◇10 鉄竜 戦訓(ウォー・インヴェスティゲーション)
【ツァジン家領中東部・サシーナ駅】
流石に、会社用の宿場と言っても、3室しかないと俺の部屋にはレディ=マホとイルチだけではなく、他の従僕も入り込んでくる。
1人用寝台にはレディ=マホとイルチが寝て、もう1つにはマイェナーとルイチャーが寝ている。
俺は椅子に座って石炭が焚かれている暖炉に当たっていた、イルチ達には慣れたが流石にマイェナーとルイチャーが寝ていると居心地が悪い。
護衛騎士のいる玄関広間に向かったが、思い思い場所を独占して寝ていた。
ここに俺の居場所はない。
仕方なく夜の寒気の中で出てみた。
倉庫群や石炭などの原料が積まれた山の合間にある積み出し場に天幕が張られている。
中隊の兵の一部は貨車の下で寝ている者もいた。
兵の強さを感じる。
しかし会社の人間は寝てはいなかった。
蒸気機関に石炭を積んで水の補給をしている。
全て人力だ。
その他にも4頭立ての馬車に木製レールを積み込んでいる馬車群がある。
それをコルネスティが見ていた。
「コルネスティも眠れないのか?」
「ご主人様」
「見る物全てが衝撃的な光景で見逃せません」
「ノイシェーハウが王国と馴染まない筈です。違いすぎます」
「あの馬車群は、どこへ向かうのだろうか」
「私たちが走ってきたレールを補修するのだそうです」
「そしてこれから私たちが進むレールの点検も行うそうです」
「それに蒸気機関を冷やさぬよう窯の火を絶やさない機関士も、可動部を点検する整備士も夜の間起きているそうです」
「どれだけ労力が払われているのか、よくわかるな」
「はい」
俺は彼らの為にも、今晩はしっかり休む事にした。
昼間の旅を楽しまないと彼らに失礼だ。
※
【ツァジン家領南東部】
鉄道旅の2日目は、護衛騎士の車両に乗り込んだ。
今日はリンヴェッカー、シュール、ヌワ、コルネスティ、モニオムとホリオン、そしてプシャノボ、砲術長、イルチも乗り込んで貰った。
全員が俺に注目している。
「今日、みんなに来てもらったのはあの戦争について、部隊運用上の課題とその解決方法を探りたいからだ」
俺の脳裏に死んでいった者たちの顔が浮かぶ。
その中には老婆と赤子もいた。
「皆も色々と意見はあるだろうが、まずは俺が気が付いた事を聞いて欲しい」
「1つ。見えない丘の上を砲撃したい」
「1つ。うたうもので実証された部隊間の遠距離会話の発展」
「1つ。共和国は何故鎧を身に着けないのか、鎧を着ない利点の洗い出し」
「1つ。兵や部隊が携行する物品はこのままでいいのか」
「1つ。従来の剣・弓・槍・補給という兵科を見直したい」
「1つ。魔法の活用」
「1つ。部隊全体が常に馬車で移動する事は可能なのか? 王都へと行軍した際の教訓をまとめたい」
「1つ。直ぐに作れる頑丈な粗塞の研究」
「1つ。兵隊達が常に全力を出せるように食事と生活待遇の改善と、負傷した際に損害を最小限にする方法」
「の9個だ」
「それとまだありますよね若旦那」
「どう会社が儲ける事が出来るか」
プシャノボの発言にホリオンが嫌な顔をする。
その気持ちは良く分かった。
命を失う者と、それで儲ける者。
戦場では気持ちで戦う。
仲間の為、故郷の家族の為。そして死なない為。
それが金になるとされたら戦えなくなる。
兵士と商人の違いだろう。
突如、蒸気機関が甲高い蒸気の音をあげ、金属がこすれ合う音をさせて止まった。
前方で何かがあったのだ。
俺達は貨車を降りると牽引している蒸気機関の前方に出た。
馬車が4台止まって、会社の人間が、木のレールの修復を行っている。
蒸気機関の縁に腰かけている機関士の元へ行く。
「若旦那。危険ですから貨車からは降りないでください」
黒煙で真っ黒にすすけた機関士が注意を促す。
「何があったんだ?」
「野生動物の仕業ですよ」
「何かおっきいのが這っていったんでしょう」
「その時に壊れた様です」
「一応、冒険者が警戒していますが、まだ野生動物が近くにいたら危険です」
良く見ると馬車の周りに武装した男たちが展開していた。
俺はホリオンとモニオムに命じて、兵と領民に貨車から降りないように告げた。
「共和国じゃあ、凶作なのかもしれませんなぁ」
「山から下りてきたか、山を越えてきたか」
「こんな早い時期から降りてくるなんて、今年はどうなるか……」
見通しを教えてくれた機関士に礼を言って、俺達も従僕のいる貨車に戻る。
「もう1つ忘れていたな」
「野生動物への対処方法だ」
何が起きたのかわからない従僕達は、俺達が乗り込むとおもむろに剣を抜き、警戒を始めた事に驚いた。
「大丈夫だ。お前達は俺達が守る」
不安げな顔をするレディ=マホやヴァルクミューレに笑顔を向ける。
それから程なくして、蒸気機関が動き出す。
蒸気を利用した汽笛が鳴らされると、後ろから次々と汽笛が返って来た。
線路を修復した作業員達が手を振って送り出してくれる。
俺達も敬礼を返して先へ進んだ。
※
俺達は従僕の警護をホリオンの兵に変わって貰うと、2両目に戻って話の続きをした。
「ある男が俺に言った」
「俺の戦い方は、男の戦いではないと」
全員が俺に注目する。
「俺はそれでいいと思う」
「戦いは目的を達するか否かだ」
「犠牲を最小限に抑えて、目的を最大限に達する」
「戦いが避け得ないのならば、どんな手を使ってもいい」
「俺はそう思っている」
「典型的な盗賊や冒険者の考え方ですねぇ」
会社の【母さん】部門、すなわち海の商売人の砲術長が感想を述べる。
そしてそれを受けてリンヴェッカーが続く。
「私も最初は抵抗がありました」
「しかし、【うたうもの】を仲間に引き入れてからの事を考えると、今は賛同できます」
「ツァジン家では、私も心が痛みました」
「犠牲は少ない方がいい。貴族でも平民でも奴隷でも」
「敵は別ですがね」
シュールが補足してくれる。
コルネスティもモニオムも異存は無いようだった。
プシャノボと砲術長は元々そっちの人間なのだろう。涼しい顔をしている。
ホリオンも頷いた。何しろ平民だ。
「それぞれでこの旅で考えて貰えるだろうか」
モニオムが嫌な顔をしていた。
何か含むところがあるのだろう。
後で聞くことにした。
リンヴェッカーは「部隊衛生環境と応急手当」
シュールは「武器と防具の簡素化」「兵科の見直しと携行品の見直し」
モニオムは「遠距離通信の方法」「異能と魔法の活用」
コルネスティは「砲の間接照準について」「野戦築城について」「部隊の運搬方法」
プシャノボ、ホリオン、砲術長はそれぞれの立場で助言してくれる事になった。
分担が終わったところで解散となり、それぞれ貨車から飛び降りて自分の貨車に戻った。
俺も飛び降りてモニオムを追う。
「モニオム。何が気になる?」
進行方向に向けて共に歩く。
速歩の為、ゆっくりと蒸気機関が俺達を追い抜いていく。
「ご主人様、正直この話は乗り気ではありません」
「【うたうもの】を戦争に巻き込むのは、心情的に賛成できません」
「勘違いしないでくれ、彼らを強制的に巻き込む気はない」
「しかし彼らの特性は知っていなければならない」
「そうしないと強制的に巻き込まれた時に困る」
「それに彼らが志願した時に、能力を発揮させる事が出来ない」
「しかし……」
「モニオム。俺達はあの戦争で【うたうもの】に助けられたのは確かだ」
「そして生き残るチカラを付けないと、生き残れないのは戦場もここにも違いはないだろ?」
「俺達だけでは守る事が出来なかった」
「それは認めなければならないと思う」
モニオムは渋々認めた。
しかし。と続ける。
「ご主人様」
「彼らが自立のチカラを入れた時。守られる必要がないと感じた時、領主としてどう対応されますか?」
「それは素晴らしい事だ。そうなれば彼らは真に奴隷ではなくなる」
「そこから【うたうもの】達は【人間】を始め、他の種族との対等な付き合いが始まる」
「わかりました」
「彼らの特徴と意思を確かめます。私が行います」
俺とモニオムは別れて、自分の貨車に乗り込んだ。
この日到着したルスニック駅はツァジン家の最南端の駅という事だった。
昨晩泊まったサシーナ駅と同じように泊まる。
今度の同室は、レディ=マホとイルチは変わらずで、料理人のブルンス・ペルレスハイマーと応接従僕のテューレルツ・マネが寝ていた。
みんなの寝顔を見て、俺は椅子で眠る。
明日はいよいよグロースプリュ家に出る。
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次回 ミク 行軍
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どのような感謝を申し上げればいいのか混乱してしまいますが、本日70000PVを数え、ブックマークをして下さる方が100人を超え、更にご感想を頂いた他、レビューも書いてくださり、ご評価も頂いた盆暮れ正月クリスマスバレンタイン等が一度にやってきた日となりました。
連載開始から僅か1年とはいえ、皆様と共に歩んできた歴史を実感いたしました。
これからも途切れないように書いて参りますので、今後とも宜しくお願いいたします。
雨露口小梅
追記
思わず「ひぃ」と出てしまいました。自分には関係ないと思っていたランキング35位です。
日間恋愛異世界転生/転移ランキングBEST100 に入ってしまいましたよ。
初めてランキングを見てみたらあった訳です。いつぞやのお手紙コーナーでとある先生が、続けるのが一番だよと仰っていましたが、その通りだったようです。
これは感想、レビュー、ブックマーク、評価をして下さった方たちとの共同の結果です。何しろ初見の方々はこれらも読んで検討する訳ですから。
改めて御礼申し上げます。




