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小人の効果は三日後くらいから出始め、一週間後にはマレー半島内の電力障害はほぼほぼ通常通りまで落ち着いた。
モンスターと話し合いで解決なんて。
爆発も炎上も無いし、ホラー映画だったら脚本書き直せって言われるな。
「で。何で俺らの監視がまだ続いてるんだ?」
粘菌の監視が緩まない。
「わたしに聞かれてもね。エピキュリアンは専門じゃないし。情報も入ってこないし」
つつみちゃんも地味に困ってそうだ。
可美村と井上が戻って来れば、話は聞けるかな?
戻ってこないでこのままハブ空港へって事もありえる。
俺らのマネージメントはあの二人に一切任せていたから、二人が居ないと気ままに動けない。
代打の佐藤君は良くやってくれているけど、気安く細かい事は頼みにくい。
その日も、朝の体操をしていたら、当番の兵士たちが二人近づいてきた。
仲間になりたそうにこちらを見ている。
この間教わった動きも取り入れて体操しているから気になるんだろう。
仕方ないのでオイデオイデをしたらその男女が寄ってきた。
今朝の当直はドヤ顔のおっさんとアノちゃんか。
アノちゃんが上目がちに聞いてきた。
「今日はサトウサンは居ないのデス?」
佐藤君?
タスクの共有はしていないのか?
「昼過ぎに顔出すとか言ってたかな?タスクは見せてもらってないんだ。必要なら連絡するけど?」
二人してブンブン手と首を振っている。
「何だ?」
二人してアイコンタクトし合っている。
何だよ?気持ち悪いな。
「この間。嘘を教えてしまったので、迷っているのデス」
嘘?
「何の事だ?」
警邏用の無人機のスピーカーを気にしたので、向きを変える。
ニコリと歯を見せたアノちゃんが構えながら話し出す。
「教えたアーツは表向きなモノです。格闘技ストイックな副代ヒョーに失礼ダッタ」
あー。そういう事か。
この間教わったのは実戦では使わないんだな。
「わたしたちを間違って知るのは悲シイ」
「別に、実戦で使えるモノを教えてもらおうとは思っていない。表に出したくない技術とか沢山あるんだろ?」
現地語は分からないので向こうの翻訳頼りだ。
二人して時間差で頷いている。
「サトウサンはわたしたちを誤解していマス。わたしたちは殺し合いに正直ジャナイ」
理解する意味も込めて、頷いておく。
「仕事だから、そう動く。皆そう」
これも国民性なのか。
指導者側と実働者側で多かれ少なかれ考えに食い違いがあるのは、何処の世界も同じだ。
「わたしたちのアーツ。一つだけ見せる事にシタ」
「いや。別にいいよ。知らない方が良いだろ」
二人とも首を振っている。
「カビー・カボンの精神は、学ぶ者に等しく開かれる。本州人も同じ」
教えてくれるって言うんだ。
素直に受けておくか。
「んじゃ。よろしく」
頷いたおっさんが前に出てくる。
「何でもいい。かかってコイ」
受けの技術なのか?
俺が歩き出そうとしたら、ナイフを構えられた。
素手では面倒だな。
特にルールも無いし。
こっちもブラックジャックを出したら、バトンを出された。
もしやと思ってブラックジャックを戻したら、またナイフに戻した。
横で見てるアノちゃんに肩から下げてる突撃銃をくれるよう手で合図したら、おっさんは背中の銃を前に回してセーフティに指をかけた。
流石に銃口は向いてなかったが、そういう事なんだろう。
「分かった。ありがとう」
二人とも張っていた気が抜けた。
「ワカッタ?」
こいつらの精神は、殺し合いに対するスタンスは、俺らに似ている。
コボルドとは真逆だ。
人を殺す時、その過程となる技術や戦術が重要視される。
フォーカスし易い部分だからだ。
実際に重要なのは、それ以前の心構えの方だったりする。
本州とは違い、大陸では人の命は羽の様に軽い。
住民のほとんどは未登録市民で、生きたビオトープと繋がっているのはほんの数カ所、その数カ所もフル稼働はしていないと聞く。
迷ったら死ぬ。気付かなければ死ぬ。
日常生活で転がってるグレネード一つ見逃しただけで死んでしまうこいつらは、相手と同じ土俵で向かい合うという事自体が滑稽に映るんだろう。
こいつらの今の生活も、貝塚ありきなのかもしれない。
「貝塚たちに酷い目に遭わされているのか?」
二人ともブンブン首を振った。
「滅多な事言うナ」
おっさんが辺りを見回しながら焦っている。
アノちゃんは胸に手を当て、微笑んだ。
「サトウサンたちのお陰で温かい飯が喰える。カンシャしている」
感謝か。
「昔はカンシャするのはラッパーだけだったな」
「ラッパ?」
「アーティスト?歌手とかかな?」
「ああ。歌手ネ。わたしたちは言葉じゃなくて態度で示す。カイヅカの為に、命を使う」
守られてる側としては耳が痛いな。
「大切に使ってくれ。一つしかない命だ」
「知ってる。使い方は間違えナイ」
アノちゃんの真っ白な歯のスマイルで心が痛い。
「泥船に乗ったつもりでいてくれヨ!」
爽やかな顔でおっさんにそう言われると、冗談なのか判別に困る。
「泥船じゃ皆沈むぞ?そういう時は大船って言うんだ」
おっさんが眉をひそめた。
「サトウサンに教わった」
一つ発見した。
佐藤君も冗談を言うらしい。
二月だとまだギリでスコールのシーズンらしく、天気雨っぽいのがサーッと来る事がある。
昼過ぎ、今日の雨は結構酷いみたいで、橋が流されて佐藤君が打合わせに遅れるという連絡がさっき着た。
空いた時間で土砂降りの浜をぼんやり眺めていると、いきなりエアコンが止まった。
二階からアトムスーツを着ながらつつみちゃんが駆けおりてくる。
「繋いで!」
クソッ!丁度隠れた!タッチの差だ!何故俺は生乳を見逃した!?
外部へのオンライン許可がポポポンと出た。
敵襲か!?
コテージの有線電力が遮断されている。
先立つものは電力。急いで地下に備え付けのバッテリーを起動し、最低限の機能だけ復旧させていく。
接続許可が下りたのは。
俺らをガードする兵士たちのチャット。
佐藤君の社内回線。
俺とつつみちゃん。
後なんだ?チュムポーンの?軍関連の回線か?
つつみちゃんが許可出したのなら、とりあえず繋いじゃおう。
”兵隊さんたちから、相手勢力は不明。北方面からの範囲制圧だって”
北?
”佐藤君来る方?”
”だね”
佐藤君は無事みたいだから、貝塚と分断しにきたのか?
範囲制圧って事は、それなりの数揃えてきたな。
既に押し込まれてきてるのか。
何でそんなになるまで黙って見てたんだ?
”俺らは防衛には参加できるのか?”
つつみちゃんが数瞬黙った後、佐藤君が同じチャットスペースに入室した。
”炙り出しです。逃げ道を潰すまで協力は避けて下さい”
いやー。
何か変だなとは思ったよ。
只のご褒美でこんな観光地でバカンス出来る訳無いってさ。
”立案は?いや。後で聞く。危機管理の範囲内で言われた通り踊るよ”
”ご協力感謝します。作戦内容はつつみ代表へお送りします。スフィアを上空に出せますか?”
ん?まぁ、今はいいか。
”安全確認してからね。副代表、オネガイ”
どこに待機していたのか、コテージの周囲にトレーラーでコンテナが続々と運び込まれてくる。
爆発反応装壁だ。
ミサイルの多段攻撃も想定してるんだな。
届く範囲のカメラではまだ確認出来てないけど、この感じだと迎撃用の機銃と対空ミサイル発射台も配備されてる筈だ。
コンテナ用の大型フォークもやってきて、二分もしない内に、四方を三段重ねのコンテナで二重に囲まれた。
俺も走査は自由にやって良いという事なので、自前でつつみちゃんの用意したスフィアたちを使って監視網を構築した。
監視に使う分は、壊されないように先に兵士たちにも通達し、位置情報は送っておく。
「結構持ってたんだ?」
大荷物だなとは思ったけど。
解放されたスフィアは百四十四個。電力が心もとないんで持久戦はキツイけど、これなら色々出来る。
「ハイドロサーフィンは持ってこなかったけどね」
「そりゃ残念」
俺の顔を見てから意味あり気にクスクス笑った。
”安全確認済んだ。コンテナの陰から一個上空に向けたけど、位置は?”
”こちらから打ちます。合わせてください”
雨で減衰されるよなと思ったら、レーザーではなく普通に指向性無線が飛んできた。
送られてきたファイルを解凍して見たら、俺もつつみちゃんも苦笑いだ。
”ハリネズミ対策だね”
”レーザー通信網だけが強みって訳じゃないんだけどなあ”
俺が最近使い倒している”スフィアによるレーザー通信網を使った領域制圧”を警戒し、通り雨に合わせて短期決戦で俺らの確保しにきた。
守ってくれてる地元の兵士たちは謎の勢力だって言ってたけど、口に出せなかっただけだろう。
作戦指令書にははっきり書いてあった。
”シンガポール共同体か”
粘菌だけでも面倒なのに。
「人気者は辛いな」
「わたしじゃないよ」
凄くレスポンス入れたかったけど、後が面倒なので我慢した。




