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三十三日目 vs伽藍僧 後半

 本来の姿へと移行した天魔。それに対し、伽藍僧は動けずにいた。

 相手に恐怖したからではなく、先程の"言霊"を受け付けていなかったからである。

 事実、彼の言霊も完璧ではなく、対処する方法は少なからず存在する。しかしその解に至るには、流石に早すぎる。単純に"耳を潰す"という解答を踏まずに、次の解を選んだことは考えられない。

 しかし、距離も離れており、声が届くよりも早く行動を済ませていた、という可能性も否定できない。

 伽藍僧が考えている間、天魔も律儀に待っていて、じっと彼を見つめていた。


「…さて、そろそろいいか?」


「そうだな。やろうか」


 天魔の声を聞いて、戦いに不要なノイズを捨て、伽藍僧は前を向いた時には、既に目の前に拳が迫っていた。

 咄嗟に錫杖を盾のように構え、それを受け止めたが、それは軽々と弾かれ、その衝撃で手に痺れが残る。


 それでも驚いている暇はない。天魔は容赦なく追撃し、たまらず伽藍僧が息を吸った瞬間、針糸に通すような精度で、声帯を狙った棘が突き刺さる。


「―が、ぁっ!」


 発声が必要な"言霊"には致命的な攻撃。伽藍僧は空いた片手で棘を抜き取ったと同時に喉元に向けて爪が伸びる。流石にそれは伽藍僧も腕を掴んで止め、幾度となく振動を撃ち込み、鈍い音と共に肘から下がおかしな方向へとへし折れた。

 天魔は折れた腕を引き千切りながら一歩引いて、即座に転移魔法で回収し、傷口と繋ぎ合わせる。


 瞬く間に傷は治り、手を何度も開いて感触を確認し、再び走り出す。伽藍僧は咄嗟に閉鎖していた空間を解除し、空間を転移して距離を取り、再度空間を閉鎖。十分に距離を取って、治癒した声帯を確かめるように"言霊"を放とうとするが―音速を超えて"加速"した天魔は逃さない。

 加速した力を維持した拳が伽藍僧の顔面に突き刺さり、そのまま地面に叩きつけるように殴り飛ばされた。


 轟音と共に土塊が跳ね上がり、速度と力を併せた一撃は、地震のような揺れを引き起こす。

 天魔は追撃することなく、土埃の中から飛び出し、相手の動きを観察する。その姿に一切の隙は無く、伽藍僧が彼の後方に転移したと同時にそちらを振り向くが、それよりも早く言葉が発せられる。


「【自害しろ】」


 あまりにも強い言霊。普段の伽藍僧が絶対に言わない言葉を言い放つが、天魔の動きは変わらない。

 そして"無音で足を踏みしめ"、彼は掌底を放った。

 振動をクッションにしてその一撃を弾き、伽藍僧は理解した。天魔は、周辺を"真空"にしていると。


 言霊とは、簡単に言えば音そのものに強制力を持たせる力。例え耳が潰れていようと、その音が届けば意味はない。逆を返せば、音が届かなければなんの意味もないスキル。

 その対策は簡単なものは二つ。まずは使用者の声を潰す。もしくは、音そのものが聞こえない、いわゆる無音下で行動すること。

 天魔は、意図的に周囲を完全な無音空間である真空空間を作り、伽藍僧の言霊を完全に防いでいるということだ。


「…この、化け物が」


 理論は分かっていても、説明できると実践できるでは訳が違う。そして、目の前にいるのは、それを実践出来てしまう化け物だということ。

 そしてこの閉鎖空間自体、何処にいても言霊を届けるための空間であるため、空間を固定して転移を防ぐ以上の効果がなくなってしまった。

 伽藍僧も空間転移のスキルは持っているため、無理にこの空間を維持する位ならば、多少相手に行動の枠を広げることになっても、制限を取り払っても変わらないだろう、と判断して、閉鎖空間を解除する。


 その瞬間、眼前に転移した天魔の蹴りが胸に突き刺さり、後方へ吹っ飛んでいく。その途中で後方に転移した天魔が蹴り上げ、更に同時に遥か上空に転移して、落下の力も加えた蹴りが突き刺さって地面に叩きつけられる。その衝撃で地面に埋まり、身動きが取れない伽藍僧の頭を目掛けて、トドメの拳が降ってくる。流石にそれはひとたまりもないので、直撃する前に転移したと思ったはずが、それを追うように天魔も転移し―腹部を拳が貫いた。


「――!!」


 声にならない悲鳴があがり、血まみれの拳を引き抜いて、天魔は無言で魔力を固めた槍を作り出した。

 伽藍僧の再生も並外れていることもあり、その短時間で動けるまで回復した彼は再び転移して逃げようとしたが、その先に向けて、天魔は見向きもせずに槍を投げつける。それは足を貫き、地面に固定した。


 再び、伽藍僧の下まで転移した天魔は今まで作り出してきた数多の土塊を浮かべ―数多の砲の弾丸として装填する。それは十や二十ではなく、五十近くの兵器が伽藍僧に銃口を向け、その引き金が引かれるのを今か今かと待っていた。


 ―その引き金が引かれる前に、ゴングが鳴り響く。天魔はその音に気が付いて敵意を消し、各砲弾は土塊に戻って地面に落ちていった。

 そして背中を向けて帰ろうとしたところで―天魔の腹を錫杖が貫いた。


「―!?」


「かかったな、阿呆が!」


 油断していた天魔は、偽りの鐘の音に気付かず、奇襲を許してしまう。天魔は一瞬、何が起こったか理解できなかったが、全てを理解した途端、伽藍僧の頭を掴み、そのまま力任せに地面に叩きつける。


「―腐れ杭」


 即座に毒々しい紫色の杭を取り出し、片手に打ち込み、残る手にも迷いなく打ち込んだ。

 その杭は徐々に手を腐らせていくものの、再生によって腐敗が治療されていき―再び腐敗していく。

 天魔はその光景を興味なさそうに眺め、容赦なく両足にも杭を打ち込んだ。

 四肢を拘束され、繰り返される腐敗と再生する伽藍僧に向け、最後に胸に向けて杭を打ち込もうとしたところで、今度は本当のゴングが鳴り響いた。


 しかし、天魔は止まらない。先ほどのフェイクの可能性も考えられるからだ。

 容赦なくトドメを刺そうとしたところで、周囲から天魔を羽交い締めにするように現れたが―それらは触れることすら敵わず、全員紙吹雪のように吹き飛ばせていく。

 邪魔者は居なくなったと言わんばかりに杭を振りかぶった所で、彼の腕を誰かが掴んだ。


「――、お前は」


 それはえんじ色のコートを纏った、軍部の人間。容易く彼を止めたところで天魔は相手に気付き、手を振り払ってから腐れ杭を解除し、伽藍僧を解放する。


「やるか?」


 最早伽藍僧には興味を示さず、目の前の相手に集中しているが、それは首を横に振った。


「まだ、早い」


 聞こえるのは、仮面越しのくぐもった声。敵はそれだけ伝え、去ろうとするが、遠くから聞こえた命令は、天魔の耳に届いてしまった。


「悪いが―主人からの命令があってな」


 明確な敵意を見せて、彼は話しかけるが、相手は淡々と答える。


「それは、困る。こちらは君と戦うことを許されてない」


「それは参ったな」


 天魔と困ったように笑い、次の瞬間拳が迫る。敵はそれを軽々とかわし、再度忠告する。


「だから、こちらは君と戦うなと言われてる」


「どうせ、お前にとっては児戯のようなものだろう」


 天魔は忠告を無視し、再度襲いかかる準備をしていたが―ため息混じりに構えを解き、左手を振った。


「―やめだ。そこまでやる気がない相手と付き合う意味もない」


「そう。それなら良かった」


 本当にどうでも良さそうに答える相手に向けて、マクスウェルは面倒そうに頭を掻く。


「…面白みがないと言うか、捉えどころがないな、お前は」


「そう?」


 相手は不思議そうに首を傾げ、それ以上用件がないと言わんばかりに背を向ける。


「じゃあ、こっちは帰るから。今度は戦えるといいね」


 あくまで他人事のように話し、相手は消えてしまい―マクスウェルもやれやれと言いたそうに首を振って、人の姿に戻りつつ帰ることにした。

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