表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
26/31

番外編01 ミケとソフィア①


 レイエス伯爵家の未亡人ソフィアは、故郷を離れた南国のリゾートホテルで、オーシャンビューのテラスに並んだデッキチェアのひとつに陣取り、のんびりと本を読んでいた。


 夫の没後、見聞を広めるという名目で国外を旅行し、出張中のミカエラと落ち合っては旧交を温めているソフィアだが、今回の旅はそれ以外にも目的があった。


 例の亡夫の自伝、『我が栄光―エンリケ・レイエス自伝 サン&ムーン』の翻訳版が近隣諸国でも人気となり、裏筆者としてあちこちの国のサイン会に呼ばれることが増えていたのだ。


 サインといっても、本の裏表紙のエンリケの肖像に鼻毛を描き込むだけのことなのだが、ソフィアが手づから鼻毛を描き込んだ本をマントルピースに飾ると、「リウマチが治る」だの「子宝に恵まれる」だのといった、よくわからんご利益が発生するとの噂が巷に広まっており、サイン会は毎回大盛況だった。


 ご利益の真偽は定かではないが、生前散々家族にも世間様にも迷惑をかけ続けた夫が、死後ようやく人の役に立っているのかと思うと、何となく感慨深い。


 そんなわけで、この国でも求められるままに精力的にサイン会をこなし、現在こうして充電中というわけである。


 同じホテルに宿泊しているミケは、今日も仕事で出かけている。


 今夜、ある貴族の邸宅で、この国の有力な貴族たちと国内外の商人が集まる、商談会を兼ねた大規模なパーティーが催されるため、その事前打ち合わせに参加するとのことだった。


「あの子は相変わらず仕事三昧ね……すごく楽しそうだから何も言えないけど、いつも飛び回っているせいで増えるのは仕事関係の繋がりばっかり。

 まだ若いのに、仕事以外の同世代の異性との交流が『前夫との文通』くらいだなんて、大丈夫なのかしら……」


 ソフィアは読んでいた本を閉じて呟いた。


「………ダメね、ついお節介を焼きたくなっちゃう。

 よく考えてご覧なさい、ソフィア。

 貴女が『フラフラ旅行ばっかりしてないで、そろそろ再婚を考えたら?』って言われたらどんな気持ちになる?

 誰かを恋するのは素敵なことだけど、少なくとも周囲に促されてすることではないわ」


 フルフル首を振っていると、噂をすれば何とやらで、打ち合わせを終えたミケが両手に飲み物を持ってテラスに出てきた。


「ただいま戻りました、ソフィア様!

 ついでにバーカウンターに寄って飲み物を貰ってきました。

 凄いですよ、南国の果物の破片があれこれ突っ込まれてて、小さな傘までぶっ刺さってます」


「………ホテル自慢の特製トロピカルドリンクも、貴女の説明にかかるとロマンのロの字もなくなるわね」


 ミケはソフィアに飲み物をひとつ渡し、隣のデッキチェアに腰を下ろす。


「どう?打ち合わせはうまくいって?」


「はい。今夜の参加者リストを見せていただけたので、どの方々に商談を持ちかけるか相談してきました」


「良かったわね。………でもいいの?そんな大事な場に私が同伴するなんて。

 立食形式とはいえ、商売と関係のない私がパーティーにいたらお邪魔になっちゃうんじゃない?」


「そんなことありませんよ。

 商談会を兼ねているとはいえ、こちらの国の貴族の奥さま方も数多く参加されますから、ソフィア様ならきっとお話が合うと思います。

 それに、今をときめく『我が栄光』の裏筆者とご一緒なら、私も商談相手との話題に事欠きませんし」


「ちゃっかりしてるわねえ」


 二人の間を南国の潮風が吹き抜けた。


 故郷ではまず見られない白い砂浜と遠浅の海を眺めながらソフィアはしみじみと呟く。


「………貴女に『お友達になれないかしら』と提案したときには、正直こうして二人で異国の海を眺める日が来るなんて思ってもいなかったわ」


「………本当ですね。何があるか分かりませんね、人生って」


「貴女がレイエスに来るまでは、あの自分ではどうにもできない日々がずっと続くんだと思っていたのにね」


「でも、ソフィア様はずっと努力されていたじゃないですか。動いている限り、何も変わらないなんてことはないですよ、絶対」


「そうね………そうだったのかしらね………」


「あ、でもこの友情は永遠不変でお願いします」


「フッ……当然!」


 二人は掲げたグラスをカチリと合わせた。



※※※※※※※



「商談パーティーまでまだ間があるわよね?

 じゃあこの後買い物に付き合ってくれない?イグナシオのお土産を選びたいの」


「いいですよ。ホテルに戻る途中で大きな土産物店を見かけたので、一緒に行きましょう」


「できるだけ変わったものがいいわ。

 あの子、『ミケと選んだのよ』って言ったら何でもものすごくありがたがるから面白くて」


「oh、イジワル母さん〜」


「『愉快犯』とおっしゃい」


「じゃあアレなんかどうです?

 あちこちで見かける、鼻の穴が印象的な動物の像。この国独特の守り神で、ペアで門や屋根に置くと魔除けになるっていう」


「いいわね」


 二人は笑い合いながら街に繰り出していった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
待ってました!いいですねぇ、お二人の友情w 本当にいつまでも不変でいて欲しいっ!! そして「無し男」の未練たらたらっぷりがいいw ありがたや、ありがたや*\0/*m(__)m
わぁいヽ(=´▽`=)ノ 番外編ありがとうございます! ミケ、ソフィア様、会いたかったー! さてさてイグ無し夫はその後、有り夫になれたかにゃー? 個人的に絆されちゃったので(笑)、ミケと再会できたらい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ