表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マシン・ブレイカー ―Crusaders of Chaos―  作者: マシン・ブレイカー制作委員会
41/54

四十一話 嵐の前のサイレント

 井伊は人員確保に奮闘していた。

「全く……だから、セキュリティーは強化しろとあれほど言ってたんだ」

 その井伊の言葉は、ある意味ぼやきのようにも聞こえる。

 彼の前には、かなりの枚数の履歴書の束が置かれていた。

 その中で採用するのは、その半分も満たないだろう。

 どれもこれも、井伊の息がかかっている者か、あるいは、賛同してもらえそうな人物か。それを見て選んでいる。

「仕方ないだろう? その前に奴が動いたのだからな」

 人員が足りなくなっているため、ここには久我原も来ていた。

 一応、井伊の手伝いとして、ここにいるのだが……久我原の役目は別にある。

「まあ、筋の良さそうなやつなら、多少鍛えてやってもいい」

 現在負傷している者達の補充として来る者の多くは、新人だ。それでも、経験者を優先に入れているのだが、やはり、井伊の意向を汲む者となると、それだけで範囲が狭まってしまう。

「ああ、頼むよ。こっちは負傷者多数な上に頼みの者達からも、嫌われてるみたいだから」

 思わず苦笑を浮かべる井伊。

 植物と化した能見は、復帰にまだ時間がかかるだろう。

 頼みの新垣も、今はどこかに行ってしまっている。

 また、槙原は、新人研修や事務処理に追われて、可哀想な状況に追い込まれつつある。


 そして、A-Sはというと。

「呼んだか?」

「来てくれたか! 怪我はいいのか?」

 思わず井伊の顔も綻ぶ。

「まだ本調子ではないが、戦うことくらいはできる。それに……嫌な予感がするからな」

 そのA-Sの言葉に、井伊は嫌そうに眉を顰めた。

「止めてくれよ。ただでさえ、後手後手に回ってるんだ。その上、本庁の立て直しまでこっちに振ってくるし……本当、黒島は俺に過労死させたいのかと勘ぐってしまうぞ」

 ――それはそれで、黒島の思惑通りなんじゃ……。

 そんな思いが過ぎったが、A-Sは口に出さずに。

「忙しそうだな」

「せっかく来たんだ、手伝ってくれ」

 にっと良い顔を浮かべる井伊にA-Sは、思わず苦笑を浮かべた。

「これでも病み上がりなんだぞ?」

「戦えるっていったのは、どこの誰だ?」

 そう井伊に言われ、A-Sは陰で舌打ちする。

「書類の仕分けだけだぞ」

 さっさと渡せと言わんばかりに手を振ると、井伊はどさりと、必要な書類を手渡した。

「いやあ、本当! 助かるよ、アスナ」

「ここでその名は呼ぶなって言ってるだろう!」

 そう叫びながら、A-Sいや、アスナは渡された書類の仕分けを始めるのだった。



 本庁が襲われた時。

 アスナはあのアンドロイドと戦っていた。

「くっ……」

 身体強化フィジカルブーストがあっても、怪我が全快していないアスナでは、辛いものがある。

 片腕を失っているものの、相手はアンドロイド。

 手加減しているわけではないが、決定打に欠けていた。

 アスナ自身もこのまま戦いを続ければ、どうなるかぐらい予測できる。

 しかし、それでも……。

「お前を倒して、情報を得るっ!!」

 少々キツいが、強化をさらに強めていく。負傷した体が悲鳴を上げているが、相手から少しでも情報を得ておきたい気持ちの方が上だ。

『そろそろ潮時か』

「何?」

『周りを見てみろ』

 アンドロイドに言われて、やっと気づいた。

 襲ってきたのは、アンドロイドだけではなかった。

 他の無人機が本庁を壊しながら、先へと進んでいた。

「まさか、お前だけじゃなかったのか?」

 気付かなかったといえば、言い訳に見えるかもしれない。しかし、アンドロイドに構ってばかりで周りが見えていなかった。

『……』

 アンドロイドは一瞥してから、去ろうとして、振り返った。

『エルだ。覚えておけ』

「え?」

 アンドロイドはそのまま去ってしまった。

 アスナは様々なことが頭を過ぎり、その場からしばらく動けなかったが。

「うわああああ!!」

 襲われている警備員達の声に気づき、そちらへと駆け出したのだった。



 そう、あのときもアスナはあのアンドロイドに負けてしまった。

 けれど、不思議と悔しい気持ちはそれほど大きくない。

 むしろ、指導してくれたように思う。

 敵だというのに、そんな風に思うなんて。

「考えが、まとまらない……」

「何か言ったか、アス……いや、A-S」

「いや、何でもない……んだ」

 歯切れの悪いアスナの言葉に、井伊は。

「ちょっとこの書類を第一資料室に持って行ってくれないか?」

「ああ、わかった」

 井伊に言われて、アスナは書類を運んでいく。

 部屋から出て、涼しい空気に触れて、少し気分が落ち着いたように感じる。

 と、同時に。

「全く、こんなときに国崎は何処に行ってるんだ」

 自分の携帯電話を取り出し、通信記録がないのを見て、苛立ちを募らせる。

「新垣もそうだ、二人とも後で覚えてろよ……」

 そういって、アスナは自分の携帯電話を胸のポケットに仕舞い込んで、書類を所定の場所へと運んでいくのだった。



 暗がりのとある一室。

 そこではいくつものモニターが動き回っていた。

 そのどれもが、本庁を映し出している。

「全く、他愛のない。井伊には期待していたんだが、まあ、あれだけ押し付けられたのだから仕方ない、か」

 黒島はそう呟く。かちゃかちゃと音を立てながら、新しい腕の調子を楽しげに見ている。

「どうするのですか?」

 赤羽が尋ねる。

「ここで潰すのも面白くない。もう少し泳がしておくさ。こっちの準備が整うまで」

 そう言って、黒島は己の眼鏡を光らせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ