石化耐性とかありそうだな。


 さて、ここからは未体験になるな。一体どこに排出されるのやら。

 景色はいつも通りのマーブル模様だ。

 気がつくと第一層の洞窟前だった。

 なるほど。


「おつかれさまです、一条様。二層攻略も順調にスタートいたしましたね」


 菊千代が飛び跳ねている。こういう姿も久しぶりだ。


 大した成果というほどでもないけどしっかりみんなを労っておく。褒めるときはちゃんと褒めないとな。

 姉妹は嬉しそうにニコニコ笑っている。

 鬼の二人は厳粛な表情だ。

 ドヤ顔の西川も、まあ許すことにする。


「菊千代、次の迷宮が開く時間は?」

「2時間後くらいだと推測します」


 次のレベル×一時間は変わらずか。

 それじゃあ空いている時間で素材集めを兼ねた探索でもするか。

 その前にドロップアイテムの確認と仕分けをしないといけない。例え臨時パーティで仲間が保護するものとか臣下だとしても精算はきっちりと行わないと不和の元だ。


 人間関係は、親しき仲にも礼儀あり、だ。これに尽きる。

 意気込んだところで貴重品は二つだけでそのうちのひとつはデカイ鮭。火のトカゲのドロップ品の山分け話はイッカに丁重に断られた。


 曰く、「臣下のモノは主のモノでございます。なにとぞご容赦ください」と逆に謝られた。

 鬼人族は独自に一層を攻略しているから物資の配給もいらないらしい。


 続いて未鑑定品を鑑定する。


 細い銀の鎖の先に赤く光る宝石の様なものがついているネックレスは、毒耐性と石化耐性100パーセントの効果だ。性能的にはいいものだけど必須ではない。ポーションの節約になるくらいだから微妙と言わざるを得ない。しかもネックレス。女性用に近い。意匠は華やかな何かの植物がモチーフらしい。


「族長、女性用だと思われるので預ける、好きにしてくれ」


 性能を説明すると目を丸くする。


「はっ。しかし、よろしいのですか?」


 少し頬を赤くさせたイッカが恭しく受けとる。

 西川も姉妹たちにも以前にアイテム類は渡しているからいいだろう。

 ギルドの行く末を左右するような代物ではない。結局のところそのアイテムこそがギルドの行く末を左右したのだけどそれはまた別の話だ。


「このような高価なものを下賜していただき、感謝いたします。この武具を鬼の一族の家宝にいたします。それから僭越ではございますが、私のことはイッカとお呼びください」


 いやそこまでのものではないんだけど。呼び方はまあ了解した。

 イッカとシロウは鬼族の見回りに行くと側を離れる。


 入れ替わるように、シャランと音を響かせてお貴族様が近付いてくる。歩くと足首につけた鈴が鳴るようだ。雅だねえ。


「コーキ、首尾はどうなのかな?」

「まだなんとも言えないかな」


 潜りはじめて30分だ、首尾もへったくれもない。


「そっちはどうなんだ?」

「生まれたての精霊と少し話をしたけど、色色と作法が異なっていて一進一退というところだよ」


 何をしているのかさっぱりなので、そうかとだけ返しておく。くくっとお貴族様らしからぬ喉で笑う。


「次は2時間後だから休憩していいぞ」


 手持ち無沙汰の姉妹に声をかけるとこくこくと頷いて歩いていく。

 西川はぐいと体を寄せ、「先輩、後でお話があります」とジト目で俺を睨みつけてから、拗ねたように踵を返して姉妹を追いかけて行った。

 はいはい。イッカに渡したネックレスの件でご立腹のご様子だ。


「あの人族の子らはコーキの子供かい?」

「保護者ではあるけど子供ではないな」

「ふうん。じゃあ、その子は子供なのかい?」


 興味深そうに姉妹を見ていた貴族様は視線を俺に向けて言った。

 その子?


「君の目の前辺りにいる子だよ? いるんだろ?」


 菊千代の事か? まさか、見えるのか? 咄嗟に感情が顔に出たらしい。お貴族様はしてやったりという表情だ。まあ最初から隠すつもりはないのでダメージにはならなかった。ただ信じてもらえないから言わなかっただけだ。十中八九頭がおかしいやつと心配される未来しかイメージできないからな。


「見えてはいないよ、でもいるのは分かる」


 禅問答でもはじめるつもりか。菊千代も驚いている。というか今更だけど、菊千代の外部入力はどうなっているんだ? 俺の五感で捉えたものを共有しているのか? そうでないと今の場面で驚くことはできないよな。


「いえいえ一条様、菊千代の五感は別デバイスですよ。センサーとなるものが迷宮付近で有効なのです」


 つまり迷宮と交信して情報を得ているというのか。まあそれくらいは可能か。やはりこいつ情報をリーク……。

 それはともかく、では、何故お貴族様は気付いたんだ?


「コーキの視線だよ、君はなにかを見ている。たまに語ってもいる。頭のおかしい人なのかと思ったけど、妄想の類いじゃなくて、外的な干渉による……そうだな使い魔のような存在を内に抱えているようだね」


 エスパーか! 慧眼すぎるだろう! 気持ち悪いくらい大した観察眼だな。


「子供、ではないな」

「またあっさりと認めるな君は。大物ではなさそうだからうつけものの類だね」


 失礼なお貴族様の言い様だけど当たっているから文句も言えない。せめて西川ばりに唇を尖らせてやる。


「あはは。なんだい、その顔は。まあ、のんびりやらせてもらうよ」


 愉快げに笑いながらお貴族様も歩いていった。


「迷宮が解放されました」


 菊千代の言葉を聞いて昼寝をしていた体を起こす。

 近くで遊んでいた姉妹が気付き、転がっている西川を起こしている。

 側に控えて戦闘の打ち合わせをしていたイッカとシロウも口をつぐんだ。


「時間だ。いくぞ」


 さて、第二層、レベル2の迷宮攻略スタートだ。


 事前に申請のあったイッカとシロウは回避スキルをふたつ上げて5にしている。元々あった速さに加えてスキルの恩恵は凄まじく、火蜥蜴の炎をあっさり避けて刀で捌いていく。

 複数の属性が混じる中で直接物理攻撃は頼もしい。


 西川の槍さばきも見事なものだ。炎をひらりとよけてショートスピアでちまちまと串刺しにしている。

 後で食べることを考慮しなくていいので楽なのだそうだ。


 俺と姉妹はサポートに徹して大丈夫そうだな。


 予想通り、成長した迷宮のT字路に出る。

 分かれ道で周囲索敵を発動。

 右側に6、左が1?

 俺の戸惑いに西川が首を傾げた。


「先輩、どうかしましたか?」


 残りの4人も目を向けてくる。


「この先なんだが」


 左を指差す。


「索敵しても魔物の数が1しかいない」

「ボスでしょうか?」


 イッカが通路を睨み付ける。


「索敵にかからない魔物の可能性もあるな」


 油断は禁物だ。

 試しに気配察知を行うがなにもなし。

 二層レベル2でボスが2体になっていない限り、通路の先に1体だ、ボスの可能性は高い。


 いずれにしろ、安全を考慮して右側からだ。

 右の通路を進むと所狭しと木が繁っていた。


「森の迷宮ですか?」


 イッカの呟きに説明を求めると、森の木々が自在に動いて侵入者の行く手を阻む森の迷路があるらしい。一本道の両脇に生えていてもな……。


「ユウ、ちょっと前の木に威嚇射撃をしてくれ」

「うん?」


 迷宮の中に生えている木がただの木の訳はない。最悪歩く木の化け物だ。アナライズでみると名前はトレントとなっている。

 ユウの放った鋭い一撃はしかし木に届く前に葉に遮られた。


「ただの木ではなさそうですね」


 イッカが抜刀する。


「火を放つ……のは危ないか、ミコ、風のスキルの試し射ちだ」

「承知しました」


 ミコは手をかざしレベル10風の弾を前方に放つ。

 空気鉄砲のような名前だけど実際はもっとえげつない。圧縮された空気が周囲との気圧差で真空状態を発生させて暴れる鎌鼬のような物理ダメージを与える。


 ユウの時と同様葉で防ごうとしたのか直撃した一本の木は大量に葉を散らせて枝は切れ幹はがズタズタに切り裂かれている。かと思うと急速に枝が伸び葉が繁った。回復力に長けた木らしい。魔物の一種であることはわかったけど攻撃が一切ないのは不可解だな。


 近付いても攻撃はないので進行に邪魔な木は伐採スキルで伐りながら進む。ドロップアイテムが高級木材だ。使い道がないけど格納しておく。まあ別にすべての魔物を倒さなければならないわけでもない。放置しても問題ないだろう。


 その先は行き止りでボスの姿はなかった。

 浅い内はボスは一体なのか?

 イッカとシロウが驚いた顔で俺を見ていた。


「どうかしたか?」

「主様のことです。凄いとは思っていましたが本当に凄いですのね」


 はて? なんのことだかさっぱりだ。


「見ていてください、はっ」


 イッカが壁際に生える木を切りつける。葉が邪魔をして刀が通らない。たまに葉をすり抜けても木の枝で刀が止められる。10合ほどしてイッカは諦めた。


「シロウも同様です」


 それは伐採スキルがあるからなんだけどな。いや普通の木は切られるのを邪魔したりしないし回復もしないからとにかくうっとおしい木だということだな。防御に特化した木の魔物だったらしい。


 つづいて左の攻略だ。


 念の為に索敵を行う。数は変わらず1だ。

 警戒しながら進むも魔物の襲撃はなかった。

 突き当りまで来て皆愕然とする。

 そこには高さ30センチ程の一本の若木……があった。


「ボスですか、先輩」


 西川も呆れ顔だ。

 こいつがボスとか。迷宮イージーモードは相変わらずらしいな。


 そんなことを考えていた時期もありました。



読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただけましたら幸いです。

ブクマ、評価、ありがとうございます。励みになります。

では、失礼しまして。

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感想もお待ちしております。続きを書く励みになります。

よろしくお願いします。

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