Ⅱ
この沈黙はスーの懸念を肯定しているものであった。マックスたちはスーがまだ知らずにいること、つまり奇妙な遺跡の中で何があったのか、信じがたい出来事を話した。
「…要はそのリシャールって奴が今回の事件の鍵になるんだね?」
一通りの話を聞き終わってスーが言った。
「早い話がそうだ。リシャールのヤロー、中途半端に死にやがったから、奴の周りの時間だけが変な風に流れて、あの悪趣味な、800年前そのままの古臭い城に立てこもってやがるんだ」
キャーライトは憎々しげに言う。マックスはいよいよ話が核心に及んだのを見て、気になっていることを聞いてみようと思った。
「ところでキャット、お前は『不死鳥』を呼べばリシャールの奴をやっつけられるって言ったよな?それでスーはここにいるんだ。いい加減教えてくれよ。具体的に何をするんだ?」
レオンもその通りだ、というような目でキャーライトを見る。彼はテーブルの上を歩き、スーの方へ寄っていった。
「お前ここまでは何の馬車で来た?」
「店の馬車で来ました」
「今はどこにある?」
「宿です」
「だが、御者は?店の関係者か?」
「僕自身がその役目をしてここまで来ました」
「お前が?」
キャーライトは少し驚いて言った。
「小さい馬車だから僕でも扱えました。あの外套はとても暖かいですし、身軽な方がいいと思って」
「で、荷物は?」
「宿に置いてあります」
「不用心じゃねーか?」
「ギュズラに泥棒なんていませんよ」
マックスは口を挟んだ。レオンも同意したが、キャーライトはそれを無視して続ける。本題はそこではないのだ。
「レナから何か特別な荷物を預かってこなかったか?」
「もしかして、細長い箱みたいなものですか?」
「にゃい!それだ!」
キャーライトは嬉しそうに叫んび、反対にスーは困惑した。
「何が入っているのかわからないんです。それに開けられませんよ」
「鍵がかかってるんだろ?心配すんな。鍵ならこいつが持ってんだよ。レナは本当に勘がいいぜ」
「まさか、遺跡の鍵で開くのか?」
「なかなか凝ったカラクリだろ?スー、荷物を馬車ごとここに引きずって来い」
「はい!」
スーは外套を引っ掛けると元気よく外に出て行った。
「ここにもう一人ぐらい客が増えたってかまわねーな?関係者はまとまってたほうが便利だ」
「確かに。まだまだ部屋は空いてるしな」
「この家も宿屋にしたら儲かるんじゃないか?立地がちょっと悪いけど」
マックスは冗談交じりに笑って言った。
すぐにスーが使う部屋を選んで全員で簡単に片づけをする。そうしている間に、荷物を載せた馬車を御してスーが戻ってきた。リーザニカの御者たちは鉄門を開けて馬車を厩の方に先導し、マックスたちは荷物を部屋に運び込むのを手伝った。
荷物といっても大した量ではない。身の回りの日用品と、旅行用の着替えや防寒具といったものが主だった。
「おい、レナから預かってきた箱はどこだよ?」
キャーライトは待ちきれないといったように聞いた。
「ええっと…、これです!」
スーはカバンの一つから絹織物に包まれた箱を取り出した。
彼が言っていたとおり、それは薄く細長くて何が入っているのか見当がつかなかった。だが木製の箱そのものはきちんと磨かれていて、細工を施した金の留め金が美しく大切に保管されていたことがうかがえる。
そしてその薄い箱には不似合いなほど大きな鍵穴があった。
「よし!間違いない、これだ。レオン開けてみろ」
レオンは遺跡の鍵を取り出して、箱の鍵穴に差し込んだ。
箱の隙間からは赤とも黄色ともいえるような妙にキラキラした光が漏れ出し、レオンが鍵をまわして箱を開けると、その光は部屋を満たして一瞬視力を奪った。
「うわっ!」
「何だこれ!」
箱の中にはさっきの光と同じような色の何かが薄布に包まれて入っている。形からして鳥の尾羽らしいが、大きさからするとかなり大きな鳥の物だろう。手に取るとそれは淡く輝いていて、光の当たり方により、虹色に変化して見える。
「うわぁ、きれいですね。キャーライト様、これは何ですか?」
箱の中身を初めて見たスーは羽根を手にとって純粋に感動して言った。一方マックスたちは怪訝そうな顔をした。
「キャット、これは…」
「これはフェニーチェの尾羽だ」
「これが?本当なのか?」
「何でこんなものが残ってるんだ?」
「これがあればリシャールの奴に勝てるのか?」
「そうだ。むしろ、これしか方法はない」
「こんなので?どうやって?」
「何?そのフェニーチェって?」
キャーライトを囲んで三人は口々に疑問を発する。
「うるせえな!質問は一つずつしろよ!」
「わ、悪かったな」
「まず、フェニーチェっていうのはだな、そうだな…昔に絶滅して今はもういない動物のことだ。デカイ鳥だった」
キャーライトは詳しく説明するのが面倒になったので簡単にそう説明する。スーの方も本当に重要な話はその先だとわかっているのであえて詳しく聞こうとはしなかった。
「俺とリーザが実際に若かった頃はまだこいつがいて、ある事情からこの羽根を手に入れたんだ。それでこの箱に入れて、鍵の継承者とは別なやつらに保管させてた」
「それが『不死鳥』、僕の家…」
「何でそんな面倒なことをしたんだ?箱の鍵は遺跡の鍵と一緒なんだから、オレの家に預けておけばわざわざ届けてもらう必要はなかっただろ?」
レオンの疑問はもっともだ。
「ああ、ところでこれはただの鳥の羽根じゃねぇ。これにはとんでもない力があるんだ。今俺たちが追っているリシャールの奴が死んでも死にきれてねーのは、こいつのせいなんだ。俺とリーザが長生きなのもな。誰かが何かのきっかけでこいつを悪用しないともかぎらねぇ。そんなことがないように、引き離して保管する必要があったんだ」
「それもそうか。フェニーチェなんて誰も知らないわけだし」
「つまり、彼が800年間、この家の裏の遺跡で眠っているのはこの羽根のせいだってことですか?」
「まぁ早い話そういうことだ」
マックスとレオンは神秘的な光を放つフェニーチェの羽根を、スーのように手に取らずに遠巻きに眺めている。ギーズ侯爵の所でキャーライトから聞いた過去の話、この尾羽がエルネア姫の父王の首に巻きついていたものであるという忌まわしい事実を思い、その美しい輝きもまがまがしいものにしか映らなかった。
ちょっと気味が悪いな…、と二人はアイコンタクトでうなずき合った。
「具体的には、これをどうすればいいんだ?」
「あれだ、毒をもって毒を制すってやつだ。フェニーチェの力はフェニーチェの力で打ち消してやればいい」
キャーライトは妙に得意げに言った。マックスはあきれたような顔をする。
「お前それ全然具体的な説明になってないぞ」
「…まったく、人間は面倒だぜ。まずリーザを助けるだろ。これが最優先だ。それからリシャールのヤローを適当に追い詰めて、この羽根で止めを刺す。これがないとだめだって言ったのは、この羽根で止めを刺さないと結局あいつが死にきることがないからだ」
「だから!その止めをどうやったら刺せるかって聞いてんだよ!」
「つまりフェニーチェの力をだな、フェニーチェの力でもって…」
キャーライトの歯切れは悪い。
「お前、本当は知らないんじゃねーの?」
「とにかく、リーザを連れ戻すことが第一だ!あいつなら俺がわからないこともわかる!」
「マックスもレオンもキャーライト様ばかりを責めても仕方ないよ。早くリーザニカ様を助け出さなくちゃ!」
「わかったわかった。悪かったな」
二人は反省したようにうなずいた。
「スーがおれ達を追ってきてたおかげで、目的の物はそろったな。そしたらもう待つこともない。もう一度、遺跡に行こう!」
「おう!」
「待て待て、そう慌てるな。ギーズ侯爵に知らせておくって約束だっただろ?まずレオン、侯爵に手紙を書いて、軍の支援の方を頼むって念を押しておけ。それから中では何が起きるかわかんねぇ。準備は念入りにしとくんだ。スー、手伝え。それで明日出発しよう」
レオンは侯爵に手紙を書いて届けた後マックスとともにカリストの墓参りをした。葬儀の日以来、レオンがそこに来るのは初めてだった。
帰り道、ずっと黙っていたレオンが口を開く。
「マックス、次は無事に全部解決できたぜって報告しに来ような!」
「もちろんだ!」




