表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
潜入警部と忘れない少女  作者: 青山春彦
第3章 記憶少女の警護編
22/22

22話 初めての休日

 朝の光がカーテンの隙間から差し込んでいた。

 静かな住宅街。

 その一角にあるアパートの一室、龍二と春菜が生活しているセーフハウスだった。とはいえ、完全な同棲というわけではない。

 部屋は別々。生活も基本的には独立している。

 ただし玄関は1つ。そして今日は、いつもとは少し違う日だった。

 玄関の前で龍二が腕時計を確認する。


 ───午前9時五 5分。


 待ち合わせは9時。龍二は、特に焦る様子もなく、壁にもたれたまま静かに待っていた。

 服装はいつもと違う。黒のジャケットにシンプルなシャツ。そして落ち着いた色のパンツ。警察官というよりかは、都会の社会人のような雰囲気だった。

 ただし、外見とは別の装備がある。ジャケットの下の肩のホルスターには拳銃。『H&K VP9』事件後、龍二が使用する拳銃は、変更されていた。

 さらに、シャツの内側には薄型の防弾ベスト。外からは分からない。だが、完全に警護用装備だった。龍二は、小さく息を吐く。

 その時、奥の部屋から慌ただしい音が聞こえた。そしてドアが開く。


「遅くなってごめん!」


 春菜が走ってきた。龍二は、一瞬だけ目を見開く。春菜は、少し息を切らしていた。


「ちょっと着替えに時間かかっちゃって……」


 そう言いながら立ち止まる。今日の春菜は、いつもの制服とはまったく違った。

 柔らかい色のワンピースに薄いカーディガン。それに髪も少しだけ整えている。

 完全に、デート用の服装だった。そして、春菜は少し恥ずかしそうに言う。


「どう?変じゃないかな?」


 龍二は、数秒間黙る。すると春菜が段々不安になる。


「龍二くん?」


 龍二は答えた。


「ん?ああ、問題ないぞ」


 春菜は少し頬を膨らませた。


「それだけ?」


 龍二は、少し考えた後に言った。


「その服、すごく似合っているよ」


 春菜の顔が赤くなる。


「もう……」


 そして、春菜は龍二を見た。今度は、春菜が固まる番だった。


「龍二くん」

「なんだ?」


 春菜は驚いた顔で言う。


「私、初めて見たかも」


 龍二は、首をかしげる。


「何をだ?」


春菜は指を指す。


「龍二くんの私服姿」


 確かにその通りだった。龍二が、春菜に私服姿を見せるのは、これが初めてだった。

 春菜は少し笑う。


「なんだか大人っぽいね」


 龍二は、淡々と言う。


「普通だと思うけどなぁ」


 春菜は首を横に振る。


「普通じゃないよ」


 少し照れながら言う。


「とってもかっこいいよ」


 龍二は、恥ずかしそうにしながら、少しだけ視線を逸らした。


「そ、それじゃあ行くぞ」


 それを見て、春菜は笑った。


「うん」


 2人は玄関を出た。外は、穏やかな朝だった。だが、周囲には見えない警戒線が張られている。

 通りの向こう側。コンビニ前に停車している車。何気ない風景の中に、数人の男たちが紛れている。

 公安警察の刑事たちだった。

 さらに遠くの警察庁のモニタールームでは、街の監視カメラ映像が確認されている。

 もし何かあれば、公安直属の特殊部隊が即応する体制だった。

 春菜は、もちろんそのことを知らない。ただ、嬉しそうに歩いている。龍二はその隣で、静かに周囲を観察していた。


 電車を降りると、街はすでに賑わっていた。

 休日のショッピング街。家族連れやカップル。そして学生たち。普通の休日の光景だった。春菜は楽しそうに周囲を見回す。


「久しぶりに来たなぁ」


 龍二は、歩きながら言う。


「人が多いな」


 春菜は笑う。


「デートなんだから、そんなこと気にしなくてもいいでしょ」


 そして聞く。


「まずどこ行く?」


 龍二は少し考えた。


「任せる」


 春菜は嬉しそうに言う。


「じゃあ」


 前を指さす。


「あのショッピングモール」


 2人は、そのショッピングモールの中へ入った。店内は、さらに賑やかだった。

 服屋・雑貨屋・カフェ等々。春菜は、1つ1つの店を楽しそうに見ている。

 だが、龍二だけは違った。

 ガラスの反射で人の動きや出口の位置、それらを自然に全てを確認している。それは、公安としての習慣だった。春菜が振り向く。


「龍二くん」

「なんだ?」

「仕事モードになってない?」


 龍二は少しだけ笑って言った。


「半分は、そうかもな。これは単に職業病みたいなもんだ」


 春菜は言った。


「もう、今日はせっかくのデートなんだから。それで?あとのもう半分は?」


 龍二は答える。


「春菜との休日デートだな」


 それを聞いた春菜は、満足そうに頷いた。そしてしばらく歩くと、小さなアクセサリーショップが目に入った。

 春菜が足を止める。ショーケースの中に、小さなペアリングが並んでいた。それを春菜はじっと見つめる。

 そして龍二が聞く。


「それ、欲しいのか?」


 春菜は慌てて首を横に振る。


「違う違う」


 少し笑う。


「まだ早いよ」


 龍二は、それ以上何も言わなかった。だが、龍二は、無言で店内に入り、春菜が見ていたショーケースの中にあったペアリングを購入して戻って来た。


「はい。欲しかったんでしょ?」

「でも、指輪はまだ私たちには早いんじゃないかなぁ……」

「ん〜それじゃあ、婚約指輪っていうのはどう?それなら受け取ってくれるか?」

「それなら、うん。ありがとね、龍二くん」


 春菜は、龍二からもらったペアリングを早速、薬指に嵌める。また、龍二も同じく薬指に嵌めた。

 そして、2人はまた歩き出す。

 その時だった。遠くで、1人の男がスマホに向かって小さく話す。


「対象、異常なし」


 イヤホンの向こうで声が返る。


『了解』



 ───別の場所にある車内。


「監視継続」



 ───警察庁警備局・モニター監視室。


 モニター監視室のモニターには、複数の映像が映る。その中に、楽しそうに歩く2人の姿があった。

 そしてオペレーターが言う。


「現在、問題なし」


 すぐ横で、腕を組んでいる女性がいた。今野だった。そして小さく呟く。


「平和ね」


 今野は、モニターの中の2人を優しい目で見る。


「せめて今日くらいは……」



 一方その頃、春菜は笑っていた。


「龍二くん」

「なんだ?」

「楽しい?」


 龍二は答える。


「こういう日も悪くないな」


 春菜は満足そうに笑った。

 初めてのデート。

 だがそれは、同時に、国家レベルの警護任務の中でのデートでもあった。

『良かった』『続きが気になる』などと思っていただけたなら、評価やブックマークをしてくださると、とても嬉しいです。これからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ