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宿屋の息子、成り行きで故郷を守るために親友と一緒に奔走したけど平和な日常が一番だ!~自分はモブでたぶん親友が主人公~  作者: 螺鈿細工


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番外編 キャーライト様の華麗なる一日

働く猫さんのお話です!

 猫という生き物は元来夜行性であり、また世間一般には人間という種族の主とも考えられていることからその生活実態はかなり自由である。


 だが、ここにいるキャーライト(通称・キャット)という黒猫は違った。

 彼は魔女リーザニカと同じ時間を生きている眷属といううわさの黒猫であり、猫ながら人間の言葉で人間と意思疎通が可能である特殊すぎる猫なのだ。


 主である魔女リーザニカは貴族として社会に溶け込んで(いるつもりで)生活している。そしてその辺の怠惰な貴族とは違って精力的に活動しているので、世間一般の貴族のイメージよりわりと規則正しい一日を送っているのだった。

 当然、彼女に付き従うキャーライトも世間一般の猫のイメージよりわりと規則正しい生活を送っている。


「キャット、おはよう」


涼やかな声とともに耳の後ろをなでなでされてゆるりとキャーライトは覚醒した。


「…よぉ。今日はやたら早くねぇか?」


 リーザニカの枕元に置いてある専用のブランケットが彼の寝台である。喉を鳴らしたままあくびをして身体を伸ばす。


「今日は予定が詰まってるのよ。昨日も言ったでしょ?学者先生の会議の後、王陛下も出席する会議があるの。最近の法律とかって忘れちゃうから会議の前に勉強会にも出ることにしたのよね。面倒なことは一日で済ませたいから今日は遅くなるわ」


 魔女の使い魔と思われているとはいえ、キャーライトはしゃべれること以外は普通の猫である。(この際年齢は魔女と同様、考えないことにする)彼がリーザニカと一緒に王宮に行くことはほとんどないので、彼女が王宮に出かけている時は屋敷で留守番だ。


 そしてリーザニカ不在の際、子飼いの組織から定期連絡などで使いが来た場合に対応するのが彼の仕事である。

 そう!留守番と言えど、彼は普通の猫と違うので立派な職務として勤めあげなければならないのだ!


 戦闘服ドレスに着替えて出かけて行ったリーザニカを見送ったキャーライトは日課である屋敷の散歩パトロールを開始した。朝食後のちょっとした運動である。

 さらに屋敷の使用人たちの仕事ぶりを見て、何か困ったことがないか気にかけてやるのもリーザニカの相棒としての務めである(と、彼は思っている)。


「あ!キャーライト様!おはようございます!」


 使用人たちはリーザニカが選んだ優秀な人材である。しゃべる黒猫の彼に対しても主人であるリーザニカと同等の敬意をもって接するようにきちんと教育がされていた。


「んにゃ…今日もご苦労だな」


 使用人へのあいさつとして足に頭をこすりつける。猫はこうすることで自分が主であると示すのだとリーザニカから聞いているので、彼は出会った使用人に対してはいつもそうしている。

 今日もさっそく掃除中のメイドにあいさつしてやった。


「何か困ったこととかはないか?」

「大丈夫です!ここのお屋敷はまさに楽園です!」

「ふ…大げさだな。しっかり励めよ」

「はい!」


 一見尊大な態度でありながらもしっかりと使用人のことを見てやるのが良い主人だと常々リーザニカは言っている。キャーライトは彼女のセリフをまねしながら悠々とその場を立ち去った。


「ウフフフフフフ…キャット様のすりすりもらっちゃった!ウフフフフフ…今日はラッキーデーだわ…!」


 メイドが何か言っているが、ちょっと朝食後の眠気が回ってきたキャーライトはあくびをしていて聞いていなかった。






 一通り屋敷の中を見回ったキャーライトは庭に出てきた。内部は異常なし、使用人たちも元気に仕事に励んでいる。

 庭では庭師が数人で仕事をしていた。そのうちの一人はよくキャーライトの戦闘訓練(遊び)に付き合ってくれる者である。彼を発見したキャーライトは後ろから狙いを定めて…とびかかった!


「うわっ!キャーライト様!?」

「お前たるんでるぞ!俺の殺気に気づかなかっただろ?」


 活を入れるために猫パンチを至近距離からお見舞いしてやった。爪は出さない。使用人にけがをさせてはいけないとリーザニカにきつく言われているのだ。だから威力は半減だが、訓練なので仕方がない。


「ああああ!申し訳ございません!」

「ひとっ走りするからついてこい!」

「はあああああああいいいいいいいい!」


 キャーライトは庭師に自分を追いかけるように指示を出すと庭の中を走りだした。時々振り返って猫パンチを繰り出しとびかかる。庭師はガードするかよけるかしながらキャーライトを捕まえる、という趣旨の訓練なのだが、すばしっこいキャーライトは捕まるわけがなかった。

 しばらく走り回ってお気に入りの木のところにやってきたキャーライトは今日の訓練の終了を宣言する。


「ご苦労だったな。お前、実際にもうちょい背後に気をつけろ。この屋敷は基本的に安全だが、魔女の屋敷の使用人がああも殺気に疎いのは問題だ」

「は、はい!精進いたします!」


 実際には猫のキャーライトの殺気に気づける人間の方がまれなのだが、そのことをキャーライトは知らないのである。充実した訓練を終えた彼はお気に入りの木にするすると登り始めた。


「えヘヘヘヘヘヘヘ…キャット様の猫パンチくらっちゃった!えヘヘヘヘヘヘ…ご褒美ありがとうございます…!」


 庭師は何か言っているが、木の上を吹き抜ける風が気持ちいいと思っているキャーライトは聞いていなかった。





「キャーライト様、お食事をお持ちしましたよ~」


 木の上で一眠りしていたキャーライトは従者の声で目を覚ました。


「んにゃ…もうそんな時間か」


 くぁ~とあくびをして下を見下ろすと、年若い従者がトレイをもってこちらを見上げている。眠っている間に昼食時になっていたようだ。通常、リーザニカが屋敷にいる時は一緒に食事をとるが、彼女がいない場合はこうして従者が届けに来るのである。


「お部屋の中で召し上がりますか?」

「いや、ここでいい」


 ぴょんっと降りてきたキャーライトはそう言った。従者はうなずいてその場にトレイを置く。魚をペースト状にしてゼラチンで固めたものと、それを細かくして焼き上げたものが並んでいる。二つの間には水が入っているボウルが置いてある。

 かふかふかふ…とキャーライトが食事をするのを従者はにこにこ眺めている。


「うん、今日もうまかった」


 完食したキャーライトはぺろぺろと口の周りを嘗め回した。従者はトレイをもって立ち上がる。

「…ん?ちょっと待て」

「はい?何か?」


 キャーライトの耳がぴくぴくっと動いた。


「聞きなれない声がするな…」

「え?」

「いや、人間の耳にはまだ聞こえねぇよ。…猫の声だ!こりゃあ…チビだな」

「え?キャーライト様以外の猫ですか?」

「たまーに貴族の家から抜け出して迷い込むだろ。保護するぞ。ついてこい」


 従者はいったんトレイをその場において走り出したキャーライトに慌ててついていった。


「みゃ~みゃ~」


 果たして、屋敷の裏手の草むらに白い子猫がうずくまって小さく鳴いていた。王宮の敷地内のこのあたりの区画は主要な貴族の屋敷が点在しているため、さっきキャーライトが言った通り、それらの貴族の館で飼われている猫がうっかり抜け出して迷い込んでしまうことがたまにあるのだ。

 奥の方にあるリーザニカの屋敷には人間はあまり訪ねてこないがこのように迷い込む動物は意外と多いのである。


「にゃあん?にゃにゃーにゃ、にゃんにゃ?(おい、大丈夫か?ケガとかしてねぇか?)」

「みゃああん!みゃあんにゃあん?(うわ~ん、こわいよー!けがはしてないけど、ここはどこなの?)」

「うにゃん、にゃにゃんにゃーにゃ。にゃんにゃう(ここは俺の家だよ。大丈夫だ、この人間はいい奴だから一緒に行こう、な?お前の家探してやるからさ)」

「みゃん!?みゃにゃーんにゃ(ホントおにいちゃん!?わかった、ついていくよ)」

「おい、お前、その子を抱えていけ。今話をつけたから大丈夫だ。いったん部屋に戻るぞ」


 キャーライトはこちらをぼんやりと眺めている従者に指示を出した。彼ははじかれたように姿勢を正す。


「あ…あ!はい!」


 従者は震えて動けない白い猫をそっと抱えた。キャーライトはその従者の肩に飛び乗る。


「デュフフフフフフ…キャット様の猫語聞いちゃったぁ!デュフフフフフフ…超レアだぁ奇跡だぁ尊い…!」


 従者は何か言っているが、白猫から身元に関する情報を聞き出そうと話しかけているキャーライトは聞いていなかった。


 屋敷に戻ってきたキャーライトは執事を呼び、メイドの一人(朝会ったメイドとは別人)に白猫の世話を任せた。彼は従者に抱えられているうちに安心して寝てしまったのである。起きたら食事を与えて毛並みを整えておくようにとキャーライトは彼女に指示をした。


 従者は白猫をメイドに預け、キャーライトは執事をつれて書斎に行くというので木の下に放置してきたトレイを片付けに向かった。

 キャーライトが書斎に行くのは手紙を書かせるためである。猫の彼は手紙を書けないので執事に代筆させるのだ。


「なるほど、あの白猫さんはワルツ公爵令嬢の猫さんなのですね」

「ワルツ公爵家ならここから割と近いからな。手紙を書けばあのお嬢さんが迎えに来てくれるだろ。こっちから行ってもよさそうだけどよ、あいつは子猫だ。慣れない奴と馬車に乗るより飼い主に連れて帰ってもらった方が負担が少ないだろうからな」

「左様でございますね。ではお手紙はこのような文面でいかがでしょうか?」


 執事はさらさらと書いた手紙をキャーライトに見せる。ふんふん、と彼は鼻を鳴らした。


「そういえば公爵夫人、ついに愛人の劇作家と別れたらしいな。奴め、男に目覚めちまったらしい。若い女に乗り換えられたんならあきらめつくが、よりによって若い男だったってことだ。そんでへこみまくってるところを慰めようとあのお嬢さんが猫を引き取ったんだってよ。今じゃ二人して猫かわいがりらしいぜ」

「…それはそれは…実に結構でございますね」


 キャーライトはなんとなく耳に入ってくるうわさ話とさっき白猫から聞いたことをまとめてなんて事のないように言った。執事は内心、彼の耳ざとさに舌を巻く一方、話している時のキャーライトの妙に得意げな表情に萌えている。


 封をした手紙を届けさせるために従者を呼ぶ。現れた従者(昼食を運んできた従者とは別人)は手紙を受け取ると同時に来客を告げた。

 それはリーザニカ子飼いの組織「不死鳥」から定期連絡のためににやってきたスーであった。


「リーザは今いないから俺が代理で会う」


 執事をつれてスーを待たせてある客間に入る。


「スー!元気そうじゃねーか!今日はリーザはいないからな。かしこまる必要はないぜ。定期連絡だっけ?お前が来るのは割と珍しいな」

「キャーライト様、ありがとうございます!貴族街どころか王宮とかって僕には場違い感半端ないですよぉ。いつもこっちに来る人みんな出払ってて、でも姉さんから急ぎの書類ってのを預かったから身軽な僕が行くことになったんです。こういうのそれこそ姉さんの方ががいいと思うんですけどね」


 言いながらスーは持っていたカバンからいつくかの封筒を取り出した。

 よく見ると服装も貴族の子弟のようで、出入りしているのを見られてもおかしくないように擬態している。姉のレナは貴族の庶子であるから雰囲気としてはこの区画に住んでいてもおかしくないが、不死鳥のまとめ役としてなかなか拠点を離れることができないのである。


 同じく「不死鳥」の構成員である執事が封筒に書かれた差出人をチェックし、受取証を用意する。リーザニカがいる時は彼女が受け取りサインを書くが、いない時はキャーライトの名前で代筆するのだ。


「ではキャーライト様、こちらへ」


 執事は赤いインクに浸した筆を差し出した。キャーライトは無言で前足を片方差し出す。


「失礼いたします」


 ペタペタ。肉球に筆を滑らせそのまま受取証を押し付ける。ぺたり。拇印…つまり肉球印である。受取証をそのままスーに手渡し、執事は素早く湿った布を取り出してキャーライトの前足を拭く。


「ありがとうございます!では僕は失礼しますね~」

「ん、レナによろしくな」


 勝手知ったるなんとやら、という感じでスーはにこにこしながら出て行った。


「もう一度乾いた布で拭きますね。お疲れでしたらどうぞお休みください」


 次は乾いた布を取り出した執事が言った。インクはキャーライトが舐めてしまっても害がないように特別に作らせたものだが、執事たるもの完璧にふき取るというのを信条としているらしい。


「にゃあー、そうだな、思ったより色々あったな…」

「ムフフフフフフフ…キャット様の肉球スタンプですぞ!ムフフフフフフフ…なんとタイミングが良い日だ。役得ですな…!」


 執事は何か言っているが、肉球への適度な刺激と、午後の暖かな日差しにのどを鳴らし始めたキャーライトは聞いていなかった。







「キャーライト様、失礼いたします。お客様がお見えです。ワルツ公爵令嬢がいらっしゃってます」

「んにゃ…」


 声をかけてきたのは護衛の男である。客間で寝入ったキャーライトだが執事が部屋に運んだそうだ。そして昼間送った手紙を受け取ったワルツ公爵令嬢が愛猫を迎えに来ていると聞いた。すでに白い猫は執事によって客間に通された公爵令嬢に引き渡されたが、キャーライトに直接白猫を保護してくれた礼を言いたいという話であった。


「まぁ!キャーライト様!本日はうちのシルキィを保護してくださって本当にありがとうございます!この子はまだ小さいものですから心配してまして」


 護衛の肩に乗って客間にやってきたキャーライトを見るなりワルツ公爵令嬢は挨拶もそこそこに瞳を輝かせてまくし立てる。まったくもって淑女らしからぬが、それをとがめる者はこの場にはいなかった。


「俺も驚いたがケガがなくて何よりだったな。にゃーにゃん、みゅああにゃにゃあんにゃ(シルキィ、お前も外が気になるのはわかるが勝手に抜け出すんじゃねぇぞ)」

「みゃうみゃうん、にゃうにゃん(うん、おにいちゃんたすけてくれてありがとう!」

「まぁ…シルキィちゃんすっかりキャーライト様と仲良しになったのね!今度リーザニカ様を家へ招待する時はキャーライト様宛の招待状も出さなくては!」


 その後、シルキィがキャーライトと遊びたがったのでしばらく二匹してじゃれていた。お茶を用意されたワルツ嬢はその様子をほほえましく眺めながらくつろいでいる。シルキィが遊び疲れて寝てしまったタイミングで彼女は帰ることにした。

 キャーライトは護衛の肩に乗って玄関に見送りに出る。もう外は暗くなっている時間である。


「すっかり長居してしまいましたわ。キャーライト様、今度リーザニカ様と一緒に是非遊びにいらしてくださいね」

「こちらこそリーザがいれば夕食に誘うところだったが今日は出ずっぱりでな。お言葉は主にしかとお伝えしますよ」

「うふふ…猫紳士様、ありがとう、ではごきげんよう」


 見えたかどうかわからないが、護衛の肩の上からしっぽを振ってやる。ワルツ嬢はリーザニカの「お友達」なので彼もそれなりにサービスするのである。


「にひひひひひひ…キャット様と他猫様が猫会話、戯れてるの見ちゃった!にひひひひひ…しかも肩乗りしっぽ振りとか昇天しそう…!」


 護衛は何か言っているが、走り去る馬車を見送りながら鉄門が閉まる音が結構大きいなと思っているキャーライトは聞いていなかった。


 出かける時に言っていたように、リーザニカは今日は帰りが遅いのでキャーライトは一匹で夕食をとる。いつも彼女がいる時は食事をしながら雑談しつつ、宮廷の情報を交換するのだ。

 一匹の食事は味気ないものである。使用人頭の侍女が運んできた食事をとりながら、執事にワルツ嬢の伝言を伝え、他に連絡事項がないか確認する。


 それにしても今日の焼き魚はうまい!何だかんだ色々働いた感があるからだろう。

 ぺろんと口の周りをなめながら満足げにそう話すキャーライトに、執事や使用人頭はニマニマしている。


「キャーライト様、今日は湯あみの日でございます。ささ、準備はできていますので浴室へお願いします」

「ええー…」


 食後のテンションダダ下がりである。キャーライトはあからさまに顔をしかめた。彼の猫らしいところとして水浴びは嫌いなのだ。だが魔女であり貴族であるリーザニカの代理として、今日のように人前に出る機会がある以上はそれなりの「身だしなみ」が必要なので、週に一回湯あみの日が設定されている。 


 ちなみにこれを決めたのはリーザニカなので、キャーライトには拒否権がない。

 仕方なく使用人頭についていく。

 

 言葉通り浴室には程よい温度の湯が準備されていて、使用人頭は手際よくキャーライトの体を洗っていく。指の間も念入りに、文字通り耳のてっぺんからしっぽの先までとても良い加減で指圧を施され、ついついのどが鳴ってしまう。


「ぐるるうるるるるるるうるるるる…」


 いつもこうだ、とキャーライトは思う。湯あみは嫌いなのにこの侍女の手にかかると実体が保てないぐらいにゆるゆるにされてしまう。リーザニカが横で見ている時なんかは「猫は液体ね」と言っているが、確かに自分は液体かもしれないと錯覚しそうになるのだ。


 神の手を持つとのうわさの使用人頭の侍女は幼い頃にリーザニカに引き取られて50年仕えているので、キャーライトが苦手な湯あみでも心地よくさせる手先の技を極めているのである!彼女は自分が引退する前に適性がある後輩を選び、この技をすべて伝授するのが使命だと本気で思っている。だって自分もそうやって前任者から技を引き継いできたのだから…!


「キャーライト様、終わりましたよ。ささ、乾かしましょうね」


 使用人頭は手早くタオルでキャーライトをくるむと、脱力しきった彼を抱えながら寝室に移動した。すでに暖炉に火が入っていてとても暖かい。暖炉の前、大きなクッションの上にキャーライトを横たえると、当然用意しておいた別のタオルでこれまた絶妙な力加減で体を拭き始める。


 暖炉からの熱気をうまく当てつつ、タオルで風を送るようにふんわりと拭くのがコツである。

 このクッションはリーザニカ曰く「猫をダメにするクッション」らしく、この上に乗ったキャーライトは普段の人がましさも鳴りを潜め、本能には逆らえなくなるのだ。その証拠に彼は瞼を半分閉じた状態で喉を鳴らしながら、前足を交互に上下させ、もみっもみっとクッションをもんでいる。


「ああ、確かにさっぱりしたな~。今日はあちこち動き回ったから、早めに寝るか~」


 くわぁん、と大きく欠伸をする。


「かしこまりました。ではおやすみなさいませ。何かありましたらお声がけください」


 了解、の意味を込めてしっぽを上下に振る。


「くふふふふふふ…!キャット様のもみもみ拝見!くふふふふふふ…キャット様しか勝たんですわ、推せますわ…!」


 使用人頭は何か言っているが、暖炉の火をうつろな目で見つめながら一心不乱に前足を上下に動かしているキャーライトは聞いていなかった。


 寝室はキャーライトが暇な時でも何となくいろいろ遊べる工夫が随所に施されている。それは夜に目が冴えてしまったときに、わざわざ部屋の外に出なくてもちょっとした運動ができるという利点があるためだ。


 例えば木を模した「猫塔」と呼ばれる上下運動兼昼寝スペースとなっているオブジェや、天井付近を歩くことができる「猫道」と呼ばれる渡し板などである。

 リーザニカがいなくて暇を持て余している時はなんとなく使ったりもするが、今日のキャーライトはいつもよりだいぶ運動したのでそこで遊ぶ余力はなかった。ワルツ嬢の飼い猫のシルキィの相手をしたからだ。


 人間相手に「遊んでやる」のとは違って、同族のしかも子猫ときたら相手は全力投球である。当然それに付き合うにはこちらも体力を使うのだ。今日は不死鳥の使いでやってきたスーの面会にも立ちあったし、何だかんだワルツ嬢にもなでなでさせてやったので仕事した感満載である。


「子猫はホント元気だったなー。あー、年は取りたくねぇ」


 一心不乱のもみもみタイムが何となく終わって、キャーライトはそのままダメになるクッションの上で液状化しそうになった。しかし、暖炉の前で眠ってしまうと途中で体が熱くなりすぎていけない。それがわかっているので一旦その場で前足を前に伸ばし、身体を思いっきり伸ばしてあくびをする。

 のそのそと寝台へ向かい、最後の力を振り絞ってジャンプ!リーザニカの枕元に置かれたキャーライト専用のブランケットが敷いてあるスペースに、ぱたりと倒れこむようにして寝落ちした。










 リーザニカが帰宅したのは日付が変わるよりも前であった。いつもそんなに早く寝る方でもなく、時間が厳密に決まっている仕事をしているわけでもないので、久しぶりに社交をしてきたと考えれば貴族令嬢としては模範的な時間である。もっとも彼女のカテゴリーは貴族令嬢というよりも、圧倒的魔女なので日付が変わろうが朝帰りだろうが実際には誰も気にしないが、「不良」の相手をするのが彼女的に面倒なだけだ。


「あら、今日は寝入っているのね」


 化粧を落として就寝準備を済ませたリーザニカが寝室に入ってくると、キャーライトの出迎えがなかった。先ほど執事や使用人頭から今日の彼の仕事ぶりを聞いたので納得だ。

 枕もとの専用のブランケットの上で液状化している彼の耳の間を撫でる。無意識だろうがちょっと頭が上がって、ぐるぐるぐる…とのどが鳴る音が聞こえてきた。


「ふふっ、やっぱりうちの子が一番かわいいわ」


 こうして魔女の眷属と思われているキャーライトの華麗な一日は過ぎていくのであった。

時間はちょっとさかのぼり…


馬車に乗ったワルツ公爵令嬢

「猫紳士様、かっこかわいい…!うちのシルキィちゃんも最高の最高だけど、黒猫さんの老成した魅力たまりませんわ!リーザニカ様ったらちっともキャット様のお話ししてくださらないんだもの。今度はお二人のお名前で招待状を送らなければなりませんわね。お母様にもお話ししておかなくちゃ!」


リーザニカ様のお屋敷にはキャット様の強火担当がいっぱいいそうですw

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