第一話 はじまり
ショウタは高校二年生である。
持ち上がりのクラスで友人もできず、成績も中の下。
かといって特別努力する気にもなれず、ただ時間に流される日々。
嫌々高校に通い、帰宅すれば泥のように眠るだけ。
明日もまた同じ、何の変わり映えもしない一日が始まるはずだった。
だがその朝。ショウタが目を覚ました場所は、布団の中ではなかった。
土の匂い、青空、揺れる木々の影。
そして、金色の輪が額に触れている感触。
何より、己の手足が妙に逞しく、違和感のある重さを帯びていた。
「……え?」
見下ろせば、頑丈な毛深い腕。腰には虎皮の腰巻、脇に如意棒が置かれている。
そのとき、顔のすぐ近くに覗き込む影があった。
「よかった、目を覚ましましたね! セリーヌっていいます、三蔵法師やってます!」
銀髪の少女がにっこり微笑む。
その無邪気さに、ショウタの頭はますます混乱した。
「え、三蔵……? ていうか、俺……?」
さらに追い討ちをかけるように、脳内に響く声。
『よう、俺の体に入っちまったみてぇだな。しばらくよろしく頼むぜ?』
それは――孫悟空の声だと、直感が告げていた。
「……はあっ!?」
ショウタの声は、自分でも驚くほど太く力強かった。
「とりあえず! 敵が襲ってきましたよ!」
セリーヌが叫び、草原の向こうを指差した。
数人の武装した男たちが突進してくる。
『戦闘か、俺に変われ!』
悟空の声とともに、ショウタの体が勝手に動き、如意棒が唸りを上げる。
一撃、また一撃。男たちは砂煙の中に消えた。
そして、砂埃の向こうから幼い少女が走り寄ってきた。
「お兄さんたち、お願いがあるの……!」
『どうした?』
ショウタの口が、悟空のように勝手に応じた。
「クラマを助けてほしいの! 怖い人のところへ行っちゃったの!」
「もちろんいいですよ! すぐ助けましょう!」
セリーヌは微笑み、力強く頷いた。
ショウタはただ、訳のわからぬまま溜息をつくしかなかった。
「……なんのこっちゃ……」