第15話 非常識なやつ/呑気なやつ
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迷宮には管理権限を持つ俺の許可がないと進入が出来ない仕様だ。
逆に言うと許可を取り消せば、迷宮から強制的に退去させることが出来る。
闇雲に迷宮だなんてトンデモの類の非常識を他人に漏らさないためにも、ご新規様は外での面会が基本となる。
他種族の使いに走らせた鬼の少年の報告を受けた族長から森の貴族の面会要請を伝えられた俺は、ご老体に相談を持ちかけた。
問題は一点だ。
俺達にとって害悪かどうか。
森の貴族とかいう正体不明の輩を招き入れていいのか知識のない俺では判断が難しい。
「森の貴族は損得という基準で物を計りません。会いたいと申すなら無碍にする事もないでしょう」
ふぉっふおっと笑う柔らかいご老体の態度には特に危機感というものはない。
迷宮という絶対防壁があるのだから心配しすぎるのも非効率だな。
菊千代に頼んで一時的に進入を許可してもらう。
「なるほど、面妖だな」
森の貴族と呼ばれているけど爵位とかはないらしい。萌黄色のチュニック姿の美麗なお貴族様は、迷宮に入るなりそうこぼしてから、ヤハスと名乗った。
声では男なのか女なのか区別はつかない。まあ性別などどうでもいいんだがな。
「それで。ヤハス、用件をうかがおう」
「君の発音は少し特殊だね、コーキ」
しとひの発音が出来ない江戸っ子みたいに話の腰を折ってきたな。
木で作成したシンプルな椅子に優雅に座ると、お貴族様はおもむろに本題に入った俺に苦笑する。
色々と忙しいんだよ勘弁してくれ。
「表意文字文化で育ったものでね。それで、用件は何だ?」
噂通りの長命種だから気が長いのかもしれない。短命種の俺を気の短いお人だと肩をすくめてからお貴族様は優雅に足を組み替えた。
「最近森の精霊の力の流れがおかしくてね、調査をしなければと思っていたところに鬼の子の使者が来たから、気兼ねなくお邪魔させてもらったよ」
あ、精霊っているんだ。力の流れとか専門用語を並べられてもよく分からない。それはそれとして誤解は解いておかないとな。
「残念だけど森の貴族に使者は出していない。勘違いだ」
ご足労だったな。
「方便だよ。細かいねコーキは」
メレンゲのように軽いクスクス笑いを返された。近くにいた鬼人族の娘が顔を赤くしている。
見た目は美男子だからな。
何の妨害があるのか不明だがアナライズスキルはキャンセルされ、名前と年齢以外の情報は文字化けしている。デタラメな迷宮を凌ぐデタラメさだ。非常識な。
残念ながら、白い肌と少しだけ尖り気味の耳だけではこのお貴族様をエルフと断定できない。
常識から外れた彫刻のような美貌は確かに美しいのだが、上手く頭の中で伝達されないな。いまいち理解できない芸術品を鑑賞しているような気分になってくる。
幼い姉妹は、まだまだ異性には興味ないらしく、近くで料理本を眺めているので保護者代わりとしては一安心だ。異性かどうか不明だけどな。
西川は草むらに転がって寝ていた。口閉じろ、バカ。
「疑問はこの迷宮というモノを見せてもらって大体は解消したよ」
「そうかい」
「ああ」
「それで? 用件をうかがおうか?」
「面妖だ」
「面妖?」
「そう、面妖なんだ。このまがい物の森には微弱ながらも精霊の息吹が感じられる。ここが人工物だと言われても否定できないし、だけど納得も出来ない。故に面妖だという言葉を吐き出さざるを得ない」
いい加減付き合うのも疲れてきたぞ。どうしてこのエルフ的な輩は鼻をくくったような話し方と、もってまわった言い回しなんだ?
「だから調査をさせて欲しい」
さらに支離滅裂だなおい。
「調査って、疑問は解消されたんだろう?」
「大体はね」
大体の対義語が何か知らないが全容を解明したわけではないらしい。
「とりあえずこちら側のメリットを提示してくれ。交渉はそれからだ」
「私達森の一族の影響力を最大限使って伝えられるだけの種族に対して声をかけるよ、ここに集まれとね」
唇の端を少しだけ上げた品のある微笑だ。
おお、なんだかすごいカードを切ってきたぞ。
「了解した。交渉成立だ、調査でも何でも好きにしてくれていい」
「へぇ。無条件でいいのかい? それと制限もないのかい?」
「声をかける種族はそこにいる鬼のご老人と協議して決めてくれればいい。条件も特にない。制限は今のところは、そうだな迷宮の第一層の調査に関しては特にない。ただし、敵対行動に出るなら排除する」
貴族様は目を丸くしても様になるな。
「ふふ、コーキは人族だというのに無欲なんだね」
いや欲くらい一人前にあるさ。この世界の常識みたいなものがわからないから欲の相場が分からないだけだ。だから出来の悪い弟を慈しむような目で見るな。
アナライズで見えるヤハスの年齢は550歳だ。想像もつかない長寿だな。まあこいつにしてみれば俺なんて小僧で、年下には違いないんだけどなんかむかつくだろ。
「参考までに同程度の交渉だと人族はどんな要求をしてくるんだ?」
「ふむ、そうだね。長いこと人族との接点はなかったけど、たぶん森の奇跡かな」
ダメだ参考にならない。菊千代に聞こうとしたら目を逸らしやがった。
「次からはそうするよ」
ヤハスの朗らかな鈴が鳴るような笑い声で会談は終了した。
迷宮攻略の準備が整ったので攻略再開だ。
お貴族様は放置でいいだろう。
バカ鬼隊はレベル7の区画を開放したので早速力試しに向うようだ。二人抜けているけど元気なものだ。
建築組は木材メインの物資調達。炊事隊は竈の設置と水場の確保。鬼の族長の隊は副長が指揮をして採掘採取隊となり第一層を調査しながら建築組と協力して物資調達だ。
イッカとシロウがそのまま俺のパーティに残る。
「不束者ですが、引き続き宜しくお願いします」
「……」
相変わらずの二人だった。頼むから一々傅くのをやめてほしい。
広すぎる迷宮をなんとなく眺めながらイッカに案内される。
セーフゾーンにある第二層への入口は3メートルほどの幅があり高さも同程度ある。終盤の第一層の迷宮と同程度の立派さだ。
セーフゾーンに定めたとはいえ、魔物が溢れて出てこないのか心配になる大きさだな。
門番を立てるか、柵で塞ぐか、やることも考えることも山積みだ。
警戒しながら第二層の攻略開始だ。
洞窟ではなく石畳の四角い通路に整備されている。なるほど進化しているな。その分罠とかが巧妙になっていそうだし隠し扉とかありそうだ。
周囲索敵を行う。数は8、詳細は不明だから初見の魔物だ。
迷宮の通路は真っ直ぐに伸びている。これは前と同じだ。
すぐに全長1メ-トル近い爬虫類が見えてくる。赤い舌でシュルシュルと音を立てていた。
デカいトカゲか? 目に見えているだけで5匹いる。
いやいや固まりすぎだよ。道をふさいでいるつもりか?
魔物の落ち着いた様子になんだか違和感を覚えたので全員をハンドサインで俺の後ろに下がらせる。
ゴオッと予備動作無しにトカゲは火を吹いた。爬虫類って無機質で分かりにくいな。
防御スキルで炎を防ぐ。スキルも防げる防御で何よりだ。
レベル5水属性エンチャントをユウの弓に付与する。
意図を理解したユウが矢の嵐を発動した。
矢が20本ずつトカゲに突き刺さる。3匹が弾け飛んだ。
何? 属性が違う種類がいる? 珍しいなと思っている思考を慌てて否定する。いつの間にか第一層の魔物相手のルーチンで頭を回している。危ない危ない、習慣というのは恐ろしいな。
「ミコ、残りは属性が別だ、ファイヤーボールを撃ち込んでみてくれ」
ミコがファイヤーボールを打ち込むと一匹が弾け飛んだ。ステータス上昇のお陰か威力も上がっている。
残り一匹はイッカとシロウが切り伏せた。
久しぶりにレベルが上がる。
→ 一条光輝はレベルアップ Lv.37→Lv.38
西川、姉妹も同様にひとつ上がり、イッカとシロウに到ってはレベル20まで一気に上がった。
とんだパワーレベリングだ。技量もそれなりにある二人だ養殖にはならないからいいけど鬼の一族の中でレベル差による格差が問題になるのが心配だな。それでなくとも戦闘組と非戦闘組のレベル差はどうしても開いてしまっている。
これが普段の生活での出来事なら問題にはしない。戦闘組は命を懸けているのだからレベルの恩恵も受けるべきだろう。だが俺の手伝いをする上で役割分担としてのレベル差なのだからどうしても公平性に欠けてしまう。
仕方ないけど経験値の再分配をするしかない。ギルド上納を全員70%に設定する。とんだ増税策もあったもんだ。
溜まっていた魔物は最初だけであとは単発で2匹が出てきただけだ。
20メートル程進むと洞窟はあっさり行き止まりになり、そこにボスはいた。
頭部に冠上のトサカがある爬虫類だ。足が多いな。体長2メートルはある。
アナライズでの詳細にはバジリスクと出ている。
「あれは、まさかバジリスク!」
イッカは悲鳴に近い声だ。
なにこいつ強力な魔物なのか? トサカのあるトカゲで愛嬌があるんだけど。
西川もどこかウズウズしている。爬虫類は大丈夫らしい。女子らしくないと言えば偏見かもしれないが、こいつが魔物を怖がる姿がどうしても想像できない。
いつもほけっとした雰囲気だからな。
「視線に石化の呪いが備わっているという伝説です。また対処不能の猛毒をその身に宿し、口から吐く炎は全てを溶かすとも伝えられています。爬虫類の王です」
魔物の存在しない世界でも有名なのか。
昔はいたのか?
事前情報が知れて良かった。
これは抗議してもいい場面だな。
「菊千代、さすがに荷が重いぞ? 迷宮にもう少し手加減しろと伝えてくれ」
「いえそんなフィクションの話をされても菊千代困ります」
菊千代は呆れ顔だ。
「スキルとして石化効果のあるモノはありますが状態異常のバッドステータスであって肉体を石に変化させるなんて錬金術はありませんよさすがに。あとなんですか猛毒を身に宿すって……普通に死んでしまいます。何でも溶かす炎なんか吐いたら自分が溶けちゃいますよ」
ファンタジーバリバリの世界で非現実的でばかばかしいと説教されている気分だ。お前が言うな。
「落ち着け族長、あれはそこまでのものじゃないようだぞ?」
「違うのですか?」
「名前はバジリスクだけど正体は不明だ。炎くらいは吐いてくるだろう。毒の付与もあるかもしれない、だが石化は石でコーティングされる程度だ」
怖いバジリスク知識のなかった姉妹はいつも通りだ。俺の言葉を聞き、毒に備えて解毒ポーションの準備をしている。
西川に至っては料理本を眺めている。爬虫類を使用した料理でも探しているのだろう。
呑気な奴だ。
「主様がそうおっしゃるのでしたら」
イッカも落ち着きを取り戻す。
慎重に距離をとったまま対峙する。
頭に危機察知のベルがなる。
「バッドステータス、毒です」
菊千代の声と共に視界が赤く染まる。
無味無臭の毒散布かい。底意地が悪いな。
「一時的にHPが継続減少します」
なるほど。解毒ポーションを鬼の二人に配る。
「びっくり……」
「あ、治りました」
「ダルい……」
「主様のおっしゃるとおりでした、少し見えにくくなる程度の毒でした」
「……」
まずは、毒攻撃か。面食らったところに炎の洗礼かな? 水のエンチャントをかけ直している内に火炎放射機のようなブレスが右から左に薙いできた。
これは厄介だ。
正面は防げてもこの範囲カバーはコスパが悪い。幸い短時間だったので大したダメージではなかったけど。
対策はまあ、あるか。
次は直接攻撃か?
盾を構えたがバジリスクは、はあはあと肩で息をしていた。
……だからさあ、緊張感を大事にしようよ。
「あれは、攻撃の予備動作でしょうか」
構えを解かない臨戦態勢のままイッカが口にする。
いや違うと思うぞ族長。
「なんだか疲れて息を整えているように見えるのですが」
あ、うん。その通りだと思う。
俺はおもむろにダッシュで距離を詰めるとグラディウスでさっくり首を跳ね落とした。
読んでいただきましてありがとうございます。
楽しんでいただけましたら幸いです。
ブクマ、評価、ありがとうございます。励みになります。
誤字報告ありがとうございます。順次訂正しています。お恥ずかしい。
では、失礼しまして。
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