異界の飯、いと美味なること
鉄の牛車、ぎぃぎぃ鳴りつつ草原進みける。
黒牛、既に全てを悟りし顔にて歩みたり。
一方。
佐藤健一、荷台にて干し肉齧りつつ、ぼんやり空見上げける。
「……味しねぇ」
「食ひ物あるだけ良きなり」
「毎日保存食ばっかは嫌なんだよ……」
佐藤、この三年。
雑用や荷運びなど請け負ひ、何とか食ひ繋ぎ来たりける。
されど。
温かき料理など、久しく口にしておらず。
「ちゃんとした飯食いてぇ……」
その時なり。
遠くに煙立ち上るの、佐藤の目に入りける。
「……あっ」
「何なり」
「街だ」
佐藤、ゆっくり立ち上がりける。
「街あるぞ!!」
その目、若干潤みたり。
「文明……!」
「また文明なりか」
「飯屋あるかもしれねぇんだよ!!」
かくして二人、黒牛と共に街へ向かひけり。
門近づけば、門番達、鉄の牛車見て固まりける。
「……何だあれ」
「牛車なり」
「鉄で?」
「うむ」
門番、理解諦めける。
街中入りし後も、人々ざわめきたり。
「何あの箱」
「暑そう」
「牛かわいそう……」
黒牛、どこか遠き目しけり。
一方佐藤。
既に匂いへ釣られ始めたり。
「肉焼いてる!!」
ばぁん、と勢いよく食堂入りける。
「飯!!」
店内、香ばしき匂い満ち満ちたり。
鍋煮える音。
肉焼ける音。
人々の笑い声。
佐藤、感極まりける。
「うわぁぁ……ちゃんとした飯屋だ……」
一方。
貴光、店内見回しける。
「……随分と騒がしき屋敷なり」
「食堂だよ!!」
席着きし後。
店員、料理運び来たり。
肉。
芋。
スープ。
焼きたてのパン。
佐藤、震える手にてスープ持ちける。
「いただきます……」
ずずっ。
「……………………」
次の瞬間。
「うっっっっっま!!!!」
叫びたり。
「温けぇ!! 肉入ってる!!」
「そこまでなりか?」
貴光もまた、肉口へ運びける。
「ほう」
「どう?」
「悪くなきなり」
「上からだな!?」
その後。
二人、猛烈な勢いにて料理平らげける。
皿、次々積み上がりたり。
店員、若干引き気味なり。
そして。
「お会計、銅貨十二枚になります」
「……………………」
「……………………」
しばし沈黙。
佐藤、ゆっくり貴光見やりける。
「……金は?」
貴光、怪訝そうな顔しける。
「何なりそれ」
「いやお金!!」
「飯には値段つくなりか?」
「当たり前だろ!!」
店内、静まり返りける。
店員、笑顔消えたり。
「……払えないんですか?」
貴光、少し考え込み。
「……逃ぐるなり?」
「やめろォ!!」
されど次の瞬間。
貴光、凄まじき速度にて立ち上がりける。
「御免!!」
だっ。
「待てコラァァァ!!」
佐藤、慌てて追いかけ。
店員達もまた追走し。
さらには門番まで加わり。
街中、大騒ぎとなりけり。
一方貴光。
「異界、厳しきなり!!」
「お前が悪いんだよ!!」




