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 ギーズ侯爵夫妻との会談があった翌日、マックスたちは朝食をとりながら今後どうするのかを話し合っていた。


 といっても手紙を送った「不死鳥」から返事がない限り動きようがないと言ったのはキャーライトであって、マックスもレオンもそれ以外に何か考えがあるわけではなかった。問題はここギュズラと手紙を送った王都が離れていて事態が動くのにとても時間がかかる、ということである。


 リーザニカの侍女は、家にばかりこもって考えていても仕方がないので、せっかくだから気分転換に祭りに出かけてはどうかと言った。しかしマックスもレオンもとてもそんな気分にはなれなかった。

 ということで話は振り出しに戻っていくのだったが、そこに来客の知らせがあった。御者の一人がそれに応対するために玄関に向かう。


「やれやれ」と残ったもう一人の御者が言った。「きっとまた、あの人に違いない」

「…実はですねぇ、ここのところずうっと通って来られるしつこい方がおいでなんですよ」


 リーザニカの侍女がため息をついた。


「ここに?一体何の用で?」


 レオンの疑問はもっともだった。祭りの喧騒の中、町外れの不気味なうわさのある遺跡に足繁く通うなどよほどの変人に違いない。


「何の用って、遺跡の見学をしたいというだけですよ。みなさんが遺跡を調べに行ったあたりからやってくるようになりましてね。もちろん、誰も近づけるなとのお話でしたからお引取りいただいたんです。それが来る日も来る日も、今日はどうだいつならいいのか、本当にしつこい方なんですよ。今日もまた食い下がっているんでしょうね。ああ、私怖くなってきましたわ!」

「…そんなに見たいって言うんなら、今日は見せてやれよ。どうせやることもないし」


 暖炉の前の安楽椅子に陣取ったキャーライトは尻尾を振りながら面倒くさそうに言う。それもそうだと思ったレオンは席を立ったが、それをもう一人の御者が慌てて止めた。


「いや、止めた方がいいですな。ただ単にしつこいというだけでなく、怪しい人物なんです」

「というと?」


 リーザニカの侍女と御者は話したものかどうか、顔を見合わせて首をかしげた。だがこういった場合には隠し立てなどせずにむしろ注意を促す方が賢明だと思った。


「あの人はギュズラの人ではないようで、最初はただ遺跡の見学をしたいと言ってきただけなんですが、どうも貴方たちのことをかぎまわってるようなんです」

「おれ達のことを?」

「ええ。この家にはレオンっていう赤毛の男が住んでいるはずだから彼に会わせろだの、マックスという人も一緒にいるはずじゃないか、などと言ってくるんです。きっと町の中でお二人のことをかぎまわってるに違いありませんよ!」

「我々は留守を預かっているだけなので、わからないし会えないと言ったのです。実際にあの人が来ている時、お二人はいつも留守でしたので。しかし毎日やって来てはいつなら会えるのか、と聞いてくるんです。お気をつけになった方がいいですよ」

「しかし聞いたところだと、そいつは本当に遺跡に行きたいのかな?レオンの名前を出すのはわかるけど、おれのことまで知ってるなんて普通の観光客じゃないぞ。おれたちに会うのが目的じゃないのか?」


 レオンはともかく、マックスまでここに滞在していることを知るにはかなり念入りに情報を集めていることがうかがえる。となれば、その人物はマックスとレオンに会うことが目的なのだろう。


「そいつの名前とかはわかんないのか?」

「わかっていたらこんな回りくどい注意はしませんわ。名乗らないんです。会えばわかるはずだの一点張りで。だから怪しいんです」

「声からするとかなり若い人だということはわかるんですが、何せ顔もよく見えないので怪しいですな。雪よけのための頭巾のついた外套を深くかぶってそれを下ろそうとはせんのです」


 今度はマックスとレオンが顔を見合わせて首をかしげた。


「これはひょっとすると、本当に知り合いかもしれないぞ」

「だとしたら確かに、会えばわかるな」


 二人は制止を振り切って玄関に向かっていった。

 扉の向こうからさっき出て行った御者が来客の対応に苦心しているらしい声がする。客は客でいつもどおり食い下がっているようだった。その声にマックスたちは聞き覚えがあったので、扉を開けた。

 急に扉が開いたので御者は驚き、怪しい来客は歓声を上げた。


「二人とも!」

「スー!お前、スーだな!」


 そこにいたのは王都で会ったスーで、彼らが手紙を出した「不死鳥」のレナの弟であった。


「こいつは本当におれたちの友達でリーザニカ様の仲間なんだ」


 マックスは状況が飲み込めてない御者に向かって説明する。その間にレオンはスーを連れて家の中に戻って行った。

 家の中はちょっとした騒ぎになった。今まで怪しい奴として追い払ってきたスーが本当にマックスたちの知り合いで「不死鳥」だというのだ。使用人たちは口々にそれならそうと早く言ってくれればと口ごもったり、平謝りしたりと忙しい。


 レオンはスーのために温かい飲み物を出すように頼みながら彼の外套についた雪を払った。マックスは手紙を出してそんなに時間が経ってないことを不思議に思いながら、寝入っているキャーライトを起こしにかかる。


「おい、キャット、起きろ!王都から『不死鳥』が来てくれたぞ!」


 キャーライトは飛び起きた。


「何!『不死鳥』だって!」


 彼はテーブルに飛び乗るとスーの顔をまじまじと見た。


「キャーライト様!」

「ああ、お前レナの所のスーだな!」


 スーはうなずきながら居間の中を見回した。


「…あの、ところでリーザニカ様は?」

「やっぱり、手紙を読んできたんじゃないんだな…」


 マックスは小さくつぶやいた。キャーライトの耳はそれを聞き逃さない。彼は冷ややかな声で言った。


「何言ってんだよマックス。当たり前だろ。こんなド田舎のギュズラから出した手紙が二、三日で王都に着くわけねーよ。こいつは別件で来たんだ。そうだろ?」

「はい。でもその様子だと、本当に何かあったみたいですね。姉さんの言ったとおり、急いで来てよかった」

「レナさんが?何でギュズラに来るように言ったんだ?」

「つまりこうさ!」


 スーは前もって話すことを整理しておいたらしい口調で説明を始める。


「レオンが鍵の継承者で、自覚はないけど僕たちの仲間だってことは前から知ってたんだ。それは病院で初めて会った時にレオンが言ってたからね。ところが僕たちが驚いたことは、その後君たちがリーザニカ様を探しに王都にやって来たことさ」

「オレが怪我をした時のことだな」

「うん。あの時リーザニカ様の話をしてしまえばよかったんだけど、姉さんがマックスのことを知らなかったから、警戒して黙ってたんだ」

「そうだったのか…」


 マックスは酒場でリーザニカの話をした時の奇妙なほどの驚きを思い出していた。


「君たちをポルカ伯爵様のお屋敷に送った後、姉さんとギュズラの遺跡に何かあったんじゃないかって話をしてたんだ。リーザニカ様に話してみるのがいいって結論になって、次の日に出かけて行ったんだけど、お会いすることができなかった」

「その日ってリーザがこいつらに直接会いに行った日だろ?間が悪かったな」

「それだけじゃなくて、王宮にいる『不死鳥』の貴族たちにもそれとなく聞きに行ったんだ。でもギュズラのことは誰も知らなくて、夜にもう一度リーザニカ様に会いに行ったら旅行に出かけたって言われたんだよ」

「なるほど、オレたちはすぐにリーザニカ様とギュズラに向かったからな」

「そしたら姉さんがこれは本当に何かが起きているのかもしれないから、すぐに追いかけるように言ったんだ。僕はすぐに出かけて、君たちに少し遅れてギュズラに到着したわけさ」


 キャーライトは話を聞いて満足そうに一声鳴いた。


「レナは勘がいいな!それでお前は毎日ここに来てたのか」

「はい。僕が泊まった宿は『灯火』だったので、知りたいことはすぐにわかりました。先代の鍵の継承者のことから始まって、君たちがどこで何をしているのか。名乗らなくてすっかり不審者になっちゃったけど、レオンは僕たちの正体を知らなかったし、僕は『不死鳥』の中でも隠れて動くタイプだからレオンたちに直接会うまでは言えなくて…。不安にさせてごめんなさい!」


 マックスとレオンはようやく話がつながって一安心した。リーザニカの使用人一同も話を聞いて納得したようである。「不死鳥」の組織の全貌は所属している当人も不明確なので、顔も名前も知らない仲間がいるというのは当たり前のこと。素性を明かせない事情もあり、気にしないのだ。

 スーは納得したみなと対照的に不安そうな顔をする。


「ただ、この場にリーザニカ様がいないことを考えると、事態は僕が思っているより深刻なのかもしれないね…」


 気まずい沈黙が流れた。

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