セロ衛士、荒野を進む(前編)
「ズンチャチャチャー、ズン、チャチャー!」
私は、効果音を付けて歩いて行く。
大きな音を出してると、昼間ならば、怪異は近づいて来ない俗説があるのだ。
効果は不明だけど、やらないよりマシかも。
数千年単位の風雪で建物が崩れ落ち僅かに残りし残骸まばらに有りしも、人一人として誰もいない原野を、派手に効果音を口で歌いながら、ワタシは、活歩していく。
将来の大勇者の最初の冒険譚だよと、無理やり心を鼓舞していくの。
決して寂しかったり、チョッチ怖かったりするわけではないノダヨー。
誤解すんなよ!
お貴族様のお願いは、建前で、実はギャル先輩の依頼であった。
嬉しい…あのギャル先輩がワタシを頼ってくれた。
名付けて、ギャル先輩の親友のアールグレイ少尉をお助け大作戦!
作戦完遂の為、長期の休暇をとった私だったが、貸与品であった軽甲冑は返せと言われたから返納してしまった。
衛士隊、セコイよ!
そこで今まで貯めてきた貯金を全額引き出し、更に私に気があるらしい諸先輩達を拝み倒して、イエンを借りて、旅路の装備品を買い揃えた。
格好良い、高性能の部分鎧、それと図太い剣が一振りで手持ちのイエンが全額消えた。
しかし、ワタシにピッタシだしお似合いですよと言われ鏡に映してテンション上がりまくりだから、この買い物は仕方ないのだ。
旅路の装備品の良し悪しは、生命の代価と直結するとギャル先輩からクドイほど言われてるし。
それで、懇意の店のオヤジの言うことにゃ、神話のワルキューレのようだと褒められたし。
あのオヤジ、なかなか観る目がアルヨネ。
でも全額はたいた甲斐はあったと思う。
懇意だからと半額に負けてもらい、更に餞別に値引きしてもらったのに、それでも、ある意味予想通りの高額だった。
何で防具や武器って、こんなに目の玉が飛び出るほとに高いんだよー!
お陰でバス代金も出せない始末で、目的地まで歩くことにした。
なに…これくらいの試練大したことはない。
但し、夕暮れまでには、都心に入らなくては生きて帰れないだけ。
…
アカハネと都心に挟まれたこの荒野は、文明崩壊後、人が住める場所ではなく、夜一人で泊まるには自殺行為なのは、流石に世間知らずなワタシでも分かっている。
夜の原野は怪異達の領分で、鉄壁の外壁で覆って高速で走る夜行バスでなければ無理。
しかし、バス代高し…今回は歩いて運賃を浮かせるしかない。
大丈夫…わたしも、この若さで人生を終わらせる気はない。
前日は準備に当て、今日は間に合うよう朝早くに出発した。予想では夕方ギリには着けるハズ。
それにもし怪異に遭遇しても、部分軽甲冑の次に高かった、この剣…貫き丸で、昼間出る怪異など、バッタバッタと薙ぎ倒してくれるわ…ワハハ。
これでも、ワタシは、ギャル先輩には及ばぬまでも、剣の扱いには自信があるヨ。ホントだよ。
稽古の時、諸先輩からは、泥臭い野獣のような剣筋だと褒められているし、実際最後の最後では勝ってるし、実戦では、何をしても勝てばよかろうなのだ。
…
ヒー、ハー、…ま、まいった。
あれから何時間歩いても、景色が変わらない。
振り向けば、アカハネの街並みは既に消えてない。
…舐めてた。
水を1リットルのボトル1本しか持って来なかったの失敗したー。
既に水はない…飲み干してしまった。
ポケットに偶然入っていた飴玉を口に放り込み、ボリボリ齧る。
ま、まずい…既に太陽は中天を下り始めている。
ワタシは焦り昼休憩を短時間で切り上げ、無理やり足を動かした。
軽甲冑は、最小限の部分鎧で、軽く薄いが衝撃吸収度抜群のこの魔法合金で出来ている超高性能のを選んだが、地味に…段々重く感じてきた。
剣などは、言わずもがな…スッゴイ重い。
小さい頃は、街中で偶に見かける騎士が重甲冑の全身鎧を装備して軽々と動くのを見て、甲冑なんて大して重くてないわなどど思ってたな。
大いなる勘違い、今なら分かる。
いやいや、あいつらバケモンだよ。
あの重甲冑の十分の一にも満たない軽部分鎧でも、重いよ、ワタシには堪えられないわー。
でも、この原野で脱いで捨てるわけにもいかない。
気づいたらアカハネで育っていたワタシは、他の場所を知らない。
しまった…もっと真剣にギャル先輩の注意点を聞いておけば良かったと後悔する。
脳味噌絞り出し思い出すを試みる。
えーと、うー、確か、荒野を一人で歩くは極力控えるべし…もう遅い!
えーと、あとは、それでも行くときは水だけは多めに、行動食を携行して…今からでは間に合わない。
ああ、あとは覚えていないや。
…ガクリと項垂れる。
軽く流して聞いてた…充分に聞けば良かったと思うけど、もう後の祭りだよ。トホホ。
…
そして、とうとうワタシは、廃墟の跡の岩に腰を降ろして、天を仰いだ。
完全にオーバーワークです。
足腰が痛く、鎧や剣が重くて、立つ気力も尽きました。
ああ…ワタシ、頑張ったよ。
もう、動きたくない。
疲労で霞んだ眼を南方に向ければ、地平線が見えるばかりで、目的地である都心を囲む城壁は見えない。
…
…見えないけど、コチラに走って来るナニカが見えた。
…
荒野に人は通らない…遭遇する確率は、ほぼゼロです。期待するなと、ギャル先輩の声が再び思い出された。
…ならば、アレは?
緑色の朧に光る大きな顔を左右に振りながら哄笑し走って、コチラに近づいて来ている。
…確実に人間ではない。
背筋が戦慄し震えた。
遠いのにあんなにハッキリと見えるのは、かなりの巨大だからと…分かった。
巨顔に大足が付いた意味不明な生き物…あんなの怪異に決まっているジャン。
自分の息遣いが、ひどく荒く感じた…




