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第14話 迷宮の進化と森の貴族


 014


「暇ですね、先輩」


 迷宮攻略が出来なくなった途端、することがなくなった。

 草むらに寝そべり、ゴロゴロと転がる西川は退屈そうな動物園のパンダのようだ。


 明けても暮れてもダンジョン生活だった反動だろうか?

 時間を無駄にしているのは、偶の休みに何をしていいのか悩んでいるうちに日が暮れてしまった社蓄の如くだ。


 西川は、な。


 残念ながら、俺がそんな定年後に燃え尽きてしまった無趣味の親父のような心境だったのは、精々1時間程度だ。


 鬼の老人の提案で人里の偵察と、可能であれば物資の調達を行いたいと申し出があった。

 金はないが多少の物々交換程度なら交渉できるらしい。角さえ隠せば人となりは変わらないので大丈夫なのだそうだ。

 問題はないので許可をする。


 迷宮が産出しない細かな日用品を手に入れることが主な目的だが、この世界の街や国についての情報も入ってくるなら大歓迎だ。


 少しだけ怯えていた姉妹を西川がよしよしと頭を撫でてハグをしている。

 元奴隷のふたりにとっての街は、話が出るだけでも脅威なのだろう。


 拠点作りのほうも進めないといけない。

 江戸時代の長屋をイメージした建物を計画中だ。材木以外の資源が乏しいのでプラモデルみたいに凹凸をつけて組み合わせていくのでサイズ合わせに時間が掛かる。何気に長さを計るものの存在がこんなに大事だったなんて痛感する。


 新たに作物の栽培や森の動物での畜産計画も立てている。

 迷宮を探索していれば食べ物に困ることはないがバックアップは必要だろう。

 転ばぬ先の杖というやつだ。

 迷宮にはない食べ物が手に入れば言うことは無い。


 そんな物が存在するのか怪しいけどな。


 戦闘面では鬼の技術指導と付随するスキル調整。

 料理レシピ本を開放して皆で料理の研究。

 まとわりついてくる西川をあしらったり。

 姉妹の遊び道具を作ったりと。

 意外に充実しているな、おい。


 24時間なんて、あっという間に過ぎ去っていた。


 迷宮関連の処理にかかりきりで姿を消していた菊千代が現れると、うっとおしい横ピースで朗らかに笑う。


「お待たせいたしました一条様、迷宮が開かれました」


 何をしているわけでもないこのちびっ子は、いったい何が忙しかったんだ? 報告書でも上げてるのか? 謎の多いプログラムだ。


 進化を遂げたと思しき迷宮は明らかに変化していた。


 崖にただ口をあけていた洞窟の姿はなく、立派な門と青銅の扉が荘厳にそびえ立っている。

 おいおい、これは変わりすぎだろう。

 扉自体が高さは3m程もあり幅はその倍はある。


 いやいや、でかければいいってもんじゃないぞ? というかこの扉開くのか? あまりの重量で扉が開かないというオチしか見えてこない。

 しかしそれは杞憂だった。


「一条様、この扉は迷宮が見せる幻でございます。実際は幅と高さが拡張されただけと推測されます」


 なるほど映像のカーテンみたいなものか。

 俺はそのまま扉に向って歩き、何の抵抗もなく扉を越えることが出来た。

 すり抜けているみたいで気持ち悪いけど違和感はない。


 後ろでざわめきが大きくなったような?

 門の前に集まっていた鬼人族達が扉の向こうに消えた俺に驚いているんだろう。

 いきなり門に吸い込まれたら、そりゃ驚くか。


 一旦戻る。


「これは魔法で出来たまやかしだそうだ、気にせずに来たい者はついてこい」


 それだけ告げて扉をくぐる。


 西川が納得顔で、ミコとユウ、イッカが慌てて扉から抜け出てきた。

 バカ鬼も来る。最終的には全員が扉をくぐり、そして、全員が息を呑むことになった。


 道も洞窟だった頃の面影もなく、壁、天井、床が石材でしっかりと組まれた通路に整備されている。所々仄かに光り視界に問題はない。

 心配した魔物の存在もない。


 そして、5メートルも進むと突然視界が広がる。

 それなりに明るかった迷宮内部ではない、外と変わりない照度だ。

 迷宮内部は別の世界になっていた。


「これは……」


 イッカが呆然とした表情で呟く。


 気持ちは分かる。トンネルを抜けるとそこは別世界でしたというフレーズがぴったりの状況なのだ。

 実はさっきの門と扉はただの張りぼてで、潜った先は崖向こうの森でしたと言われた方が納得できる。


 緑の草原があり小高い丘があり木が繁り森になっているところもある。遠くに見えるのは湖か?

 見上げれば青い空もある。太陽に良く似た発光体がある。植物だけではない、動物はいないが魔物らしき姿が遠くに見える。


 先は見通せない程広い。

 唯一外の世界との区別をつけられる点といえば壁があることだ。外界と繋がる通路の出口がある岩肌の壁こそが迷宮の境界線で、遠くまで続いている。

 ここは壁で囲まれた迷宮で異世界だ。


「ここが迷宮の一層となるフィールドです。なお、迷宮一層は進化を完了したため地形などの変化は起こりません」


 菊千代が説明をしてくれるがそのまま聞き流してしまう。


「次なる目標は迷宮第二層へと変更されました」


 第一層は完全攻略、完成されたらしい。

 ここが、昨日までの迷宮だと誰が想像できるよ?

 無数にあった通路の壁をすべて取っ払ってひとつにまとめました、ということだ。リフォーム後のアフターにびっくりだ。


 しかも迷宮内のルールが適用されるならここで自給自足が可能となる。

 迷宮内部と外部の境界線がぼやけてしまう。

 作物の栽培は可能なのかな? 試してみたい。

 それにしても恐るべし迷宮だ。ここが迷宮の中だと感じさせないところが薄ら寒い。


 俺の頭の中にある迷宮だとかダンジョンの常識なんて軽く覆された。

 現実なんてラノベより奇なり、だ。


「主様、あちらに昨日までと同様な入り口が見つかったそうです」


 イッカが恭しく告げる。

 つまり、第二層の迷宮の入り口というわけか?


「いや、そっちは後回しだ。まずは、この第一層を調査しよう。安全が確認でき次第仮拠点の準備をするぞ」


 外と変わらないなら中継地点となる場所にする。


「畏まりました」


 イッカが頭を下げて立ち上がると踵を返す。


 姉妹はポカンと口を開けて佇んでいる。

 西川は早速草むらに転がっていた。シャツに枯れ草が付いているが気持ち良さげだからほっておこう。


 俺も加わった調査の結果は分かりやすいものだった。


 まず第一層の形は円形で直径は約10キロ。距離は実際に端から端までを歩いて計測した。一時間で4キロ前後と錯覚していたけど、ステータス上昇に伴って健脚になっていたらしく一時間もせずに端までたどり着いた。ぐるりと崖で覆われていて天井まで続いているようだ。


 天井は青く発光しているだけで本物の空というわけではないな。太陽も同様だ。実際登ってみたわけではないから確実ではないけど、遠目からは本物と変わらない。


 入り口の門から離れるだけ魔物が強くなり種類が変わる。ある程度縄張りがあるようで地形の変化に併せて区分けされている。

 魔物のトレインが有効か試してみたところ、区分けが変わると付いてこないので、入り口付近は今のところ暫定的にセーフゾーンと定めた。


 後で目印に柵でも立てよう。


 次は木材や鉱石、水の類いだ。

 井戸を掘ってみるのも一興かと思って地面を見ると光っている所が多数ある。地下水脈かな? 安全が確認できたら掘ってみよう。


 川はないが大きめの湖がある。しかし生活圏からは遠い。


 木材は外と同じように伐採できる。鉱石も同様。試しに外に持ち出したが消えてしまうようなことはない。迷宮から離れた場合は試していないが今のところは心配はない。


 後で分かったことだが、木材と鉱石類もリポップする。つまり時間を於いて取り放題だ。

 これだけの潤沢な資源だ、将来的には規制をかけないといけないな。


 動物はいない。いるのは魔物のみだ。

 将来的に畜産を目指すための持込も試してみたい。


 最後に、周囲の壁に4ヵ所、均等に離れた場所に不自然な窪みがあった。おそらくレベル3以降の迷宮の入り口だろう。

 2ヵ所以外はセーフゾーンから外れている。すべて調べればまだ見つかりそうだが先の話だ。


 セーフゾーンは約500メートル四方だ。狭いと見るか広いと見るかは何をここに置くかで決まるな。

 とりあえず、拠点は仮で造ることにして、迷宮の外も平行してある程度は作業を進めよう。何が起こるかわからない砂上の楼閣はごめんだからな。

 別荘感覚でいいだろう。


 さて。

 俺は次の迷宮に挑む前に確認することがあるため、鬼の老人を呼んだ。


「いかがいたしましたかな?」


 ご老体は好好爺な雰囲気になっていてくすぐったいな。

 姉妹が良く懐いているので、見た目は孫と爺様だ。


「ご老体、同族をここに呼び寄せることは可能か?」

「なるほど、主様の言わんとすることはこの爺にもわかりますが、それは難しいでしょう」


 戦力増強は一筋縄ではいかないか。

 今の鬼の一族だと残念ながら数が足りない。いずれ増えるとしても10年単位での長期的視野だ。

 手っ取り早く数を増やすには現状いる仲間を増やすことになる。


 散り散りに存在するであろう同族を探し求めたところで説得その他に相応の時間がかかり、他の種族の妨害もあるらしい。世知辛い世の中だ。

 まあ、俺自身も例えそんな話を持ち込まれても鼻で笑うだけだろうから仕方がない。


「難しいか……」


 あとは、人族から仲間を募るくらいしか方法がないな。しかしリスクが高すぎる。


「しかしながら、同族でなければ比較的楽に数は増やせますぞ?」


 何?


「他の種族か、それは、いいのか?」


 鬼人族的に。


「ええ、主様。森の貴族は無理でしょうが、戦闘能力の低い犬人族や猫人族などは、我らより加護を求めるものが多いですし、何より異種族で協力体制にある場合も多くございます」


 森の貴族とはいわゆるエルフのことらしい。いるんだなエルフ。


「使いをやって呼ぶことは可能か?」

「やってみて損はありますまい」


 結局、迷宮攻略と平行して勧誘もする手筈となり、ふたり1組で2チームが老人の記憶を頼りに探索を行うことになった。


 行程では2週間前後のお使いだ。迷宮で鍛えられているので多数に囲まれたりしなければ大丈夫だと判断しての少数での探索にした。


 スキルについては過信しないことをしっかり伝えている。どの程度まで離れて有効であるのかも調査することになっているので、いざトラブル時に慌てることもないだろう。


 緊張気味の少年少女の健闘を祈ろう。


 でもしかし、その日の内に出発した4人の内、ふたりは数時間後に帰ってきた。


「お邪魔させてもらうよ」


 胡散臭い笑みを浮かべる、森の貴族を連れて。


読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただけましたら幸いです。

ブクマ、評価、ありがとうございます。励みになります。

では、失礼しまして。

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感想もお待ちしております。続きを書く励みになります。

よろしくお願いします。

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