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三十四日目 束の間の休息

タイトルの記入を完全に忘れていました。

申し訳ありません。

 夜も明け、今日も朝が来る。

 マクスウェルは普段通り、日が昇る前に支度をはじめ、日が昇り始めた頃にはやることを終えて、部屋でゆっくりとしていた。

 パラナからも午前中は休みと聞いていたため、シナロアは起こさないようにしていたが、朝食の匂いに釣られて、目を覚ましたようだ。


「……、あれ、マクス、朝ご飯できた―っ!?」


 寝坊した、と思った彼女は飛び起きつつすぐに準備をしようとするが、彼は椅子に座ってメモを読み返したつつ聞いた。


「今日は朝は休みと聞いたが?

 たまにはゆっくりしておけ」


「いや、それが普段の仕事と変わらない位にはパラナと出かけるからさ、ちょっと急がないと」


「そうか。なら、髪のセットくらいならしてやるから食事を済ませておけ」


 彼は淡々と話して立ち上がると、彼女は少し困惑気味に聞いた。


「マクスに頼んでも大丈夫なの…?」


「昔は娘の髪を直したりとかしてやってたから安心しろ」


「それって」


「細かいことは気にするな」


 何年前、と聞く前にマクスウェルは遮り、彼女を椅子に座らせ、寝癖で乱れた髪を手慣れた様子で梳かしていく。


 そうやって食事が終わる頃には綺麗に整った金色の髪を後ろに纏める。そしてマクスウェルは改めて席について朝食を摂り始め、シナロアは鏡で髪を確認してから部屋に戻っていく。


「ありがとね、マクス」


「構わん。早く着替えておけ」


「はーい」


 彼女が部屋の奥に消えていったのを見送り、いい天気の外を眺めながら食事を済ませていく。今日はパンにスモークチーズとソーセージ、サラダに塩味の玉ねぎとキノコのスープだった。

 食事を済ませた頃に、シナロアが部屋から出てきて、動きやすいように、少し緩めの白いシャツとゆったりとしたスラックスを履いて出てきた。


「そんな服、いつ買ってたんだ?」


 食器を片付けながらマクスウェルが聞くと、そのままだった寝具を片付けつつ答える。


「仕事が休みの時に、下の方でね。一応、闘技場とか仕事の報酬も貰ってるし」


「そうだったか」


「逆にマクスは普段着とかどうしてるの? いつもその恰好な気がするけど」


「服を選ぶのが面倒なだけだ。ほとんど人前に出る必要がなかったからな」


 いつもスーツ姿のマクスウェルへの問いに、彼はどうでも良さそうに答え、食器を手に扉に向かう。


「今日は特に訓練もないから、好きにしていてくれ。私は私でやることがあるからな」


「そうなの? 分かったー」


 用件を伝え、マクスウェルは席を外し、シナロアはしばらく身なりを整えてから、部屋を出ていった。



「―で、何してるんだお前は」


 食器を返し、軽く屋敷の掃除を手伝っていた所、廊下を怪しくうろうろとしているヴェルディを見つけ て声をかけた。


「誰かと思えば、貴方ですか」


「仕事をしているのになぜかお前が不審な動きをしていたら気になるだろう。私も、こいつも」


 あくまでお手伝いなので、隣にいたメイドを連れて答えると、彼女は悩ましそうに唸ってから少し、と続けた。


「マクスを借りてもよろしいですか?」


「まぁ、構わんが。君、悪いが掃除を続けていてくれ。すぐ戻る」


「は、はい」


 マクスウェルに促され、メイドもすぐにその場を離れて持ち場に戻ったところでヴェルディが安心したようにため息をついた。


「あまり聞かれたくなかったからな。助かる」


「仕事が残ってるんだ。屋敷内での不審な行動の理由はなんだ」


 さっさと仕事に戻りたいため、用件を手短に伝えるようにマクスが聞くと、彼女は小さく呟いた。


「パラナ様が心配で」


「シナロアと一緒だから別に大丈夫だろう。何の心配が」


「そちらではなく、パラナ様も元々、女性耐性があまり無い方ですからね。変な感情を持たないか、心配で…」


 簡単にまとめると、パラナがシナロアに妙な気を起こさないか、心配だとのこと。マクスウェルとして非常にどうでもよく、諭すように答える。


「思想の固い親父か何かかお前は。別に若い男女なんだから、どんな関係になろうと一時の思い出だろう」


「それでも、あの方は軍部のトップの息子ですよ? どんな問題が起きるか―」


「シナロアに限って、妙なことにはならんだろう。あいつも正体は伏せておきたい立場だし、少なくとも今、亡国の姫にも国を取り戻したりするつもりはない。

 そんなに心配なら仕事もないんだし、尾行でもすればいいだろうに」


 特に考えなしに尾行、という単語を出した途端、彼女はこちらを向いて嬉しそうに言い出した。


「確かに! その手がありました!」


「おい、私は冗談で―」


「すぐに行ってきます。いい案をありがとうございました!」


 マクスウェルの言葉は最後まで届かず、彼女はその場から駆け出してしまう。


「…………、まぁいいか」


 一人取り残されたマクスウェルは、どうでもよさそうに頭を掻きながら仕事に戻ることにした。




 ―その日の昼、マクスウェルもパラナたちと昼食の席を囲むことになった。

 オードブルのサラダをつまみながら、話を聞くことにした。


「お前ら二人で出かけたみたいだが、どうだったんだ?」


 マクスウェルの当然といえば当然の質問に、水を一口含んでからパラナが答える。 


「あぁ、この前話していた通り、仕立て屋に頼んでた式典用の服の細かい採寸合わせをして、軽く城下町の視察をして帰ってきた感じだ」


「そうか。私は外に出られんからな。傍目から見ることしかないが、城下町はどんな感じだった?」


「私も話に聞いていた程度だったが、活気も有って、商業施設も概ね問題なく機能している。娯楽周りが少し弱いように見えるが…そこは要検討案件だな。

 いわゆるスラムのような場所もないようで、治安も健全そのものだ」


 視点が完全に施政者としてのものになっているのは敢えてツッコまず、彼はそうか、と答えておく。


「で、シナロアはどうだった?」


「うぇ!? 私?」


 突然話を振られ、シナロアはびっくりしてコップを倒しそうになるが、すんでのところで受け止める。


「三回目くらいの町だけど普通に買い物する分には大体揃ってるし、楽しめたよ。確かにパラナが言うみたいに、娯楽が少ないなってのはそうだね。

 暮らしてるのも大半はここで仕事している人とその家族だし、私としても知らない人ってのもあるからね。何か悪いことするような人もいないから、気楽だよ」


「それは良かった」


 彼はそう言って小さく笑い、メインの魚介のパスタに手を伸ばしつつ話し出す。


「仮にこの呪いが解けたり、限定解除できることがあれば、案内を頼んでもいいかな?」


「まぁそれは構わないけど、マクスがそうなるって余程のことじゃないの?」


 思ったより鋭いシナロアの指摘に、彼は笑う。


「それもそうだな。しかし、今回のはあくまで、"そういった事があればでいい"からな。覚えてたらよろしく頼むよ」


「? まぁ、多分大丈夫だよ」


 シナロアも不思議そうに首を傾げつつそれに応じ、彼らは食事を続ける。そこでパラナが思い出したように、思い出したくないことを言い出した。 


「話が弾みそうな所悪いが、これから仕事も残っているからな。お前らよろしく頼むぞ」


「……ソウダネー」


 珍しく、シナロアは本当に嫌そうに呟いていた。

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