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プロローグ
ーーこれは近い将来、我々が目にするかもしれないひとつの、未来のお話。
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ある夜のある時刻、とある場所。
照明が落ち、客席が静まり返る。
その刹那、スポットライトが舞台中央の1人の役者を浮かび上がらせる。
観客はその性別不明の美貌に、息を呑む。
やがて静かに始まる、語りの歌。
『ーーアウローラは恵まれていた。
生まれたときからすべてを持っていた。
この世界はとても美しく、そして整えられている。
ただ一つ、ないものがあった。
ここは、どこも "出口" がない。』
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今や、映画もドラマもニュースも、すべてAIが作る時代になって久しい。
わざわざ人間が労力をかけずとも、
ミスがなく、安全な娯楽が生み出される。
そんな中、一部人たちの間で密やかに存在を噂されるものがあった。
"AIに追われた役者たちの劇団"
彼らの作品にはたった一つ、今のエンタメが失ったものを持つらしい。
「アドリブ」
その中心にいるのは、Ray。
人気絶頂の最中に突然、表舞台から姿を消した役者だ。今ではその顔を覚えている人も多くはない。
今日も稽古場で、不敵に笑い団員を煽る。
「完璧な舞台なんて、退屈だ。」
監視AIアルゴスの目を逃れながら、
地下歌劇団は今夜も役を生き、歌い舞う。
観客の心に、予定外の鼓動を。




