21話 カーティス神父
教会の奥へと進んでいき、とある執務室へとたどり着いた。ここに目的の人物がいるため、陣たちは扉に手をかけ部屋へと入る。
中はいたって普通の執務室。作業用のディスクに、来客用のソファー。あと複数ある棚には、たくさんの本が敷き詰められている。そのほかにはあまり特徴のない、質素な一室であった。
「これは奈月さん、ご無沙汰しています」
すると一人の神父が席から立ち上がり、恭しくお辞儀を。
三十代前半で物腰が柔らかそうな男の名前は、カーティス・ノイマン。星魔教の信者の中でも、かなり上位に位置する神父である。陣たちとは共に神代特区の防衛を行う仲であった。
「それと陣さんも。こちらが回す仕事をたびたびこなしていただき、本当に助かってますよ」
「どうも、また面白そうな案件があれば、いつでも連絡してもらって結構ですよ」
彼には神楽同様、星詠みがらみの面白い仕事がある時よく依頼を回してもらっているのだ。星魔教といえば創星術師の巣窟。仕事をこなしながら興味深いものを多々見れるため、陣としては非常にありがたいといっていい。
「カーティス神父。レイヴァース当主が乗り込んでくるけど、そちら方はどうなのかしら?」
「そうですね。学園の方はいろいろ口出しされそうですが、そこまで深刻なことにはならないでしょう。奈月さんにがんばっていただければ、より被害を押さえられるはずですしね」
カーティスはアゴに手を当てながら、自身の考えをかたる。そして最後にニヤリと笑いながら、奈月に意味ありげな視線を向けた。
「カーティス神父も、栞さんと同じようなことを言うのね。まあ、期待に応えられるように、やれるだけのことはやってみるわ。ほんと、これだけがんばらされてるんだから、すべてが丸く収まったら、最高勲章なみのものをもらいたいものよ」
奈月はやれやれと肩をすくめながらも了承を。
事実、神代家次期当主である神楽の下で、一番働いているのは奈月なのだ。彼女はいわば神楽の右腕。彼女の代理の意もかねて、あちこち飛び周り役目をこなしている。なのでこうして神楽の代わりに、栞やカーティスのような代表者と会談するのも日常茶飯事であった。
「そうしてもらえるよう、神楽さんにこちらから打診しておきますよ。それであとは星魔の方ですが、こちらも少し動きが制限される程度で済む思います。奈月さんたちクロノス
の庇護下のもとにあるのはもちろん、星魔教がこれまで築いてきたコミュニティもある。いくら星葬機構といえど、そう簡単に手出しはさせませんよ」
カーティスは不敵に笑いながら、現状を報告してくれる。
「ははは、今や星魔教のバックもクロノスみたいにすごいですもんね。財閥を仕切る信者たちのおかげで隠れ蓑はもちろん、経済的力まで」
実のところ星魔教もクロノスと同じく、隠れ蓑となる企業や財閥が多数あるのだ。そのラインのおかげで、資金や人材、社会的つながりや権力といった様々な恩恵が得られている。この星魔教が築いてきたコミュニティにより、星詠みを崇める狂信者たちの布教やサポートが、さらに円滑になったのはもはや言うまでもないだろう。
星葬機構側としてはこのラインをなんとかしたいが、クロノス同様世界への影響力の問題が。さらには星魔教に力を貸す企業や財閥が多すぎるため、すべて潰しきるのが困難。非常に手を焼いているのであった。
「星魔教の経済界進出の件、神代のみなさんには本当にお世話になりました。おかげでクロノスのように社会的権力を得り、星葬機構側から身を守ることができるようになったのですから」
もはや頭が上がらないといわんばかりに、感謝を伝えてくるカーティス。
クロノスはパラダイスロスト以降急激にその勢力を広げていったため、各企業と星魔教の仲介を。さらには星魔教側の企業に力を貸し、規模拡大に貢献したりしてきたのであった。
神代側としては星魔教を拡大させればさせるほど、星詠みが世に広まる事につながる。結果自分たちの計画も加速するとあって、喜んで手を貸したそうだ。
「――なので問題は星葬機構の動きでなく、レーヴェンガルトの方なのです」
そんなさっきまですずしげだったカーティスであったが、ふと表情に陰りが。
「うわー、レーヴェンガルトとはまた懐かしい名前を。確かパラダイスロストがおわった後、来たるべき時に向けて闇にもぐったってウワサが流れてましたけど、まだ存続してたんですか?」
パラダイスロスト後、レーヴェンガルトとその部下たちの多くは表舞台から姿を消した。
なんでもやるべきことはやったので、あとは来たるべき時に向けて待つとか。結果、星葬機構とレーヴェンガルト側の戦争は終わり、かつての戦いが嘘のような静けさになったのである。
一応その残党が何度か動いていたこともあったが、それは彼らが勝手に動いていたらしく、実際のレーヴェンガルトの命令ではなかったらしい。もはや長いこと音沙汰がなかったため、今や世間では自然消滅したのではないかとも言われていた。
「ええ、レーヴェンガルトは今もなお根強く残っていますよ。彼らは星の祝祭後、サイファス・フォルトナー一派の残党を引きつれ勢力を拡大。のちに米国の実権をにぎるほどにいたりましたよね? その時の権力を利用し、今後のための闇にひそむ算段をいくつも用意していたとか」
星の祝祭後、レーヴェンガルト当主シャーロットはかつての仲間たちを引き連れ各国を渡り歩き、猛威を振るっていた。星詠みという強大な力を使い傭兵として動いたり、魔法を布教し才能のある者を仲間に加えていったりなど。時には星詠みをばらまき、実験データを取ったりまでしていたらしい。こうしてレイヴァース率いる星葬機構とぶつかりながらも勢力を拡大していき、世界に多くの爪痕を残していったとか。
そしてとうとうレーヴェンガルトは大きく打って出る。なんと当時星葬機構の影響が届きにくい米国と手を組んだのだ。内容は彼らの邪魔をする者たちを片っ端から星詠みの強大な力で片付けていき、その見返りに国家の権力で匿って居場所を作ってもらうというもの。
魔法では近代兵器に対し少し厳しいがレーヴェンガルト側にはさらに上をいく力、星詠みがある。これにより次々に新しい近代兵器が投入される戦場でもまったく引きを取らず、むしろ凌駕するほど。結果、米国が行う数々の戦争の功労者として名を馳せ、立ち位置は軍を超すにいたった。
そうなればもうレーヴェンガルトの思うつぼ。国家の力で魔法の素質がある者たちを集め、レーヴェンガルトの魔道のノウハウにより魔法使い、創星術師に。それから一騎当千の軍隊を創設し、さらなる成果を。そしてシャーロット・レーヴェンガルトのずば抜けた手腕により、政権を次々に掌握。米国の政策に多大な影響力を及ぼす、裏の権力者にまで上り詰めたのだとか。
「なるほど。それにしても例の米国の件か。あれってレーヴェンガルトが戦争に介入し、その功績で実現したって話でしたっけ。おかげで戦争に魔法使いや創星術師が駆り出され、エライことになったっていう」
さすがに近代兵器では魔法や星詠みに対し、劣勢を強いられてしまう。なので世界中が魔法使いたちを集め、戦力として投入を。結果、ごく一部の魔法使いや創星術師という一騎当千の猛者たちが戦況を支配し、激しい戦いを繰り広げたのであった。
「ええ、ですが結局、星詠みの暴走問題で爪あとが大きすぎるともはや戦争どころではなくなり、星葬機構の関与もあってか国家同士の戦争の時代は幕を閉じました」
というのも戦況が激しさを増すと、各国は暴走した創星術師を投入しだした。一度暴走したため使い捨てにはなるが、その分成果はすさまじく戦場を焦土と化す。しかも魔法使いを無理やり星詠みに染めればいいだけなので量産も容易く、戦争の要に。
だがその爪痕は尋常ではなく、暴走した創星術師によって起こりうるとある問題。地上の汚染現象により、人間が住めなくなることもしばしば。このままでは多くの命を失い、地上がめちゃくちゃになると各国が停戦状態に。結局そのまま国同士が争う戦争の時代がおわったのであった。ちなみにこの停戦状態には、星葬機構が大きく関わっていたとか。
「実際あの終戦でさえ、レーヴェンガルトが仕組んだものだったらしいですよ。レーヴェンガルト側の人間が、米国と同じようにして大国にすり寄り権力を奪ってね。彼らの目的はある程度の権力を手に入れることと、魔法を世に広めることでしたから、早いうちにおわらせたとか。すべてはシャーロット・レーヴェンガルトが計画した通りに」
「かつてのレーヴェンガルトは、今の神代の立ち位置と言っていいかもしれないわね。国家という権力を存分に使い、それ以降も自分たちの思い描く通りに世界へ干渉していったんだもの。星魔教とかが、その代表的な例だったわよね」
奈月は時代を築いたといっても過言ではないレーヴェンガルトに、畏怖の念を。
「はい、彼らのおかげで星魔教が創設され、世界中に広められていったのです」
星魔教はもとをたどれば、レーヴェンガルトによって生み出された組織。
レーヴェンガルトは自分たちの悲願のため、もっと魔法使いや創星術師を増やしたかった。なぜなら当時いくら戦争で魔法や星詠みが使われていたといっても、世間にはあいまいにしか伝わっておらず、そこまで大事になっていなかったからだ。というのも戦争の主力であった魔法使いや創星術師たちは、全兵士の二割もみたないほど。しかもどの国も秘密裏にしていたこともあって、一般の兵士にはくわしく説明されていなかったのである。さらには戦争後の星葬機構の情報操作といった活動も、魔道の拡散を最小限に抑え込んだ要因であろう。
そこでより魔道を広めるため考案されたのが星魔教。星詠みを神の御業とし崇める宗教である。宗教の形にする事で、信者たちが勝手に魔道を世界中に広めていくという寸法だ。レーヴェンガルトは各国を手中に納めていたゆえ、資金や人員、パイプなどいくらでも用意できる。それらを利用し各国に星魔教の施設を秘密裏に作らせ、布教活動にあてらせた。創設以降も運営を円滑にするため、多額の援助を惜しまずに。これにより魔法という未知の力に魅せられ、多くの者が星魔教の信者に。そして世界中に魔道が広められていったのである。
もちろん星葬機構側からしてみれば、星詠みの被害を増やすであろう星魔教は見過ごせない。ゆえに隠れている星魔教の施設を次々と破壊していった。しかしいくら潰したところで新たに作られ続けていくだけ。時にはレーヴェンガルトの戦力が彼らを逃がしたりしたことで思うようにいかず、結局のところ拡散を遅らせることしかできなかったとのこと。
「神代もあの時のレーヴェンガルトと同盟を結び、利用したからここまでこれたのよね」
実のところ現在のクロノスがここまで大きくなっている裏側には、当時のレーヴェンガルトのおかげであった。
神代とレーヴェンガルトは、もともとサイファス・フォルトナーの件で深い関係がある。さらには最終目的までの道筋が似通っていたこともあり、同盟を結ぶ。その内容とは世界中に魔法を認知させ、創星術師を増やすというものだ。
これにより神代はレーヴェンガルトの持つ強大な権力の援助を受け、クロノスの規模を一大企業まで拡大させていった。パラダイスロスト以降人々を導き、魔法使いの世界を作るために。
「あの時の世界状勢といい、パラダイスロストの件といい、レーヴェンガルトがこの狂った世界に導いていったと言っても過言じゃないわ。それでそのアタシたちにとって大恩人のレーヴェンガルト様が、今どうしたっていうのかしら?」
そして奈月はレーヴェンガルトに敬意を払いながらたずねる。
次回 レーヴェンガルト




