表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創星のレクイエム  作者: 有永 ナギサ
2章 第4部 手に入れた力

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/114

77話 奈月の想い

「陣さん、お待ちしておりました。福音(ふくいん)(じま)に行く準備はすでに万全ですよ」


 着いてそうそう、ルシアがうやうやしく頭を下げて報告してくれる。

 ここは神代(かみしろ)特区の福音島が見える海岸沿い。福音島の上空付近だけ赤黒い雲におおわれており、得体のしれない圧を発していた。そして海沿いの方には、奈月が手配してくれたなかなか立派なモーターボートが。どうやらこれを使って福音島に向かうみたいだ。それはいいのだが一つ問題が。この場所にいるのはルシアと奈月。それとあともう一人。


「おう、ご苦労さん、じゃあ、さっさと乗り込んでと言いたいところだが、なんでここにセナがいるんだ?」

「えへへ、そんなのじんお兄ちゃんの手助けをするために、決まってるよぉ!」


 セナは両手でガッツポーズしながら、満面の笑みで答えてくる。


「――手助けって……、おい、奈月」

「仕方ないでしょ。事務所でいろいろ準備してたら、セナが来ちゃったんだもの。帰そうとしたけど、なにかあると感づかれてごらんのとおり。無理やりついてきちゃったわ」


 陣の追及に、奈月は肩をすくめながら目をふせる。


「じんお兄ちゃんの一大事なんだもん! 妹分として、駆けつけないわけにはいかないよぉ!」


 両腰に手を当てえっへんと胸を張るセナ。


「この状態のセナを言い聞かせるのは、骨が折れすぎるわ。ならいっそのこと、力を貸してもらいましょう。戦力としては申し分ないでしょ?」


 奈月は後ろからセナの両肩に手を置き、彼女の意思を尊重する。 


「そりゃな。だけどアンドレーとは一対一でやりたいから、横やりはごめんなんだが」

「梅雨払いを頼めばいいじゃない。向こうは一人だと限らないんだし」

「奈月さんに同感です。向こうはグレゴリオ大司教はもちろん、下手すればレーヴェンガルト側の人間がいるかもしれません。彼とサシで戦うつもりなら、戦力が多いのに越したことはないと思われますが?」


 確かに彼女たちの言い分はもっともだ。

 陣としてはアンドレーと一騎打ちをしたいが、向こうの戦力がそれを邪魔してくる可能性は十分ある。ルシアが事前に得た情報によると、現在グレゴリオはアンドレーに付き添っているとのこと。それだけでも厄介なのだが、グレゴリオがレーヴェンガルト側に増援を呼んでいる可能性も。なので梅雨払いの戦力は、陣にとって非常にありがたかった。


「――はぁ……、わかった。頼むぞ、セナ」

「うん! 任せてよぉ! セナの星詠(ほしよ)みで、じんお兄ちゃんの邪魔をする奴らをなぎ倒してみせるからぁ!」


 セナは手をバッと前に突き出し、得意げにウィンクしてくる。

 彼女は蓮杖(れんじょう)家の星詠みを受け継いだ創星術師。ゆえに戦力としてはそこいらの断罪者を、軽く(しのぐ腕をもっているといっていい。よって危険にさらすのは心苦しいが、人選としてはわるくないチョイスであった。


「じゃあ、セナ、ルシアさん、陣のことお願いね」

「はーい!」

「お任せください。では、みなさんボートへ乗り込んでください」


 セナとルシアは奈月に(こた)え、ボートに乗り込んでいく。


「そうか。奈月は来ないんだな」

「ええ、今、星葬機構が福音島の異変を察知して、乗り込もうとしてるみたいなの。だからアタシはクロノス側の調査班をひきいて、少しばかり時間稼ぎしてくるわ」


 そのことは懸念していたことの一つ。この福音島の異変に、星葬機構がだまっているはずがないのだ。すぐにでも事態を収拾しようと、戦力と調査班を送り込んでくるのは明白。結果、アンドレーとの一騎打ち中に、横やりを入れてくる可能性が。なので足止めはぜひともやってもらいたいことであった。


「おっ、助かる。星葬機構に乱入されたら、めちゃくちゃもいいところだしな。じゃあ、行ってくる」


 彼女に星葬機構を任せ、陣もボートに乗り込もうと。

 だがそこへ奈月が陣の上着の袖をぎゅっとつかんできた。


「――陣……」

「――ん? どうした? そんな不安そうな顔して」


 立ち止まり振り向くと、奈月の表情には陰りが。まるでもう陣とは、会えないと言いたげな雰囲気を。


「――だって陣が遠くへ行ってしまう気がしたから……」


 悲痛げに目をふせながら、消え入りそうな声でつぶやいてくる奈月。


「おいおい、オレが奈月を放ってどこかにいくと思ってるのか?」

「あら、アタシの付き人を辞めて、どっかにいったのはどこの誰だったかしらね」


 大げさに肩をすくめると、奈月がジト目でツッコミを入れてくる。

 それを言われると、もはや笑ってごまかすしかなかった。


「――ははは……、そんなこともあったっけな……。――まあ、なんだ。そうそういなくなったりはしないから、安心しとけ。というか奈月なら、オレがどこに行こうとも連れ戻しにくるだろ? 神楽(かぐら)さん並みの、強欲さがあるんだし」

「そうね。アタシの手から、大切なものが(こぼ)れ落ちるなんて到底認められないわ。なにがなんでも守り通してみせる。たとえ誰が相手だろうと、奪わせたりなんてしない」


 奈月は右手を天高く(かか)げ、ぐっとにぎりしめる。そこには彼女の揺るがない強い意志が見てとれた。


「――だけどね、陣。あなたは例外なのよ」


 そんな信念に満ちあふれた彼女であったが、ふとはかなげにほほえみ告白を。


「え? どういうことだ?」

「初めて会ったとき、あなただけはアタシの手からすり抜けてしまうだろうなって、感づいていたの。きっと彼はアタシの手に()える存在じゃない。だからどうあがいても、いづれいなくなってしまうはずと……。――くす、まさかこの強欲さにも、あきらめるものがあるだなんて驚きだったわ」


 奈月は陣の胸板に手を当て、切なげに目をふせる。そして心底おかしそうに、感慨深く笑った。


「だからずっと覚悟はしてたの。あなたがふと消えても、仕方のないことだってね」

「――奈月……」

「気にやまなくていいわ。そのことをわかってて、アタシは陣を誘ったんだもの。いづれ失うとわかっていても、それでもほしかったから……」


 予想外の告白に戸惑っていると、奈月が胸をぎゅっと押さえいとおしそうに見つめてくる。


「くす、まあ、なにはともあれ、その時が来るまで陣は、アタシの付き人だということを忘れないようにね! いっぱいこき使って、楽させてもらうんだから!」


 そんなどこかしんみりしていた奈月であったが、いつもの凛とした雰囲気に。そして陣の顔をのぞきこみながら、いたずらっぽくウィンクを。


「武運を祈ってるわ。いってらっしゃい、陣」


 奈月は陣の肩に手を置き、にっこり笑いながらエールを送る。そして彼女自身も行動を開始するため、この場を去っていくのであった。






次回 福音島

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ