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創星のレクイエム  作者: 有永 ナギサ
2章 第4部 手に入れた力

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78話 福音島

  陣、ルシア、セナの三人はモータボートで、ロストポイントである福音(ふくいん)(じま)に上陸。それからアンドレーがいるであろう、島の奥へと足を踏み入れていた。

 福音島の空は赤黒い雲におおわれ、時々雷が鳴り響いている。島内部は木々や植物のほとんどが枯れかけており、地面のいたるところに亀裂やクレーターが。さらに空気自体が非常に重々しく、立ちこめるあまりの得体のしれない圧に背筋が凍るどころの話ではない。常人ならばものの数分で気が狂い、魔道に慣れ親しんだ者でも長居ながいするのは非常に危険なレベルであった。

 この福音島行くには、こうやって海上から向かう方法。それか神代(かみしろ)特区から福音島に()けられている巨大な橋を、渡るのが一般的。だが橋を通るルートには星葬機構の検問所が設置されており、許可が下りなければ入れなかった。


「ねぇ、じんお兄ちゃん、セナ、なんだか気分がわるくなってきたよぉ。ここちょっとおかしくないー?」


 どこもかしくも枯れかけた木々の中を歩いていると、セナがぐったりうなだれながらうったえてきた。


「ここは世界でもっとも汚染度が高いロストポイントだから、仕方ないな。普通の人はもちろん、創星術師でさえ近づきたくないって言われるぐらいだし」


 この福音島はパラダイスロスト事件の中心地とされる場所。ここでレーヴェンガルトがなにか大規模的な儀式をしていたらしく、その影響のせいで世界最大のロストポイントになるほど汚染されているのだ。

 そのレベルは神代特区旧市街よりもはるかに上。いるだけで星を過剰に活性化させ、創星術師の正気を奪っていくほど。もはやここでの星の同調作業は、自殺行為と言われるぐらいだ。なので常人はもちろん、ロストポイントを好む創星術師でさえ近づきたくない場所なのである。


「本来汚染度の高いロストポイントほど、星詠(ほしよ)みの求道に適しているといわれています。ですがここは話が別。あまりに濃すぎるせいで星が活性化しすぎ、同調どころではなくなるんですよ。そのため創星術師が福音島で長いをするのは、危険なんです」

「ふむ、セナを連れてきたのはやっぱりまずかったか。福音島の問題は聞いていたが、ここまでひどいものだったとは」


 陣でさえ、ここの汚染具合に少しダメージをおっているほど。ゆえに実際の創星術師のセナの負担は、相当なものだろう。ここは彼女の安全を優先し、浜辺のほうで待っていてもらうべきかもしれない。内陸部に行くほど、この汚染レベルも上がっていくゆえに。


「セナは大丈夫だよぉ。星がいつもよりざわついて落ち着かないけど、これぐらいなら半日は耐えられるもん。それよりルシアちゃんのほうが」


 セナは力強く顔を上げ、小さくガッツポーズを。そしてルシアの方を心配そうに見つめた。


「うん? そういえばルシア、顔色があまりよくないように見えるな。きつかったら戻っていいんだぞ?」


 よく見てみるとルシアの顔色があまりすぐれていない様子。なんだかこのまま進むと倒れてしまいそうな勢いだ。見た感じ、セナより重傷なのは間違いない。


「いえ、ご心配なく。なれない空気にあてられ、少し気分がすぐれないだけです。この程度、任務に支障はありません」


 胸を押さえながらも、軽くほほえむルシア。

 苦しそうではあるが、本人はまだまだがんばるつもりらしい。


「無茶だけはするなよ」

「――はぁ……、もう少し景色がよければ、ハイキング気分を味わえて楽しいのになぁ。

こうも殺伐(さつばつ)となってくると、汚染とは別で気分が滅入(めい)ってくるよぉ」


 セナは周りの景色を見まわし、がっくり肩を落とす。

 彼女の言い分もわかる。実際周りの木々のほとんどは枯れかけており、中には完全に荒廃した木たちも。生物はまったく見られず、地面は見ただけでわかるほど荒れ果てているのだ。しかも空は赤黒い雲に覆われているため、不気味さがきわだっていた。


「福音島の中心部に行くにつれて、ひどくなっていくらしいですね。植物は枯れ果て、地面にはいたるところに亀裂(きれつ)が。もはや死んだ大地状態になっていくとか」

「うー、緑の木々やお花が恋しくなってきたぁ……。じんお兄ちゃん、これがおわったら、みんなでピクニックに行こうよぉ! セナ、お花畑があるところがいいなぁ!」


 セナは陣の上着のそでをクイクイひっぱりながら、ねだってくる。


「――まあ、それくらいなら付きやってやってもいいが」


 こんなところまで付き合わせたのだから、それぐらいのご褒美はあげるべきだ。幸いまだ春休み。少しぐらい遠出も普通にできるだろう。


「やったー! 約束だよぉ! じんお兄ちゃん! 帰ったらさっそくみんなに連絡いれなきゃー! ルシアちゃんはいつがいい?」


 ぴょんぴょん飛び跳ねながら、目をキラキラさせるセナ。そしてルシアにガバッと抱き着き、はしゃぎ気味にたずねだす。


「ワタシも呼んでいただけるのですか?」

「もちろんだよぉ! あと、おやつとかも一緒に買いに行こう!」

「うふふ、わかりました。では、お言葉に甘えて」

(――へえ、ルシアもあんな顔できるんだな……)


 楽しげにおしゃべりする二人を見ながら、ふと思う。

 というのも今のルシアは、歳相応の女の子のように笑っていたのだ。これまでのエージェントとしての大人びた彼女しか見ていなかったため、かなり新鮮であった。


「ははは、はしゃぐのはあとでな。もうすぐ敵と遭遇(そうぐう)するはずだから、気を引き締めていけ」

「はーい!」

「はい」


 陣の注意に、二人は気を引き締める。


「陣さん、アンドレーとの距離は、あとどのぐらいですか?」

「そうだな。かなり近いと思うが、もう一回確認してみるか」


 陣はサイファス・フォルトナーの疑似恒星を取り出し、意識を集中した。

 この疑似恒星とアンドレーは、同じサイファス・フォルトナーの星。そのため彼の居場所をなんとなく把握(はあく)することができるのであった。


「ッ!?」


 しかし突然異変が起こり、思わずひざをついてしまう。


「陣さん!?」

「じんお兄ちゃん、大丈夫!?」

「――ああ……、このじゃじゃ馬が、暴れそうになっただけだ。もう抑え込んだよ、――これもアンドレーが近いからなのか、それともこの場所に反応しているのか……」


 駆け寄ろうとする二人を、手で制す。

 なにが起こったかというと、あふれそうになった力をすんでのところで押さえこんだのであった。

 どうやらこの福音島に来てから、サイファス・フォルトナーの疑似恒星が過剰な反応をしているみたいなのだ。中の星が脈打ち、活性化を続けている。もし下手に触れるとそのまま押さえきれなくなり、力が暴発してしまう恐れも。かなり不安定な状況といってよかった。


「いや、今は考察してるヒマはないな……。――あともう少しのはずだから、このまま」


 思うことはいろいろあるが、どの道考えても答えは出そうにない。

 なので先を進もうとうながしていると、進行方向から声が。


「わるいが、ここを通すわけにはいかぬよ」

「ッ!? その声はグレゴリオ大司教!?」


 視線を向けると、そこにはいつの間にかグレゴリオがいた。


「アンドレーはもう限界だ。完全に暴走するまで、彼のしたいようにさせるのが我が役目。ゆえにお引き取りいただこうか」

「ッ!? すごい重圧だ!?」


 グレゴリオは自身の星詠みを発動しようと。

するとその輝きの余波があたり一帯に重くのしかかった。どうやら向こうは全力で足止めをしてくる気らしい。

 実は彼のような星魔教の狂信者の中にも、創星術師がいるのはよく耳にすることなのだ。創星術師を守る力を手に入れるため、星詠みに手を出す狂信者。自身では最果てにたどり着けないとさとり、ほかの見込みのある創星術師に力を貸そうとする者など。そういった経緯を持つ者たちも、多く在籍(ざいせき)しているそうだ。


「じんお兄ちゃん、この人の相手はセナがするよぉ」


 これはまずいと思っていると、後方からグレゴリオにも劣らない星の余波が。

 その発生源はセナ。彼女は蓮杖(れんじょう)()の星詠みで、臨戦態勢をとっていたのだ。


「ほう、キミは確か蓮杖セナくんだったかな。ククク、さすがは蓮杖の星詠み! 素晴らしい輝きじゃないか!」


 グレゴリオ大司教は声高らかにほめたたえる。

 彼は星魔教信者ゆえ、やはりすぐれた星詠みには過剰に反応してしまうようだ。


「ルシア、セナの援護を頼めるか?」


 セナの力量は知っているが、さすがに相手が相手。ゆえにルシアにも加勢してもらうことにする。


「わかりました。ここはワタシたちに任せてアンドレーのもとへ。グレゴリオ大司教がもう出向いてきたということは、おそらくレーヴェンガルト側の戦力はいないとみていいでしょう」


 ルシアはセナの横に並び、臨戦態勢を。


「わかった。二人とも無茶はするなよ」


 二人にこの場を任せ、陣はグレゴリオの横を通り抜けようと駆ける。

 なにか妨害してくると思いきや、彼はセナとルシアを見詰めたまま。これなら普通に先へ進めそうだ。


「――少年、アンドレーのこと、頼んだぞ」


 グレゴリオとすれ違いざまに、彼が言葉を投げかけてくる。

 もしかすると初めから、陣だけは通してくれる気だったのかもしれない。そんなことを思いつつ、アンドレーがいる場所へ向かって走るのであった。






「アンドレー」


 あれから陣は森を抜け、荒廃した(ひら)けた大地へ。地面はいたるところに亀裂きれつが走っており、植物は完全に枯れ果てていた。もはや死んだ大地といっていいぐらいである。そして島の中心部へ進めば進むほど襲ってくる、得体のしれない感覚。人としての本能が、この先はまずいと警報を鳴らしてくるのだ。早く引き返さないと、取り返しのつかないことになると。それでも陣は活性化し脈打つサイファス・フォルトナーの疑似恒星をにぎりしめながら、前へと。

 すると進行方向の先に、アンドレーの後ろ姿が。彼は一人たたずみ、赤黒い雲におおわれた不気味な空を見上げていた。


「――来やがったか……」


 振り返ったアンドレーを見て、彼がもう限界なのをさとる。

 すでに彼の星は完全に爆発寸前。あふれんばかりの星の余波が、()れ出している。いつ暴走して理性を失ってもおかしくない状況だ。


「暴走間近のあんたを、これ以上野放しにするわけにはいかない。神代特区に被害が出る前に、排除させてもらうぞ」

「くはは、わるいがまだおわれねーんだ! この身体が()ちる前にもっと、魔道の深淵(しんえん)に! 誰も見たことないさらに先へ! それでないと死にきれねー! だからそう簡単にやらせはしねえぞ!」


 アンドレーはふらつきながらも陣をにらみ、咆哮(ほうこう)を上げる。


(そんな状態になってもまだ求道を……。――いや、創星術師なら当然か……)


 死に際でも魔道に執着するその生きざまに、もはや感嘆するしかない。


「ほんと大した男だよ。さすがはサイファス・フォルトナーの疑似恒星の、元所有者だな。だがもうここでおわりだ。せめてあんたのあとを継ぐオレが、引導(いんどう)を渡してやる。覚悟しろ! アンドレー・ローラント!」


 陣は彼に敬意を示し、サイファス・フォルトナーの疑似恒星をにぎりしめる。そしてマナを注ぎ星詠みの起動を。

 対するアンドレーもみずからの恒星(こうせい)を解き放ち、星詠みを。

 そして両者、同時に地を()り激突。決戦の火ぶたが切って落とされた。




次回 灯里の選択

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