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多田笑のコメディー短編集  作者: 多田 笑
3/3

婚約破棄されそうなので、“モテなくする呪い”を依頼しましたわ

「クリスティ、君との婚約を破棄したいと思っている」


 午後のカフェテリア。優雅に紅茶をのんでいると、シロンジーはあまりにも軽く言った。


「……理由を伺っても?」


「もっとモテたい……。女性と、もっともっと遊びたいのだ!!」


 カップが震えた。


(最低ですわね……)


 だが同時に、胸の奥が締め付けられる。


(それでも……わたくしはシロンジー様が好きなの! 幸せになれないかもしれない……。けれども、シロンジー様を失いたくない……)


 そして、クリスティは思いつく。


(そうだわ! シロンジー様がモテなければ良いのよ!)

 


 クリスティが向かったのは、路地裏の呪術士の館。


「ほうほう、“モテなくする呪い”ね……。コースは三段階。松・竹・梅、どれにしますか?」


「一番お安いもので」


「梅ですねぇ!」


 翌日。


「やあクリスティ!」 


 笑顔でシロンジーが声をかける。


(わたくしに、最初に声をかけてくださるなんて……。これも呪いの効果かしら……)


 しかし──


「昨晩はチキンを食べたんだけど、全然、取ることができなくてね……。()()()()()()い。な~んつってぇ~、ははははは!」


「……」


 ドヤ顔で親父ギャグ。

 しかも、自分は大爆笑。


「いやぁ、今のうまくない? “とりにく”と“とりにくい”をかけたんだ! 面白過ぎるでしょ!」


「……」


 空気も読まない。

 相手の反応も気にしない。

 そして、ギャグの解説をし続ける。


 クリスティは思った。


(ひどいですわ……。これは、モテなくなりますわね……)


 だが数日後、奇妙な現象が起きる。


「シロンジー様! 今日のギャグ、最高でしたわ!」


「“布団が吹っ飛んだ”なんて! 誰も思いつきませんわ……!」


 コアなファンが生まれていた。

 しかも妙に熱量が高い。


「わかる人にはわかるんだよね!」


 シロンジーはさらに調子に乗る。


 クリスティは青ざめた。


(ダメですわ、このままでは……)


 再び呪術士のもとへ。


「竹コースも、お願いしますわ」


「お、ランクアップですねぇ! ありがとうございます」



 翌日。


 シロンジーは燃えていた。


「クリスティ!! おはよう!! 今日もいい一日にするぞおおお!!」


「うるさいですわ!」


 声量が三倍。

 距離感がゼロ。


 そして何より──


「もっと熱くなれよ!! 君の紅茶も冷めてるぞ!! 心で温めるんだ!! 君の心の炎を燃やし続けるんだよ!!」


「どういう理屈ですの!?」


 まるで元テニスプレーヤーのような暑苦しさである。


 親父ギャグの寒さは消えた。だが代わりに、暑苦しさで押してくる。


「恋愛ってのはなぁ!! 気持ちなんだよ!!! 契約じゃない!! 家と家の繋がりじゃない!! 魂だ!! みんなの魂を燃やし尽くせ!! それが恋だ!! 愛だ!!! 諦めたら、そこで試合終了なんだ!!!」


「熱い……熱いですわ!! そして、セリフに“!”が多すぎます!」


 周囲は引いた。


 そして、クリスティは思う。


(これは、ウザい……。もう、モテることはないはずですわ……)


 だが──


「素敵……!」


 コアなファンは、まだまだいた。


「その情熱……たまりませんわ!」


(なんで、なんで、あの熱量に耐えられますの!?)


 クリスティは頭を抱えた。


「もう最終手段ですわ」


 再び呪術士の館へ。


「松コースで」


「ついに来ましたねぇ」



 翌日。


 シロンジーは静かだった。


「クリスティ、僕は思うんだ」


「……今度はなんですの」


「婚約とは、将来結婚するということなんだ」


「……はい?」


「つまり、婚約をしているということは、結婚の約束をしているということになる」


 哲学っぽいことを言っているけど、中身が全くない。


「だから僕たちは、結婚の約束をしている。なぜなら、婚約しているからだ」


「同じ意味を繰り返していますわ!!」


 熱さは消えた。

 だが理解不能になった。


「僕は気づいたんだ。愛とは、LOVEであるということ。つまり、LOVE&PEACEとは、愛と平和なんだ!」


「何を言いたいのか……全くわかりませんわ……」


 しかし──


「深い! さすがですわ、シロンジー様!」


(コアなファンが、まだいるんですの!?)


◇ 


 数日後。


「クリスティ。君といると、二人でいるという状態になる。それってすごいことなんだ」


「そうですわね、すごいですわね」


 完全に棒読み。


 かつて好きだった相手は、今や“意味不明な哲学を語る男”になっていた。


「だから僕は思う。僕たちは一緒にいるべきだ。なぜなら、一緒にいるべきだからだ」


「もう結構ですわ」


 クリスティは立ち上がり、微笑む。


「婚約破棄いたしましょう」


「なるほど。婚約を破棄するということは、婚約をやめるということだね。つまり、結婚の約束を無しにするということだ!」


「ええ、そうですわ!」


 かつて、モテたかった男は、寒くなり、熱くなり、意味不明になった。


 けれども、一部の層には刺さり続ける。


 クリスティは思った。


(恋は盲目と申しますが……、このウザさは無理ですわ……)


 婚約破棄させないための呪いが、婚約破棄させる結果になった。


 もしかすると、これが呪い返しなのかもしれない。

最後までお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字、誤用などあれば、誤字報告いただけると幸いです。

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 コアなファンは何処にでもいるもので。書庫裏めの好きな俳優さんのファンにも、その俳優さんとの記念撮影の時に「私の首を絞めるポーズをしてください」(連続殺人鬼役で有名な方なのです)とお願いし、その俳優さ…
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