中二病の婚約者かと思ったら、わたくしは光の戦士のようです
少しでも笑っていただけたら嬉しいです。
わたくしの婚約者、エルディオン様は──いわゆる中二病というやつでございます。
初めてお会いした日から、それはもう見事なまでに。
「我が名はエルディオン。深淵に刻まれし運命の継承者にして、終焉を退ける最後の楔なり」
「……エルディオン様、はじめまして。フィリアーナと申します」
自己紹介すらまともにできない方なのかと、正直なところ不安でいっぱいでございました。
ですが、婚約はすでに決まっており、今さら覆すこともできません。
(きっと……慣れれば大丈夫ですわ)
そう思っていた時期が、わたくしにもありました。
◇
「この世界に間もなく闇が訪れる。光の戦士を探し出すのだ」
ある日の午後、窓の外を見つめながら、エルディオン様はそう呟きました。
「まあ、大変。もうすぐ夜になりますものね。ランプを点けておきますわ」
わたくしは手際よくランプに火を灯します。
「……違う。愚かなる人間よ、これは比喩ではない。世界の理が崩れようとしているのだ」
「はいはい、風が強い日はランプが消えやすいですものね」
エルディオン様は頭を抱えておられましたが、わたくしは気にしませんでした。
また、あるとき。
「我が右腕が疼く……封印が、限界だ……」
「まあ、大変。湿布をお持ちしますわね」
「やめろ、その処置は無意味だ! これは医術でどうこうできるものでは──」
「温めますか? 冷やしますか?」
「……冷やしてくれ……」
気持ち良さそうなお顔で、湿布を貼られていらっしゃいました。
またまた、あるとき。
「血塗られた月が昇る夜、我を蝕む魔獣たちが餓えの咆哮を上げるだろう」
「まあ、そろそろ夕食の時間ですから、お腹が空きましたものね」
「違う……違うのだ……」
「夕食には、ビーフがよろしいですか? それとも、チキンですか?」
「……チキンが良い」
エルディオン様は、遠い目をしながら答えました。
◇
しかし──数日後。
それは、本当に起こりました。
最初は、小さな違和感でした。
昼間だというのに、空がどこか薄暗い。
鳥の鳴き声も聞こえず、風が止まり、世界が静まり返っていく。
「……フィリアーナ」
エルディオン様が、いつになく真剣な声でわたくしの名を呼びました。
「ついに来た。世界を覆う“終焉の闇”が」
冗談だと思いました。
ですが──次の瞬間、空が裂けました。
まるで夜が無理やり引きずり出されたかのように、黒い闇が空を覆い尽くし、太陽の光を呑み込んでいきます。
「な……に、これ……」
わたくしの手からランプが落ちました。
昼間なのに、まるで真夜中のような暗さ。
街のあちこちから悲鳴が上がります。
「言ったはずだ。闇が訪れると」
エルディオン様は、静かに一歩前へ出ました。
その背中は、いつもの奇妙な言動の方とは思えないほど、頼もしく見えました。
「光の戦士は……どこに……」
わたくしが震える声で尋ねると──
「すでに覚醒している」
エルディオン様は、わたくしの方を振り返ります。
「え……?」
「お前だ、フィリアーナ」
「わたくし……?」
信じられませんでした。
けれども、その瞬間、胸の奥が熱く輝きました。
まるで光が灯るように。
「その魂に宿る光──それこそが、この世界を照らす唯一の希望だ」
エルディオン様の言葉とともに、わたくしの身体が淡く輝き始めます。
「嘘……こんなの……」
「嘘ではない。すべては必然。我らが出会った時から、運命は動き出していたのだ」
その声音には、いつもの芝居がかった調子はありませんでした。
そして──
「さあ、叫ぶのだ」
「……はい?」
「“ときめき満開☆サンシャインハートとミスティックムーンで、ラブラブ・ドキドキ・ミラクル変身♡プリティ・サン&ムーン・きらりんライトアップ!”と」
(……え?)
「今、なんと……おっしゃっいましたか……?」
「光の戦士プリティ・サン&ムーンとなるための、正式な詠唱だ。省略は許されぬ」
「長いですわ!!」
「一言一句、正確にだ」
「無理ですわ!!」
「さあ!! 声に出せ!! 急ぐのだ!! 世界が滅ぶぞ!!」
エルディオン様の眼差しが、異様に真剣で怖いのです。
「さあ!! さあ!! 可愛らしさを込めるのだ!!」
「こんな状況で可愛らしさ要求されます!?」
けれども──やるしかありませんでした。
その後のことは、よく覚えておりません。
何度か詠唱をやり直させられ、「今のはドキドキが足りない」とか「きらりんが弱い」とか指摘された記憶はございますが……。
最終的に、わたくしは光に包まれ、闇を押し返すのです。
気がついたときには、空は元の青さを取り戻しておりました。
◇
後日。
「さあ、新たな敵の襲来に備え特訓だ」
エルディオン様が静かに告げました。
「特訓……ですの?」
「ああ。次なる闇は、比べものにならぬほど強大だ。ゆえに、光の戦士も更なる高みへ至らねばならぬ」
「……パワーアップ……?」
(嫌な予感しかしませんわ……)
わたくしは一歩後ずさります。
ですが──
「逃げるな。運命だ」
逃げ道は、ございませんでした。
「さあ、詠唱せよ。“きらめけ蒼炎☆ハートに宿るラブリーフレイム! サンは元気にファイアスマイル♪ ムーンは優雅にブルーエレガンス♡ 二つ合わせて無敵の光──プリティ・サン&ムーン・バーニングきゅんきゅんライトアップ!”」
「長いですわ!!」
「一言一句、正確にだ! そして、可愛らしさを忘れるな」
「ですから、可愛らしさは必要ですの!?」
けれども、わたくしは観念し従います。「次なる闇」に備えるには、これしかありませんから。
「……きらめけ蒼炎☆ハートに宿るラブリーフレイム……」
「違う!! もっとキュートに!!」
「恥ずかし過ぎますわああああ!!」
どうやらわたくしは、世界を救うために、羞恥心を捧げ続ける運命のようでございます。
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