12話 鈴木春菜奪還作戦
夜の海風が、冷たい湿気を運んでくる。
港湾地区の外れ。
すでに使われなくなった、古いコンテナ倉庫が並ぶ場所だった。
街灯はまばらで、ほとんどの場所が闇に沈んでいる。
その暗闇の中を、1人の男が歩いていた。
大黒龍二。
制服ではなく、黒いジャケット姿。そして、右腰のホルスターには、拳銃が仕舞ってある。
視線は、静かに周囲を探っている。
(旧コンテナ倉庫)
学校に襲撃して来た犯人が吐いた情報。
もちろん罠の可能性は高い。だが、龍二にとっては問題ではなかった。
彼の目的は1つ。鈴木春菜の奪還だけ。
遠くに倉庫群が見える。錆びた鉄の壁に積み上げられたコンテナ。
そして、わずかな光が見える。倉庫の奥に、電灯が灯っていた。
龍二は立ち止まる。そして、ポケットの中から小型双眼鏡を取り出す。
倉庫の入り口を偵察する。
見張りが2人。その両方が自動小銃携帯している。
(やはりあのテロ組織か)
龍二は深く息を吐く。
公安としての思考が働く。正面突破は危険。
だが、それと同時にもう1つの感情がある。
(春菜……)
迷っている時間はない。龍二は地面を見た。
古いコンテナの影。そこから倉庫の裏へ回り込める。彼は、音を殺して走り出した。足音はほとんどない。訓練された潜入の動き。そして、コンテナの影に滑り込む。
そうして、倉庫の裏へ移動すると、古い鉄扉がある。
鍵は壊れている。龍二は、ゆっくりその扉を押す。
ギィ……
わずかな軋み。龍二はすぐ止まる。だが、外の見張りには、幸い気づいていない。
(入れそうだな)
龍二は倉庫の中へ入った。
薄暗い空間。巨大なコンテナと木箱が並ぶ。そして遠くに声。男たちの会話だ。
「まだ目を覚まさないのか?」
「いや、さっき車ん中で、1回起きたんだが、その後すぐにまた寝ちまった」
「スタンガンが強すぎたんだろ?」
龍二の拳がわずかに握られる。
(春菜はあの奥か)
彼はコンテナの影を使いながら進む。
その時だった。足音が聞こえて来る。巡回の男が1人、こちらへ来る。距離は3メートル。
男がライトを向ける。
その瞬間、龍二は動いた。一歩踏み込み、声が出せないように、男の口を塞ぐ。それと同時に腕をひねり上げる。骨が鳴ると、男の体が崩れる。龍二は、気絶した男を静かに床へ寝かせた。
(残りは……)
耳を澄ます。
3人。いや──4人か。奥の部屋。そして、微かに聞こえた、椅子が動く音。
(春菜。もう少しで助けるからそれまで、耐えててくれよ……)
龍二の目が鋭くなる。
その瞬間、背後で声がした。
「……誰だ?」
見張りの1人が気づいた。ライトが龍二を照らす。
沈黙……その数秒が経過する。そして男が叫ぶ。
「侵入者だ!!」
「しまった!」
倉庫の奥で銃が上がる音。龍二は、静かに拳銃を抜いた。
次の瞬間、銃撃戦が始まった。
最初の銃声が倉庫を震わせた。龍二は、すぐコンテナの影へ飛び込む。
弾丸が鉄板に当たり、火花が散る。
敵は3人。全員が自動小銃を装備している。火力では、完全に龍二が不利だ。だが、龍二は冷静だった。
(距離は20メートルか)
男の1人がコンテナの角から顔を出す。
その瞬間、龍二は引き金を引いた。
銃口から放たれた弾丸が男の肩を撃ち抜く。
すると、方から出血しながら男が倒れる。
これで残り2人。
だがその時、奥の部屋から怒声が響いた。
「何してる!!」
新しい男が出てきた。その手には拳銃が握られている。そして、その背後に、椅子に縛られた春菜がいた。
龍二の心臓が強く打つ。龍二に春菜も気づいた。
「龍二くん……!」
男が春菜の頭に銃を押し当てる。
「おっと、その場を動くなよ」
低い声。
龍二は止まる。
「来ると思ってたよ。公安警察の切り札さん」
龍二は銃を下ろさない。
「彼女を離せ」
男は首を横に振る。
「それは無理な相談だな」
そして続けた。
「この女は我々の組織の商品であり、道具だ」
龍二の目が冷たくなる。
「それは、誰の命令だ?」
男は笑う。
「それは言えないな」
その時、春菜が小さく言った。
「龍二くん」
龍二の目が動く。春菜は静かに言う。
「この人……」
男の顔を見る。
「駅前で見た人じゃない」
男の眉が動く。春菜は続ける。
「別の人が指示してた」
倉庫に沈黙が落ちる。男の目が細くなる。
「余計なこと言うな!」
銃口が押しつけられる。
その瞬間、龍二は動いた。床を一気に蹴る。それを見た男が手に持っていた銃で撃ち、その銃声が建物内に鳴り響く。
だが、龍二は横へ滑る。同時に龍二も発砲。龍二の弾丸が男の腕を撃つ。すると銃が落ち、龍二はそのまま距離を詰めた。
拳で男の顎を殴り上げると、男の体が吹き飛ぶ。
残りの敵が撃つ。その弾丸が次々とコンテナを叩く。
龍二は、春菜の椅子を蹴り倒す。
「伏せろ!!」
春菜が床へ転がる。龍二は振り向き、二発撃つ。
そのうちの一発が、男の脚に命中する。そして、もう1人が逃げようとする。
その男を龍二が追い、背後から腕を極め、床へ叩きつける。
完全制圧。これで再び、倉庫に静寂が戻った。
龍二はすぐ春菜の縄を解くと、春菜は立ち上がる。
少しふらつくが、龍二がそれを支える。
「大丈夫か?」
「うん……なんとか」
春菜は息を整えながら言う。
「来てくれると思った」
龍二は少しだけ眉を下げる。
「当たり前だ」
短い言葉。だが、春菜は微笑んだ。
その時、遠くでサイレンが聞こえた。おそらく須藤たちの部隊だろう。
龍二は、倒れている男を見下ろす。だが、頭の中には、春菜の言葉が残っていた。
『別の人が指示してた』
つまり、黒幕はまだいる。
龍二は静かに言った。
「春菜」
「うん」
「この事件、まだ終わってない」
春菜は頷いた。そして言う。
「私もそう思う」
夜の港に、警察車両のライトが近づいてくる。
だが、本当の敵は、まだ姿を見せていなかった。
そして、2人の物語は、さらに深い事件へと進んで行く。
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