◆リリィとララ
さて、ここはダンジョンの74階層。 94階層からここまでの間に出現した魔物は、ことごとくティナが倒してしまった。
しかも、まだあれから2日しか経っていない。
これならば、73階層に戻り転移ポートで、65階層へ移動できる。
そうすれば、久々にうまい食事と温泉に入り英気を養える。
「なぁ、ティナ。 ここは何だか他の階層と雰囲気が違うな」
辺りに漂う甘い香りに、アレフは警戒を強める。
「でも近くに魔物はいないみたいだし、歩き疲れたから、この先でいったん休憩しましょう」
アレフとは対照的に、ティナは全く警戒はしていない。
しばらく進んだところに、きれいな花畑のような場所があったので、二人はそこで しばし休憩をとることにした。
「さっきからしている甘い匂いは、この花の香なのかな?」
そう言いながら腰を下ろすとアレフは、革袋から干し肉と硬くなったパンを取り出し、1日ぶりの食事をとった。
ティナはよほど疲れていたのか、いつの間にか寝てしまっている。 何しろ出現した魔物のほとんどを倒したのだから無理はない。
「やれやれ、こっちまで眠たくなってきたじゃないか」 気持ちよさそうに眠るティナを見て、アレフは大きなあくびをした。
実は、先ほどから漂う甘い香りの正体は、睡眠効果のある霧状の魔毒の一種だった。
アレフもいままでの疲労も相まって睡魔には勝てず、ティナの横で深い眠りに落ちていった。
「ねぇ、ララ。 あいつらやっと眠ったわよ」
近くの岩陰から、二人の見習いサキュバスが、ワチャワチャと出て来た。
「そうね。 いつもよりは時間がかかったけど、あたしたちの魔毒には逆らえないでしょ」
「男の方の夢の中には、あたしが先に入るからね」
「えーーーっ! ずるいわよ。 ララったら、この前も先に美味しい思いをして。 今度こそあたしが先だからね!」
「だめよ。 リリィが先だと、夢の中が荒れるから嫌なのよね」
「ララだって、精気の吸い方がガツガツしてて、お下品だわ」
「なんですって! それだけは肉食系のリリィに言われたくないわ!」
大声でもめながらアレフに近づいて来たララが、横になっているアレフの体の上に乗った途端。
「魔物ゲット!」 アレフがララの腰をがっしり捕まえてゆっくりと起き上がった。
「きゃっ な、何よあんた寝てなかったの?」
突然のことに、ララは顔を赤らめて、バタバタとアレフの両手の中で抵抗する。
「俺は、ある程度魔毒に耐性があるんだ。 残念だったな」
アレフは、ララを見ながらニカッと笑った。
ぐぬぬぬぬ
「ちょっ! リリィったら何を見ているのよ! 早く助けなさいよ!」
ララがリリィの方を振り返るとリリィは、既にティナの拘束魔法で地面に転がっていた。
「どうだ、俺たちの芝居は。 ちょっとした役者並みだろう」
「きぃーーー! く、くやしぃーー!」 ララはアレフの腕の中でジタバタ暴れ悔しがる。
「おい、ティナ。 こっちの騒がしいヤツも拘束してくれ」
「了解しました♪}
「さてと、お前たちは65階層にあるギルドの支部に引き渡すからな。 そこの監獄で俺たちに出会ったことを後悔しながら一生過ごすんだな」
「いやぁーーー お、お願いです。 何でもするので許してください」
「ダメだ! なんせ、俺は金がないんだよ。 お前たちをギルドに引き渡せば、結構な金になるからな」
「お金なら、ララたちも持ってるから。 それを全部あげるから助けてよーー」
「助けてやったら、俺たち以外の人間に被害がでるからなぁ・・・」
「なら、服従契約するからさ。 お願します! 助けて」
「服従契約だって? 俺は ごめんこうむるぜ。 わちゃわちゃ うるさくてかなわん!」
「それじゃあ、そっちのお姉さま。 お願いします」
拘束され地面に転がっているララは、ティナの足元まで芋虫のように這いずって行く。
「う~ん・・ まぁいいですけど」
ティナが少し悪い目つきをしたのをアレフは見逃さなかった。
『可哀そうにな。 監獄の方がマシだと思うけど』 アレフは心の中でそう思ったのだった。




