ちっちゃくなくなった妖精は、お掃除のプロです
読みに来て下さって、ありがとうございます。
今回でメインストーリー終了です。次回、後日談です。
その日は、すぐにやって来た。
元の大きさに戻った私は、聖女様のお部屋に寝泊まりするようになった。
だってねえ、ちっちゃい時は問題なかったけど、この姿で団長さんのお部屋にお泊まりするわけには、いかない。団長さんの評判が悪くなっちゃう。
お陰で、聖女様から団長さんの子供の時の話なんかが聞けて、ちょっと嬉しい。
「小さい頃のレオンハルトはね、光魔法が嫌いだったのよ。ほら、小さい男の子は、火魔法で火の玉を出したり、風魔法で木を切ってみたり、水魔法の水鉄砲で遊んだりするじゃない。
でも、光魔法は明かりが出たり、ちっちゃな切り傷が治るだけでカッコよくないのよ。
今の国王陛下は、強い火魔法の持ち主で、魔獣を焼き払うのもお手の物。弟のレオンハルトの事なんか歯牙にもかけなかったの」
聖女様は、香りの良い紅茶を飲み、ジャムとチョコレートのケーキを食べた。ケーキは、騎士見習いのガレン君の新作だ。ああ、美味しい。この世界にも美味しいチョコレートケーキがあって、良かった。雷神様のバイトでの難点は、ケーキを食べに行けないと言うことだ。何しろ、年中無休だから。
聖女様もケーキに舌鼓を打ち、私達は、少しの間、違う世界に旅立った。ああ、至福。
「そうそう、国王陛下の話だったわ。やがて大人になった国王陛下は、大きくなったレオンハルトが臣下達にちやほやされているのに気付いてしまったの。何しろ、希少な光魔法。魔獣をいとも簡単に倒し、兵士達の傷を癒し、生来の明るい性格から周りに好かれて。
自分にはない、人気と能力、カリスマ性。レオンハルトを次期国王にと言う一派も現れた。レオンハルトが成人する前に前国王陛下が亡くなり、自分が国王になったものの、レオンハルトを恐れた国王陛下は、弟を辺境へと追いやったわ」
一息着いた聖女様は、「この紅茶、ジャムを入れても美味しいのよ」と、新しい紅茶を入れながら、私に勧めてくれた。
「小さい頃から火魔法を使う兄は、レオンハルトには憧れで。憧れてた兄に捨てられたレオンハルトは、すっかり落ち込んでしまったの。
兄に迷惑をかけてはいけない。その一心で。
貶める為のハニートラップも何のその。清廉潔白な辺境騎士団長の出来上がりよ」
そう言いながら、聖女様は、カラカラと笑った。
「あんまりにも酷い仕打ちなので、私も一緒に王都から出ていってやったわよ」
自分から出て行っちゃったんだ、聖女様は。
「誰かが一緒に付いていてやらないとね。人は、1人では生きていられないから」
ええ、1人で生きて行くのは、寂しいですよね。
私も、妹が一緒だから、生きていけました。そう、雷神様風神様に拾っていただいた時も、妹が一緒だから、付いて行きました。もしも私1人だったら、お断りしていたでしょう。
魔狼の一件以来、団長さんは忙しそうに動き周り、時折、私を見ると何か言いたそうにしては、立ち去った。
そんな団長さんの様子を見て、ドラニスタ君が
「へたれが」
と、ボソッとよく呟いている。
何だか、へたれているらしい?
挙動不審なのは、団長さんだけに限らない。副団長さんまでもが、私と団長さんを交互に見て、溜め息を吐く。
「その姿が、本来の姿なんですか?」
と副団長さんに聞かれたので
「はい。団長さんのお陰で、随分と力が回復しましたので、もうすぐ出ていけます。色々とご迷惑お掛けしました」
もうすぐ、出ていきますからね~と、ニッコリ笑っておくと、副団長さんに何故か泣きそうな顔をされた。
うん、もうちょっと待っててね。
晴れた朝、サンダーボルト先輩が砦にやって来た。
『おい、スタンピードだ。仕事だ、用意しろ』
先輩の姿を見かけたのか、報告が行ったのか、団長さんとドラニスタ君も駆け寄ってきた。
『今回のスタンピードは、いつもより大きい。隣国側から、美央と向こうの第二王子が攻め寄せる手筈になっている』
そう言って、先輩は団長さん達を見た。
美央、無事だったんだ。良かった。やはり、風の使徒は、美央の事だったんだ。
「こちらも、準備をして直ちに向かう。先導を頼む」
団長さんは、戦いの時の格好いい団長さんになった。
戦える者は皆、騎士見習い達までもが、武器を取った。聖女様も衣装を纏い、杖を掲げた。
スタンピードが来る。誰もが、帯を絞め直した。
私は、団長さんの馬に乗った。私が前に、団長さんは後ろで私を背中から抱き抱える様に座る。
「何だか、ポケットに入ってた頃が懐かしいてす。小さいままだったら、団長さんのポケットにずっといれたんですけどね」
「大きくなっても、ミミは可愛いけどな」
「ちっちゃい妖精さんじゃ、なくなりましたね。私」
「大きくなったからこそ、こうやって、抱いて馬に乗せてやれる」
団長さんは、そう言って、背後から私を抱き締める様に被さった。
「団長さん。私がいなくなったら、ちゃんとお嫁さん貰って、子供たくさん作ってくださいね」
「嫌だ。ミミが良い。ミミが、私の嫁になって、子供をたくさん産んでくれれば……」
「?」
団長さんは、いきなり黙ってしまった。
「あー!言っちゃったよ。つい、言ってしまった。もっと、こう、格好いいプロポーズにしようと思ってたのに!言っちゃったよ」
へたれた団長さんは、私の頭の天辺に自分の顎を乗せた。
でも、嬉しかったですよ。プロポーズ。
団長さんは、私のここが良い、ここが可愛いとひたすら言い始めた。そして、花を買ってきて、眺めの良い場所で告白して、って思ったら、眺めの良い場所が思い浮かばなかったらしい。
花畑で?野菜園しかないよな。
景色の良い場所?砦の胸壁?見張りに行くんじゃないんだから。
団長さんは、考えすぎですよ。素敵な場所でプロポーズも、捨てがたいけど。こんな形でのプロポーズも結構素敵かも。
「女神様が、雷神様に、私達の事を話してくださるそうだ」
プロポーズの前に、そこまで話が進んでいるとは、ちょっとビックリですね。ああ、美央。でも、美央は、どうしよう。
「砦に来て貰えばいい。私がミミをとったと、ドラニスタが騒いでいたからね。妹さんが来れば、寂しくないんじゃないかな。大体、ミミは、最初から私のものなのにな」
そんな所有権は、なかったと思います。
私達が小高い丘の上に立つと、遠くから砂煙が見えてきた。魔力溜まりから、どんどん魔獣が沸いているのが、わかる。
離れた丘の上に、大勢の人影が見えた。あれが隣国の人たちかな。
一陣の風が吹き、少年、いや、少女が飛んできた。
「お姉ちゃん、元気そうで良かった!」
美央だ。美央は、私にスカジャンを放り投げた。雷神様刺繍のスカジャン。美央の着ているスカジャンの背中には風神様が刺繍されている。
風神様の風の加護のある美央と違って、私は飛べない。だが、雷神様の加護付きのスカジャンを着れば私も飛ぶことが出きる。
「団長さん達は、私達が撃ち漏らした奴らをお願いします。それでは、お掃除に行ってきます」
私は、どんどんどんどん雷を落とした。まるで、雷の雨だ。雷に撃たれ吹き飛ばされた魔獣は、美央の風で粉々になって魔素となり、飛び散っていく。
私達の後ろでは、辺境騎士団達が、隣国の騎士団達が、次々と魔獣を切り裂き、炎で燃やし葬って行く。
だが、魔獣の数は多く、騎士達の足元が段々覚束なくなっていく。数が、多すぎるのだ。マリンおばさんまでもが、戦っている。捕縛術の得意なおばさんは、炎の輪で魔獣を捕まえ、そこに騎士達が止めをさす。
聖女様が光を放ち、魔獣の眉間を撃つ。ジェシカおばさんが、風魔法で魔獣の首を切り裂く。
だが、段々それも、勢いが減っていっている。
『雷神様、雷神様。力を下さい。皆を守る力を、私に下さい』
眼下では、団長さんが一撃で、どんどん魔物を葬っていく。だが、隣で戦っているドラニスタ君は、段々剣を持つ手が上がらなくなってきた。
『雷神様、雷神様。私の大事な人達を守る力を、私に下さい!あの人達を、私は、助けたい。お願いします、雷神様』
すると、空から声がした。
『ただいま~娘達。待たせたな~』
雷神様の声がした。
『お土産も持って帰ってきたからな』
風神様の声がした。
私の力が満ち溢れ、雷撃の雨だけでなく、無数の電気の塊が、私の身体から飛び出し、更に敵を撃った。
そして、空から2つの光が落ちて来た。
「先輩方、初めまして~。雷神様のお土産その1の、來人です~」
「初めまして。同じく、風神様のお土産の杏です」
『女の子は、すぐにお嫁に行っちゃうからね。寂しくならないように、今度はカップルを連れて帰ってきたよ~』
空から、雷神様の声がした。
「うん。俺達、恋人同士なんですよ~な~杏。ほらほら、どんどん雷を落とすよ。雷と言えば太鼓。ドラマーの俺に任しとけって~」
男の子は、ちょっとばかり、お調子者の様だ。
「あんたなんか、ただの幼馴染みでしょうが。ほら、ちゃんと全部の魔獣に当てなさいよ」
杏と名乗った女の子が、來人の倒した魔獣をドンドン風で粉々にする。
2人の加勢で、あっと言う間に魔獣が片付いた。キラキラキラキラした魔素が、空中に散って、空に舞い上がり消えていく。
『ははははは~。仲良しさんだよね。二人とも。だから、美々子も美央も、安心してお嫁にお行き』
風に乗って、風神様の声がした。
『2人とも、幸せにおなりなさいな』
女神様の声が、辺りに響いた。
こうして、スタンピードは跡形もなく消えてしまい、私は辺境騎士団と共に砦に帰り、美央は風の使徒として、隣国に帰った。
「落ち着いたら、遊びに行くからね。ちょっとやり残したことを、済ませてくるから」
美央は、あの時に出会った女騎士さんに襟首を掴まれて、引っ張って行かれてしまった。
「お姉ちゃ~ん。ああん、離してよ~。折角、お姉ちゃんに会えたのに~」
「お前は、まだ、やる事があるだろうが。ほら、城へ帰るぞ」
「ううっ、人使いが荒いんだから、もう。この鬼畜~」
美央の物語は、こちらの物語が終了後、新たな物語として書いていく予定です。しばらく、お待ちください。