隠し扉の先で
三人が隠し扉の先に進んだ頃、神成と国王の一騎打ちは終わりを告げていた。
腕と足をそれぞれ一本ずつ吹き飛ばされ、床に座り込んだ国王は、見下ろす彼女を見つめる。
「スキルを封じる神の力でも、降神した力であれば干渉できないなんて無様だね」
「それはそうだな。お前のような類と戦う機会がなかったものだからな」
彼は興味なさげに呟き、彼女は少し苛立たしげに銃口を突きつける。
「その引き金をお前に引けるのか?」
「バカにしてるの?」
彼女は眉間にシワを寄せながら言い返すと、彼は笑う。
「何の罪のない国王を手に掛ける蛮族に成り下がる覚悟はあるのか、と言うことだ」
「この国の王として生まれた時点で、罪を被ったと同義でしょうに。結末は、あなたの代替の器になるだけでしょう」
「今までは、な」
言っている意味がわからず、彼女はトドメを刺そうとした時、悍ましい気配を感じて廊下の向こう側を向くと、髑髏の仮面を被った、スーツ姿の男が立っている。
「…………、この感覚、まさか」
神成が忌々しげに呟くと、彼は笑って静かに目を閉じた―途端に、目の前に髑髏が迫っていた。
「―! この…!」
空間に干渉し、目の前にいる髑髏を閉じ込めたと思った途端、力を書き換えられて破られる。
「―この体では、お前は"姉"となるか。
脆弱な、器にすらなり得ない仮の器には勝てても、この器なら、勝つのはどちらになるのかな?」
不敵に笑いながら、目の前の髑髏は―新たな器に乗り移った支配者が得意げに話す。それを見て、彼女は諦めたように深く、息を吐く。
「あんまりやり過ぎるとさ、意識が飛びそうになるからやらなかったけど―そうは言ってられないみたいだね」
降神を持つ者たちは、互いの死力を尽くし、戦闘を開始した。
―一方、通路を歩く三人は、再び城が大きく揺れたのを感じ取り、先を急ぐ。
そして数分ほど歩いたところで、地下の広い部屋へと出た。
「……これ、」
殺風景な机と椅子だけある部屋は、パラナと通信をした時に見たものと一致しており、ここにかつて居たことを理解した。
彼らも同じ事を考え、調査を始めようとした所で人影が、文字通り、人型の影が現れた。
「…邪魔しないでもらえるかな」
シナロアは不満げに言い、突然現れた敵に敵意を向け、二人も同様に暗器を抜く。
影は人の形を保ったまま、腕を広げると、両脇に数多の武器が出現した。
「……あれは」
「シナロア、あれには絶対触れちゃだめ」
「にしては数が多いような…」
元暗部の二人は、それが何であるかを瞬時に理解し、シナロアに忠告するが、彼女は困惑して苦笑する。
そして、影が飛ばした暗器の数々を彼らはそれぞれの能力を駆使してかわし、最接近したところで、影は崩れ―暗器の塊へと移り変わり、弾け飛ぶ。
最接近した状態で、回避不能の自爆。絶体絶命の場面でも、最適解がここにはいる。
拡散して飛来する武具は全て、シナロアが時間を巻き戻し、勢いを失って地面に落ちる。
それに触れないように、三人は回避を行い、再度周囲を見渡したところ、それを見ていた影が今度は三体に分裂した。
「……なんだ、このスキルは」
「軍部で開発してた奴じゃない? 影送の発展系で報告書をみた気がする」
シナロアが呑気に答えると、クルドは情報を求める。
「対処法は」
「影の元になってる本体を叩くか、影の発生を防ぐ。この部屋の光源を潰すのが手段の一つだろうけど―この暗闇の中で戦うのは、こちらも苦しくない?」
「どこかにいる本体を引きずり出せ、と言うことだな」
「報告書だと―」
会話をしながらシナロアが天井の光源に向け、光を溜め、そちらに向けて放つと、爆音と共に影が何かが飛び出したと同時に、影が消えていく。
「複数の影の使役には、相応の光源が必要らしいから、いるならそこだろうと思ったら、大正解だったね」
奇跡的に光源は無事で、周囲を囲う影が消えた途端、クルドとヴェルディの二人はその影に向かって走っていくが、文字通り影と消えていく。そして、別の影を伝って現れたと瞬間、シナロアが両手を牙のように構えて拘束する。
「"影送"なら、私も得意だよ」
姿を現そうとする影に喰い付くように、彼女は腕を構え、影の視点が原因、シナロアに目を向けた時、その背後には暗器を構えるクルドが居た。
至近距離でようやく彼の存在を認識でき、振り切るように影に沈み、逃げていく。
「シナロア」
「任せて」
クルドの言葉と同時に時間を逆行させ、地面に埋まった影を地上に引き摺り出した。その時を待っていたかのように、二人は暗器で斬りつけたが、彼はまるで水面からジャンプするように地中から飛び出し、宙を舞った。
それと同時に巻き上がった土煙に巻き込まれ、二人は自爆を恐れて距離を取る。
土煙が晴れた所、土の鎧を纏った人影が立っていた。全身を隠しているものの、その背格好から女性と見て取れる。
「…知らないスキルだな」
「"装甲化"と"地質操作"の発展型のスキルかね。もしかしたら、"天啓"も入ってるかもしれないけど」
すぐにシナロアが分析を終え、二人は感心して声を漏らす。
「お前、随分と詳しいな」
「仕事中散々報告書を見てきたからね。面白そうなのはマクスとの話のネタにしてたし」
「……一応、その情報は国家機密なんだが」
「まぁ、ほぼ無償で働いてるし、多少はね?」
苦言を呈するクルドに対し、彼女はイタズラっぽく舌を出し、彼らの周囲の地形が変形する。それは、紛れもなく"地質操作"によるもの。
彼らは散開して標的をバラけさせ、まずはシナロアが牽制代わりに振動を放つが、一歩も動かずに土の壁が立ち上り、それを受け止める。その振動で弾け飛んだ土塊は周囲を攻撃し、彼女は影に隠れてやり過ごす。その先にいたクルドとヴェルディも難なくかわしていったが、その隙にシナロアの前に敵がぬるりと這い寄ってくる。
シナロアは咄嗟に仕込んでいたメイスを叩きつけるが、土の鎧は砕けない。
カウンターのように彼女の細首を掴み、そのままへし折ろうとするが、ヴェルディの刃が二人の間を切り裂こうとする前に逃げられる。
「大丈夫?」
「けほっ…ありがと」
締められた首を擦りながら彼女が短く礼を言うと、その間に分離した影とクルドが戦っている。
「…全く、あのおっさんは何で前線にいるのかしらね」
ヴェルディは呆れ気味に呟くと、指を鳴らすと、クルドに襲いかかってた影を貫くように石柱が飛び出し、影をかき消す。その間に再度接近してきた―地質操作によって隆起した力を利用して、彼女は高く飛び上がる。
そのまま重力を乗せた鈍器が地面を揺らし、彼女はその衝撃をものとせずに着地と同時に鈍器を振り回すと、何か見えない壁に当たり、空間を介して衝撃を伝え―彼女の鎧を一部破壊する。
鎧の下から、白く、細い肌が見えたが、瞬く間に修復する。
「…参ったなぁ、それ、自己修復型かぁ」
彼女はため息混じりに呟き、迫りくる拳を受け止めて、返しの蹴りで怯ませ、その頭を掴んで地面に叩きつける。
人の力とは思えないほど鈍い音がして、砕け散った土塊が周囲に飛び散るが、その中身は既に消えている。
「……はぁ、」
中身が何も無いことを確認した時点で全てを理解し、力を抜くと―周囲が影に覆われて呑み込まれる。
「…!」
シナロアが咄嗟に影送でその侵食を留めようとするが―力の差が大きすぎる。かろうじて進行を遅らせる程度でしかなく、ヴェルディは普段通りに伝えた。
「残念だけど、私たちはもうお役御免みたいね。悪いわね、置いてくことになっちゃって」
「まだ…やれます…!!」
「やめとけ。さっきの接触で、俺等の装備のエネルギーを取られた。
助けた所で、お前の足手まといにしかならない」
体の大半を侵食されたクルドも淡々と伝えるも、彼女は諦めない。
必死に止めようとするが、彼女の目の前にはまだ敵がいる。
彼女は特に何も言わず、何の感情もなく、侵入者を排除しようとした時、
「√υ∬+∆∬∈∟」
聞き慣れない言葉と共に―世界が、暗黒に包まれた。




