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マシン・ブレイカー ―Crusaders of Chaos―  作者: マシン・ブレイカー制作委員会
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四十話 その再会は

 赤羽との交渉の後、国崎は拠点を放棄した時のために予め用意していた別の拠点に向かっていた。

 近くで購入したスクーターに跨り、フィグネリアを後ろに乗せて走っていると、彼は前方に立ち塞がる人影に気付いた。

 フード付きの黒い外套を着た人影。

 フードを被っている所為で人相は判断し難い。

 スロットルを緩めて減速するが、その者は佇んだままこちらを見つめている。

 国崎は訝しみながら、衝突しないように少しハンドルを切り、進路を変える。

 だが、人影は横に歩いて、再び彼らの進路を妨害した。クラクションを鳴らすが、やはり国崎を注視したまま動かない。

 国崎は仕方なくブレーキをかけて、ヘルメットを外す。

「道路のど真ん中につっ立っていると轢かれますよ」

 できる限り怒りを隠しながら、国崎はそう告げた。

 外套の人影は国崎のその言葉を聞いて、柔やかな表情を浮かべた。

 国崎はその顔に何処か見覚えを感じた。

 そして、彼はその容貌を持つものを思い出すが、しかしすぐに首を横に振る。


 まさか、そんなはずはない。

 だって、あいつは……。


亮平りょー。大きくなったね」

「何で……、お前が……!?」


 その人影は、被っていたフードを脱いで、国崎に微笑みかける。

 彼とよく似たその顔。

 国崎は眉根を顰めて、言い放った。


「何故、生きている!? 早苗!」


 国崎の怒号のような問い。

 国崎早苗は答える。

「亮平。お前は私の射殺された場面を目撃したか? 私の死体をちゃんと確認したか?」

 国崎はハッとした表情を浮かべた。

「あの死体は私そっくりに作り上げたアンドロイドだ」

「だが、黒島はお前を殺したと言っていた!」

「少し考えてみなよ」

 早苗はそう言うと、手招きをした。するとフィグネリアがふらふらと早苗の方に向かう。

 国崎はそれを止めようと彼女の腕を掴むが、フィグネリアはそれを乱暴に振り払った。

「フィグ」

 フィグネリアが早苗の横に侍ると、早苗はフィグに言った。

「銃を自分の頭に向けろ」

 フィグネリアは「はい」と頷くと、命令通りに手首を外して、覗いた銃口を自らの頭部に突き付けた。

「何のつもりだ?」

 早苗がこちらに親和的でないことを察した国崎は、そう問うた。

「さっきの質問の答えが、亮平を怒らせるだろうからね」

「何が言いたい?」

「黒島に頼んでおいたのさ。私を死んだことにしておいてくれってね。亮平を極限状態に追い込んで、魔法を取得させるためにね」

「ということは、まさか、お前……」

 目を見開いて、喫驚する国崎。

 早苗は頷いた。

「私は黒島と繋がっている」

 国崎はその言葉を理解するのに時間を要した。

 死んだはずの早苗が、何故生きている?

 そして彼女が、何故諸悪の根源である黒島と手を結んでいる?

「どうしてだ……?」

 いくら考えようと、答えは出なかった。

 否。答えは出ていたが、それを認めることはできなかった。それを認めてしまえば……

「多分、亮平の想像通りだよ」

 国崎が否定しようとしたその仮定を、早苗は肯定した。

「『マシンナーズ・パンデミック』を企てたのは、私だ」

 早苗が言ったその言葉に、国崎は膝からくずおれた。


 そんな馬鹿な。だとすると、何のために戦っていたのだ。


 ずっと復讐のために、この命を削ってきた。

 だが、早苗たちのための復讐だったはずが、復讐する相手は早苗だった。

 これが事実だとは、国崎には認め難かった。


「何でだよ……。何でこんな残虐なことを……」

 すっかり力を無くして、国崎は地面にへたり込んだまま、呟くようにそう言った。

 そんな彼の姿を見て、早苗はどこか虚空を見つめ口にする。

「とんでもないことをしたと反省しているよ……。でも、これは人類のため。そして、亮平のためなんだ」

 人類と俺のため? ますます意味がわからない。

 機械を暴走させて、人間を大量虐殺することが、何故人類のためになるのだ。

 波乱の世に置き去りにして、一人で生きさせたことが、何故俺のためになるのだ。

「『マシンナーズ・パンデミック』が起こる前、機械工学は発展を続けていた。それこそ、日常的な生活のサポートや非日常的な戦争などの戦力としてね」

 確かに二一〇〇年台には、既にそれらのロボットが先進諸国では普く広まるほどにポピュラーなものになっていた。

「だが、その発展は異常なほどの速さだった。まるで、何かがその発展を助長しているようにね」

 ワームホールの理論が解明されて間もなく、瞬間移動装置ワープパネルは登場した。

「私や黒島を含めた研究チームは、その原因を探った。そして、瞬間移動装置が一般的に使われるようになってからしばらく経った後、私たちは高性能のAIを持ったロボット……つまり機械自体が機械工学の発展を促進させたことを突き止めた」

 早苗は更に続けた。

「そして私たちは、機械工学の飛躍的な発展が、実は機械が人類を根絶させるための下準備であることに気が付いた」

 機械工学の発達と人類の根絶の関係を結びつけられず、国崎は首を傾げた。

「機械の性能を上げて、人類を脅かす力を付けさせる。瞬間移動装置によって、移動をそれに頼らせ、道路を減らす。

 するとどうだ? 瞬間移動装置を停止させるだけで袋小路に追い込むことができ、機械に人を襲わせられる。

 だから私たちは機械工学の発展を止めようとした。だが、既にそれらに依存していた人類には、不確かでしかない情報を根拠に快適さを放棄することはできない」

 早苗は神妙な顔で言う。

「そして、私たちは人類に抵抗する手段を持たせようとした。それが魔法アギトだ」

「魔法……」

「ただし、魔法を発現させるには、人類を極限の状態まで追いやり、進化させなければならない」

「だから、『マシンナーズ・パンデミック』を起こさせたって言うのかよ」

 早苗は首を縦に振った。

「そして机上の空論でしかなかった魔法を、人類は見事に発現した」

「ならば、もう機械の侵攻を止めても良いじゃないか」

「いや、私たちはこれからも、虐殺を続ける。人類が完全に脅威を退けられる力を持つまで、ただひたすら絶望させ続ける」

 淡々と早苗は言い放った。

 国崎は何も言えず、ただ唇を噛むことしかできなかった。

「恨まれても仕方がないだろうね。私は人類を多くの人を機械に殺させた」

「……」

 人類のためとはいえ、早苗の行動は人倫にもとっている。

 人間として、姉弟として、それを許すべきなのか、亮平は思いあぐねていた。

「もし人類が滅んでしまえば、私の選択は間違っていたのだろう。だけど、ここまで来たんだ。もう引き返せない」

「もし、人類が生き残った時には、早苗はどうするんだ?」

 国崎がそう問うと、早苗は悲しげに空を振り仰いだ。

「その時は亮平、お前が私を殺してほしい。そして『諸悪の根源を倒した英雄』になるんだ」

「何を言ってるんだよ! どちらにせよ、お前が悪者になるじゃねえか」

「私はそれで構わない。それが私の望んだ結末だ」

 澱みない瞳で、そして揺るぎない声で早苗は言った。

 国崎は二の句を継げなかった。

 人類のために自らの命だけでない全てを犠牲にする彼女を、止められる権利があるとも思わない。

 そんな思考さえ浮かぶ。

「黒島が何かを仕掛け始めた。赤羽の情報のためにフィグは預からせてもらうが、亮平はこの街から逃げてほしい。私はそれを伝えるためだけにお前に会いにきた」

 早苗の言葉を俯きながら聞いて、国崎は呟くように問う。

「……早苗。お前のやっていることは正しいのか?」

「分からない。しかし、私は正しいと信じている」

 その言葉を聞くと、国崎は「分かった」と頷いて、スクーターに乗った。

「……馬鹿野郎」

 そう言い置いて、国崎はその場を後にした。


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