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多田笑のコメディー短編集  作者: 多田 笑
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6/10

たこやき

しいなここみ様主催『無謀! 瞬発力企画2』参加作品です。

 放課後の教室。


 部活へ向かう足音が廊下を駆け抜け、遠くのグラウンドからは掛け声が聞こえてくる。


 そんなざわめきの中、窓際の席で亜季は机に突っ伏していた。


 そこへ奈津紀が声を掛ける。


「どうしたの、亜季?」


「奈津紀……。今回の瞬発力企画のお題が“たこやき”なんだけど、何か良いアイディアない?」


 顔だけ上げて、困ったように言う。


「うーん……。“たこやき”ね……。平仮名4文字だし、“あいうえお作文”なんてどう?」


「“あいうえお作文”……! いいね。でも、それって、どんな題材でも使えちゃわない?」


 沈黙。


(あれ? 余計なこと言った?)


 さらに沈黙。


(長い……)


 まだ沈黙。


(気まずい……何か言わなきゃ……)


「あ、あいうえお作文にして、たこやきにピッタリな文を作れたら良いよね……?」


 おそるおそる言うと、奈津紀はぱっと笑顔になった。


「それ、いいじゃない! じゃあ勝負しましょう。本物の“たこやきJK”を決める戦いよ」


「“たこやきJK”って何……? で、どうやって勝負するの?」


「委員長に審査してもらうの。三作品ずつ発表、各10点満点。合計点で勝負」


 奈津紀はそう言って、クラス委員の滝口くんを呼んできた。


「負けた方が、たこやき奢りね」


「いいわ。やりましょう」


◇


「では、どちらから?」


「はい、私から!」


 亜季が元気よく手を挙げる。


「一つ目、いきます」


『た:大変だ

 こ:焦がしちまったぜ

 や:焼きすぎた……

 き:君の分だけ』


(自分のは成功してるのかよ……)


「2点」


「辛(から)い……採点が辛(から)い……!」


「次は私よ」


『た:タコ入れて

 こ:粉を混ぜ混ぜ

 や:焼きましょう

 き:きゃー、水を入れるの忘れてた』


(なんで二人とも失敗しているんだよ……)


「2点」


「えぇー!」


「はい、二つ目!」


 亜季が再び手を挙げる。


『た:たくさん食べたい

 こ:この気持ち

 や:やせるためには

 き:今日も我慢』


(うまい。でも、たこやき関係ない……)


「1点」


「そんなぁ!」


「私も負けないわ」


『た:確かにある

 こ:恋心

 や:やっぱり

 き:君に伝えたい』


(だから、たこやき関係なくない!?)


「1点」


「なんでよ!」


 奈津紀が肩を落とす。


「最後よ! 自信作!」


『た:助けてよ

 こ:怖いよ怖い

 や:やつが来る

 き:金箔だらけのおじいさん』


(金箔だらけは怖いけど……方向性が違う)


「0点」


 亜季も机に突っ伏す。


「これで決まりね!」


 奈津紀が勢いよく紙を突き出す。


『た:たけし!

 こ:こんな

 や:やつ

 き:気にすんな!』


(誰だよ、たけし)


「0点」


「ちょっと! 厳しすぎない?」


「そうよ! そんなに言うなら、滝口くんもやってよ!」


「……分かったよ」


 滝口くんは、ため息をひとつついてから、すぐに書き上げた。


『た:たこやきは

 こ:ころころ丸くて

 や:やっぱりうまい。でも、

 き:君たちには作らせたくない』


 一瞬の沈黙。


「うまい!」


「なんでよー!!」


 教室に笑い声が広がる。


 窓の外では、夕日が校舎をオレンジ色に染めていた。


「じゃあ、みんなでたこやき食べに行こうか」


「「いいね!」」


 三人は教室を後にする。


 誰もいなくなった教室には、まだほんの少し、楽しそうな空気が残っていた。

最後までお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字、誤用などあれば、誤字報告いただけると幸いです。

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