39話 サイファス・フォルトナーの遺産
陣は一人コンビニ前で、灯里が買い物を終えるのを待っていた。
セナたちと別れしばらくまた歩き回っていると、灯里が休憩ということでコンビニに直行してしまったという。窓越しから灯里がなにを買おうか迷っているのが見える。この様子だともうしばらく時間が掛かることだろう。
そんな中陣は視線の先にある人物を見つけ、話しかけに。
「なあ、リル。今この神代特区で、ヤバイことが起こってるそうなんだがわかるか?」
声をかけに行ったのは先程も会った少女、リル。
なんと気付けば彼女が、道沿いに植えられている木の下で立っていたのだ。
「ジンくん、急にどうしたのかな?」
「ほんとかどうかは知らんが、今その情報を持ってるやつと一緒に調査してるところなんだ。一応、リルはただ者じゃないみたいだし、なにか知ってるんじゃないかと思ってな」
進展は今だなし。灯里に聞いてもくわしく教えてくれないため、正直ガセ情報なのではと思っていたところ。なのでその系統に詳しそうな謎の少女に、たずねてみたのである。
「ふふっ、そうだねー。教えてあげてもいいけど、ジンくんからしてみれば知らない方がいいかもしれないんだよ。さっきも言ったけど、本当に手遅れになってしまうから」
するとリルはほおにポンポン指を当てながら、意味ありげに笑ってくる。。
驚くことに彼女はこの件について、なにか知っているようだ。
「そんな気遣いはいい。なにか知ってるなら、とにかく教えろ」
「お姉さんの忠告、ちゃんと聞いたほうがいいと思うけどなー。まあ、いいか。そっちの方がわたしにとっても都合がいいし。うん、わかったんだよ。まずその情報だけど、本当のことだね。今この神代特区内で災厄が起ころうとしてる」
陣が急かすと、リルは少し考えてから口を開いた。
「半信半疑だったが、マジ情報なのか?」
「大マジだよ。ジンくんは、擬似恒星を知ってるかな?」
「ああ、物質に創星術師の魂の一部を埋め込んだ、魔具のことだろ?」
「うん、恒星と化した魂の一部を組みこんでるがゆえに、術者の星の輝きに染まりきった魔具。それが擬似恒星」
擬似恒星とは創星術師が星詠みを求道するにあたり、非常に役に立つアイテムのことを指す。その形は様々、アクセサリーや武器などなんでもあり。創星術師が自身の擬似恒星にしたい物で決まるのだ。
この擬似恒星の特別なところは、なんと創星術師の魂の一部を組み込んでいるということ。これにより擬似恒星は魂の、正確には輝く恒星の影響をもろに受け存在そのものが書き換わっているのだ。その創星術師の星と同位の存在として。
ちなみに擬似恒星だが、創星術師ならば誰もが必ずしも持っているわけではない。というのも工程が少し複雑なこともあり、魔道を極めているある程度の熟練した創星術師しか作れないからだ。あと擬似恒星のもととなるアイテムだが、ロストポイントにあるような異質色に染まった物質の方が、その効力を高く発揮するらしい。なのでそういった代物は、創星術師の間で高値で取引されるといってよかった。
「擬似恒星は主に創星術師が星詠み使用時の安定性や、求道する時の同調律を上げるときに使われるんだよ。なんたって恒星と化した魂は、本来人の手に負えない代物。じかにつながると、どうしても暴走するリスクが出てしまう。だから創星術師は安全のため、擬似恒星を仲介して間接的に自身の星とリンクするんだよね」
自身の魂を、一つの恒星というスケールのでかすぎる存在に書き換えているのだ。よっていくら凄腕の創星術師でも、完全に制御するのは不可能。常に暴走する危険性と、向き合わなければならない。
そのリスクを下げるのに効果的なのが擬似恒星。直接ではなく、間に仲介を通し間接的につながることで安全にみずからの星を操作するのである。ようは大本の源泉内だと、膨大すぎる力の本流のせいで呑まれがちになってしまう。ならば少し離れた位置から操作すれば、自分を見失わずその分負担も減らせるという理屈だ。これは擬似恒星と、創星術師の星の性質が同じであるがゆえにできる裏技。その過程上星詠みや同調の効率は少し落ちるが、暴走するリスクをかなり下げられるのであった。
「しかも擬似恒星の驚くべきことは、持ち主が死んでもそのあり方が失われないこと。だからもし同調することができれば、その創星術師の星詠みを限定的に行使することができてしまうんだよ」
擬似恒星の効果は、所有者の星の安定性や洞調律を上げるだけではない。擬似恒星もまた、規模は弱いながらも一つの恒星そのもの。ということは当然その輝き、概念で世界を塗り潰すことができるのだ。つまるところ本来の所有者である創星術師でなくても、その擬似恒星の星の輝きを行使することが可能なのであった。
ようは擬似恒星があれば、誰でも星詠みが使えることにほかならない。魔法の発動は色と形をさだめた核を生成し、最後にマナを注ぐだけ。もう核によって方向性は決まっているため、あとは自動で望んた通りの魔法ができるという理屈だ。そう、誰でも星詠みが使えるのはこれと同じ原理。星詠みの核は擬似恒星そのもの。ゆえにそこにマナを注ぎさえすれば、いくらでも星詠みを行使することができるのである。
ただ星詠みを行使するにあたり、擬似恒星で行使するのと、創星術師がじかに自身の星で行使するのでは当然後者の方が出力が上なのだが。
「ああ、だから星魔教はもちろん、星葬機構も星詠みの拡散や戦力増強のため必死に集めてるとかよく聞く話だ。オレもよくそういった依頼を受けることがあるしな」
「えっと、擬似恒星のおさらいはこんなものでいいかな。じゃあ、お待ちかねの本題なんだよ」
「おっ、いよいよか。といっても話の流れ的に、大体予想がつくがな」
「うん、ジンくんの想像通りかな。実はね、今、すごい大物の擬似恒星がこの神代特区にあるの」
よほど深刻な事態なのか、表情に陰りをみせるリル。
「やっぱりか。それでその擬似恒星の元の所有者は誰なんだ? 問題視してるってことは、相当名の知れた創星術師のなんだろ? ははは、まさかあのレーヴェンガルトの血筋の、擬似恒星とか言わないよな?」
「ふふっ、もっと上だね。なんたってあの人は星詠みを生み、今の世界の根底を創ったすべての元凶。もはや魔道を志す者なら、誰もが知ってるであろう人物。そう、その名はサイファス・フォルトナー」
リルは畏怖の念を込めながら、どこか芝居がかったように告げる。
「は? あのサイファス・フォルトナーだと?」
あまりの衝撃的な名前に、度肝を抜かれるしかない。
サイファス・フォルトナーとは魔道に携わる者なら、だれでも知っているであろうビッグネーム。それもそのはず星詠みの生みの親で、星の祝祭と呼ばれる大事件を引き起こした張本人なのだから。
「ははは、それはやばいどころの話じゃないな……。星葬機構が聞きつければ、全勢力を引きつれてでも破壊しに来るレベルだろ? それでその擬似恒星に所有者はいるのか?」「うん、そこが今回の一番の問題なんだよ。その人物がまだ擬似恒星で星詠みを行使するだけの、創星使いならよかった。でも……」
擬似恒星を使い、星詠みを行使する者たちを創星使いと呼ぶ。
創星使いになるには、まず創星術師の遺産である擬似恒星を手に入れることから始まる。それさえできればあとは相性の問題。魔法の素質やその星の輝きとの同調レベルで、どれだけその星詠みの出力を上げられるかが決まるのであった。
この創星使いは創星術師と違って、自身の魂を恒星に変えていない。ゆえに暴走する心配がほとんどなく、安定してその力を使える。ゆえに葬星機構が創星術師に対抗するため、戦力として創星使いの兵士を使うというのはよく聞く話なのだ。あの星海学園の学園長である春風栞も、この戦闘スタイルという。
「あろうことかその人物はサイファス・フォルトナーの擬似恒星と完全に同調して、みずからの魂を彼と同じ星にしてしまった。だからもうその人物は創星使いじゃなく、本物の創星術師に」
これが星魔教や創星機構が、血眼になった擬似恒星を探す理由でもあるのだ。 擬似恒星は規模は小さいが、一つの恒星といっていい。ならばこの恒星に自身の魂を同調させ、密接につながったらどうなるのか。答えは普通の魂がその星の輝き、概念に染め上げられ存在が書き換わってしまう。つまり擬似恒星の本来の所有者である創星術師と、同じ星を持つ創星術師になることにほかならない。そのためおのずと同じ星詠みを行使できるというわけだ。
となれば創星術師を増やしたい星魔教。これ以上創星術師を生みだしたくない星葬機構。この両陣営が己が目的のため、擬似恒星を奪いあうのは必然というもの。なのでよく擬似恒星をめぐって激突していた。
「つまりサイファス・フォルトナーと、同じ星の創星術師が生まれたというわけか……。クッ、先を越された……」
「ジンくん、あれに手を出すのはやめておいた方がいいよ。サイファス・フォルトナーの星の輝きは、尋常じゃない。いくらキミでも耐え切れないほどに」
陣の悔しがる姿を見て、リルは深刻そうに目をふせてさとしてくる。
星詠みの生みの親であるサイファス・フォルトナー。しかも彼は星詠みの最果てにまでたどり着いたとウワサされていた。そんな人物の擬似恒星が普通であるはずがない。リルの言う通り、下手すればそのあまりの星の輝きに身を焼かれてしまうかもしれないのだ。だが陣はそれがどうしたといわんばかりに、不敵に笑った。
「ははは、おもしれーじゃないか。オレはそういうのを求めてたんだ。自分の力でも手に負えないほど、狂い狂った輝きをな」
果てしない空へと手を伸ばし、グッと拳にぎる。
「ほんとおすすめしないんだけどなー。現に今の所有者も、暴走の一歩手前。このままだと近い内に、災厄をまき散らすだろうね」
この前の暴走した少年のことを思い出す。あれはロストポイントの廃墟街だったため、被害はほとんどなかった。だがもしこんな人々がにぎわう街中で暴れ始めたらどうなるか。おそらく手当たり次第に星詠みを行使し、なにもかも破壊し尽くすはず。その結果、起こる被害はどれほどになってしまうのだろうか。考えるだけでも恐ろしかった。
「なるほど、それが灯里の言ってたことか。――というか灯里もそうだが、リルもどうしてそんなことがわかるんだ? サイファス・フォルトナーの擬似恒星の話はまだわかったとしても、その創星術師が暴走しかけだなんて」
「それはわたしの特性上、――あ、ううん、乙女の勘かな?」
リルはなにか大事なことを口走ろうとするが、すぐに気づき口元を両手で押さえる。そしてかわいらしくウィンクしながら、言いかえてきた。
「おい、ごまかすなよ」
「――えっへへ……、あ! あの子がジンくんを探してるんだよ! 早く迎えに行ってあげないと!」
視線をそらし困った笑みを浮かべていたリルであったが、ふと見つけた灯里を指さし提案を。
「灯里のことか?」
後方を振り返ると、コンビニ前できょろきょろ見回している灯里の姿が。どうやら買い物をおえ、陣を探しているらしい。
「それよりも今は……、――はぁ……、いないか……」
再びリルの方に視線を向けるが、すでにそこには誰もいないのであった。
次回 灯里の謎




