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一日目 天文台にて

 その後は何事もなく、帰還した二人は一旦別れ、それぞれのやるべき事を済ませることにした。

 マクスウェルは、元々話していた厨房の利用についてパラナが話を通してくれたこともあって、すんなり貸してもらうことが出来た。ただし、妙なことをしないようにコックが監視していたのは面倒であったが。

 だとしても彼は特に気にする様子もなく、いつも通りに調理を済ませ、小鍋に入った粥と自分用の紅茶とサンドイッチを盆に載せて早々に立ち去った。

 その道の途中、蝋燭の明かりに照らされた通路でローブの従者と顔を会わせた。


「よう、遅くまでご苦労だな」


「お前もな。まさか優勝するとは思わなかった」


「パラナも同じ事を話していたよ」


「そうか」


 少し前にも主人から同じ言葉を聞いたことを伝えると、声色一つ変えずに彼は答える。そこで、思い出したように教えてくれた。


「お前の買ったあの女だが、今のところ変わった様子もなく眠っていたぞ。

 …それと、お前が気にしてたことだが、その通りだった」


「……そうか」


 彼の報告を聞いて、マクスウェルの顔に少し影が落ちる。


「しかし、どうしてお前は分かった?」


 彼が少し興味深そうに聞いてくるも、彼は首を横に振る。


「戦っているときにも気にはなっていたが、少し想像力を働かせただけさ」


「そうか。何にせよ、パラナ様からも我々はお前には過度な干渉はするなと言われていてな。

 それでも何か手伝うことがあれば言ってくれ」


 今まで冷たい態度をとっていたこともあり、少し違う反応に対してマクスウェルは首を傾げた。


「それはありがたいが…急にどうした?」


 何か裏があるのではないかと勘繰りながらも聞くが、彼は小さく笑う。


「なに、お前は主人に対しても結果という形で応えた。だから少しは信用してやろうと思っただけだよ」


「成る程な。―じゃあこれからも世話になるぞ」


 マクスウェルがそう言って拳を付きだすと、彼も合わせるように軽く小突いてくれた。



「戻ったぞ」


 マクスウェルが扉を空け、自身の客間の部屋に戻り、とりあえずテーブルに荷物を置いて、ベッドに向かう。

 そこには、静かに息をたてて眠っているガリガリに痩せた女性―"亡霊"の姿があった。

 彼は無感情に彼女の口元に手を伸ばし、口を開かせると―縫い付けられた舌が見えた。


(…話の通りであれば、この子は育ちが良い。恐らく読み書き程度なら問題なく出来るだろう。

 奴隷として使うにも、余計なことを知っても話せないようにする必要があった。だが、"再生"のスキルを持ってる手前、こうされたんだろう)


 従者にも確認の報告を受けていたが、念のため確認するものは確認したので、彼はソファーに座って食事に戻ることにした。

 ―食後の紅茶を楽しんでいたところ、ベッドの方から物音がして、彼はそちらに視線を向けた。


「……、」


 寝惚けた風に、目を覚ました彼女は周囲を見渡していたところでマクスウェルと目があった。


「起きたか」


 動揺している彼女に対して、彼はお盆を手にして立ち上がり、近付いていく。警戒心を剥き出している彼女に向けて、呆れ気味に聞いた。


「警戒するのは勝手だが、とりあえず飯を食ってからにしたらどうだ? 私は一旦終えたから、お前の分を置いておくぞ」


 少し覚めてしまったが、作っておいた卵と刻んだ香味野菜の粥の鍋の蓋を空けてやると、一瞬顔が緩んだと思ったが、すぐ恐怖に染まる。


「……私はなにもしないよ。毒も入れてはいないし、わざわざ奪うつもりもない。それは君の分だ」


 余程、ひどい目に会ってきたのだろう、ただの食事にさえ対価を求められると思っているのだろうが、彼はなにもしないと言わんばかりに背中を向けて、再度ソファーに座り直して紅茶を啜る。

 彼女に見向きもしないことでようやく安心したのか、おずおずと口に運び出した。


「……、」


 彼は無言で紅茶を啜りながら、窓から覗く星空を眺める。少し遠くで聞こえる、啜り泣く声を聞き流しながら。

 もう少し時間を潰せると思っていたが、もう紅茶がなくなってしまい、彼は仕方ないと言わんばかりに立ち上がる。


「私は片付けをやりながら、少し主人にちょっかいを出してくる。

 今日はもう夜も遅い、君は食事を終えてやることもなければそこで寝ていて構わないよ」


 彼女の顔は敢えて見ず、マクスウェルは静かに部屋を出ていった。




 ―屋敷の棟の頂上付近、周囲がガラス張りの窓になった、見晴らしの良い小部屋。そこに設置された望遠鏡を眺めながていたパラナは物音が聞こえて振り返った。


「邪魔するぞ」


 全く遠慮もなく、部屋に入ってきたのは翼や角を隠したマクスウェル。驚くパラナに向けて、彼は悪気なく説明する。


「従者に聞いたら、ここにいると話していてな」


「…奴らは、勝手に話したのか」


「まぁ良いだろう。―にしても天体観測か。良い趣味だな」


 所々に散らばる星について書かれた書籍や外に目を向けてマクスウェルが楽しそうに言うと、彼は鼻をならす。


「餓鬼みたいだと笑うか?」


「そんなこと一言も言ってないだろう。私も天文学を知らないと使えない魔法もあるからな。―うむ、何が書いてあるかまるで分からん」


「なんだそれは…」


 楽しそうにしているマクスウェルに対してツッコミをいれると、彼は読めもしない本をペラペラ捲りながら説明する。


「重力魔法の応用だ。射程を延長し、周辺の小惑星郡まで働きかけて、指定した場所に落とす魔法。―最低でも半径50kmは焦土に出来る」


「……お前、それを出来るのか?」


 えげつない事を聞いてしまった気がして、実現可能かどうか念のため確認してみると、彼は笑うだけで回答は控えたが―それはきっと肯定の意味であると理解した。


「さて、そんな話は良いとして、私がここに来た本題を、答え合わせをしたいんだ」


 物騒な話はここまで、といいたげに彼はぱん、と軽く手を叩いて真面目な面持ちで彼を見る。


「私の世界にも恐らくお前のいう"スキル"はある。現に、私の親友はスキル持ちと考えた」


 そう話し出した彼は左手首の鎖を描いた契約印を突き出す。


「昨晩、暇だったから契約印について調べさせてもらった。

 そこにあったのは、私の行動を縛る"契約"、それとこの世界の言語に対応した"翻訳"に近い呪いだ。前者はどうでもいいが、後者は私の知る親友の能力―私のいる世界では"女神の加護"と呼ばれるものと酷似している」


 そこまで話してから、彼は真っ直ぐ、彼を見つめた。



「単刀直入に聞く。スキルとは、"神の力の断片"だろう?」



 躊躇ない彼の質問に、パラナは一瞬固まり、すぐに笑いだした。


「は、はははは!! 凄いなお前、"理解"が早すぎる!」


「……、私としては間違ったほしかったよ」


 マクスウェルはため息と共にそう呟き、パラナが答える。


「その通り、スキル持ちとは、お前のいう"神の加護"、世界を構成した、概念しか持たない無形の神々が持つ力の断片だ。

 再生は"生命の神"、身体強化、巨人化は"進化の神"、加速は"時間の神"の力と言ったようにな」


「そして、そのスキルは一部抽出する技術も確立されている、と」


「その通りだ。お前の契約にも使用されているようにな」


 マクスウェルはそこまで聞いて、ふらりと近くにあった椅子に座り込んで聞く。


「……そしてこの闘技場は、より強いスキル持ちを選別する場か?」


「多少はそれもあるが、使えないスキル持ちを"処分"する場でもある」


「……成る程な」


 マクスウェルはようやく、この場でスキル持ちでない彼が歓迎されていなかった理由を理解し、一つ疑問が浮かんだ。


「―お前は、それを知っていてなぜ私を参加させた?」


「それは内緒だ。―強いて言うならお前に殺してほしい相手がいる、とだけ言っておこう」


 パラナは答えをはぐらかし、小さく笑った。


「まぁ、気に入らん連中に損をさせたいのもあるがな」


 彼にとって、今日だけでも二回いざこざがあった領主の子供たちがそれに当たるのであろう。そこまで話してから、パラナは思い出したように聞いてくる。


「ところで、お前の親友とやらは戦えたのか? 聞いたところ"言語"系のスキル持ちのようだが」


「アイツが持ってるのはあらゆる言葉を聞き取れるだけのスキルだ。実力的には今の私でも片手で殺せるほどクソザコだ」


 親友と言っていた筈なのにぼろくそに言われており、彼も苦笑する。


「…ボロクソに言っているが親友、なんだよな?」


 それに対して、マクスウェルはとても楽しそうに笑った。


「あぁ、かけがえのない親友さ。奴―"最弱勇者"―だからこそ、私と対話できたんだ」


 ―それは、とても懐かしい記憶。穏やかな笑みを見せる彼を見て、少し興味が沸いたのか、パラナも席について聞いた。


「暇なら、少し教えてくれないか。お前の親友について、さ」


「いいぞ。あれは、私が魔王をしていた時代にだな―」


 マクスウェルも嬉しそうに応じて、話を始めた。

 そうして、夜は更けていく―





 ―パラナと話し込んでしまい、少し遅くなってしまったが、マクスウェルが自室に戻ると、静かな寝息が聞こえてきた。


「…飯は、食えてるな」


 すっかり空になった小鍋を見て、穏やかに眠る彼女の顔を見て、彼は笑う。

 そして魔法で風景と同化させていた翼を広げ、自分の体を覆うようにして、ソファーに寝転がって眠ることにした。

スキル解説

巨人化…"進化"のスキル

巨人化させることでフィジカルを大きく強化するスキル

身体強化も体が変化しないだけでほぼ同等のスキル


地質変動…"創造"のスキル

地面を変化させ、思い通りの形にするスキル


振動…"空間"のスキル

空気を振動させ、衝撃波を生み出すスキル


再生…"生命"のスキル

肉体を再生させ、傷を治癒させるスキル


加速…"時間"のスキル

己の時間を加速させ、高速移動するスキル

ただし時間軸は変わらないため、加速したときの衝撃の反動は受ける。


身体変化…"進化"のスキル

肉体をその場に適応させた形に変化させるスキル


翻訳…"言語"のスキル

言語を自動的に翻訳して伝え、聞こえるようにするスキル

"言語理解"は聞こえる方向のみに特化したスキル


空間断絶…"空間"のスキル

空間を絶つことで物理的に突破不可能の壁を生成するスキル

ロライマの従者が使っていた壁がこれ。マクスウェルがどうやってこのスキルに干渉したかは不明。




キャラ紹介

パラナ…領主の息子の一人であり、ある闘技者を始末するためにマクスウェルを利用する。

彼のことは嫌いだが、そういう人物だと理解したこともあって、頼りになるし、悪い奴ではないので受け入れられるようにはなってきている。


ローブ姿の従者…パラナに仕える従者の一人。160cmほどの男性で、素顔は不明。彼の側近として仕えており、無礼な態度をとるマクスウェルのことは気にくわないが、彼の期待にきちんと応えていることと、護衛としてパラナを守っていたこともあって、信用は得られている。


亡霊…所持スキル 振動 再生

元バイーアの闘技者。その素性は隣国の貴族の娘であり、若くして父の手伝いも行っていたため、読み書きは問題なく行える。敗戦に伴い捕らえられ、そこでスキル持ちと判明したことでバイーアに購入され、三年の訓練を経て闘技者として参加することとなったが、成績は振るわず廃棄処分予定となっていたところ、マクスウェルに売却された。

バイーアには散々な扱いを受けており、食事や寝床も満足に提供されていなかったことが見受けられる。

何をされていたかは想像にお任せします。どうでもいいけど非処女です。


読み書きが出来ることが理由で、余計なことを言わないようにと、自分から舌を切ったり出来ないように、バイーアから舌を縫い付けられていた。

マクスウェルとしてもすぐに外してやりたかったが、舌と糸が癒着している可能性が高く、あまり消耗している状態で切除をしようとすると死んでしまうかもしれないため、少しでも回復してほしいという狙いもあり、彼女に食事と寝床を提供している。

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