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二十話 打ち解け

 俺はミヤの震える手を握って教会に帰っていた。


「あの、異界から来たって本当なの?」

「本当だ」

「どんな所だったの?」


 ミヤから話し掛けて来た。どうやら異世界が気になるみたいだ。


「魔法がなくて剣もない平和な場所だった。まあ、遠くの所では戦争をしてたけど、俺は平和な場所にいたぞ」

「魔法もないの? じゃあ、角の意味は?」

「そもそも角の生えている人間はいなかった。違いといえば、肌の色ぐらいだったかな」


 肌の色で差別をしたりする気持ちは俺には分からないが、角の形が変なだけで同年代からハブられる奴もいると考えるとつくづく社会って面倒だなと感じる。


「ミヤもそこに行けるかな?」

「どうだろうな? 俺もこの世界に召喚されたし、ミヤもあっちの世界に行けるかもな。まあ、角よりもその可愛い見た目の方が目立つだろうな」

「これを気にしないの?」

「どうだろうな。やっぱりそれは人によるとは思うが、そんなに気にしないと思うぞ」


 俺の住んでいた国は角が付いている子や動物の耳を付けている子が人気だったりする。

 多分、性格が異常じゃなければ多少のことはどうにかなる気がする。


「ミヤも行ってみたいなあ。種族とか気にしない世界」


 何も答えなかった。


「……お兄ちゃんって呼んでもいい?」

「もちろんだ」

「お兄ちゃん。えへへ」


 なんか、背徳感がある。


 あの子供たちに言われても特に違和感はなかったが、ミヤに言われると何とも言えない気持ちになってしまっている。


「お兄ちゃんがみんなに見せてない物を見せて」

「見せてない物?」

「ダメ?」


 多分、人形やら鳥のやつの事だろう。


 ミヤは女の子だし、可愛いのがいいだろうな。

 身近にある物から得たアイデアは既に使い尽くしている。


 一つだけ、作れそうなものが思い浮かんだ。


 とりあえず、作ってみた。


「これは何?」

「もちもちモチ太郎。俺のいた世界で人気のやつだな」

「わー。かわいいー。もちもちしてる」


 飛びついてくれた。

 このもちもちモチ太郎は丸い餅に手足とちょこっと付けたキャラクターだ。


 幼児向けのキャラだが、俺は高校受験をする前はよく読んでいた。

 グッズも一つだけ小さいのを持っている。あの感触を再現するためにシルトの操作を工夫し、粘り気のあるものを中に入れている。


 これでもちもち感を完全に再現した。


「モチ太郎はな。おっちょこちょいで、何度も潰れてしまうんだ」

「かわいそう」

「でも、その弾力を生かして何度でも元に戻る。そして、また一つ粘り強くなれたもちーって喜ぶんだ」


 つい語り過ぎてしまったが、同級生に聞かれている訳でもないし問題はない。


「ミヤもモチ太郎みたいに強くなれるかな?」

「なれるさ。諦めさえしなければな」


 綺麗事だ。諦めずに努力しても決して届かない領域は存在する。だが、子供はそんな事を気にしてはいけない。


 俺にとって坪川は知能の面において絶対に届かない領域の一つだ。


 俺みたいに身を持って体感すればいい。どう足掻いても届かない才能の壁がある。

 それは誰かに教えて貰って気付くものじゃない。


 ネフィーが若い子はいいと言っていたが、俺もそう思う。


 ミヤみたいな子を見ていると無限の可能性を感じてしまう。


「よし、着いたぞ」


 教会に辿り着いた。


 また襲撃があるかもしれないので俺は残ることにした。


 端に固まっていた子供たちが俺を見るなり、駆け付けて来た。


「怖かったよー」

「悪いやつは倒して来た。もう大丈夫だ」


 まだ、黒幕であるネイルレンドが生きているがあいつの腕はかなりの重症のはずだ。

 しばらくはこっちに攻撃を向けることは出来ない。


 手下はそこまで強くはないし、不意打ちにさえ警戒しておけば何とかなる。

 シルトを気化させて、常に目を張り巡らせる。


 今は子供たちを安心させた方がいい。


「おじさんは?」

「ゲルバルドおじさんは大丈夫なの?」

「あの人はそんなんで死ぬような人じゃない。それに魔王城には凄い回復魔法が使えるお姉さんがいるんだ。死んでなければどんな傷でも治せるさ」


 とにかく、嘘でもなんでも安心させられるならそれでいい。


 次の襲撃がないとも限らないが、子供の心が壊れる方が危険だ。

 俺も精神的にやられたことがあったが、あの時はリンネがいたから大丈夫だった。だが、この子たちにはそんな相手がいるか分からない。


「あそぼうよー」

「なんで、そこに乗っているの?」

「ここはミヤの場所!」


 急にミヤが俺の体をよじ登って、肩車状態にしてきた。


「ずるーい。僕もそこに行きたい!」

「おいおい。ここは一人だけだぞー。順番にな」


 ……こんな早く来るとはな。


 シルトに反応があった。相手は一人。コウとゲルバルドさんじゃなさそうだ。


「ちょっとトイレ行きたいから降りてくれないか?」

「といれって?」

「ごめん。漏れそう」


 俺はミヤを下ろしてから、扉から出た。


 教会に伏兵はいない。敵は一人だけだ。

 窓からこちらの様子を伺おうとしていたが、俺には丸見えだ。


 角を曲がる前に俺はシルトで教会の片方を覆った。


 万が一。《かまいたち》で仕留められなかった時に子供の方に行かれたら困る。


「誰だ!? 両手を上げてゆっくりこっちを向け。変な動きをしたら攻撃する」


 フードを被った謎の人物がいた。


 そいつは両手を上げ、こっちに向いた。


「「あっ」」


 声が被った。


「リンネ!」

「ケント!」


 リンネが俺に抱きついて来た。


「こんな所でどうしたんだ?」

「ケントがここにいるって聞いたから来ちゃった」

「なら、丁度良かった。教会にいる子供たちの警護を手伝ってくれ」


 ここで人手が増えるのはありがたい。


 しかも、リンネならどんな相手でも戦える。例え、狂暴なドラゴンが襲ってきても何とかなりそうなほどの安心感だ。


「警護? 何かあったの?」

「一人誘拐されていた。何とか救出したが、まだ敵が来るかもしれない」

「分かったよ。僕の力が役に立つかは分からないけど頑張るよ!」


 そういう事で、俺はリンネを教会に連れて入った。


「このおねーちゃんだれ?」

「この人は俺の友達のリンネおねえちゃんだ。おじちゃんがいない代わりをやってくれる」

「……こわい」


 ここの子たちはリンネに近寄ろうとはせず、俺の後ろに隠れた。


 そうか、魔王城にいた戦闘員っぽい奴らでさえ見ただけでリンネに屈服していた。子供ならなおさらだろう。尊敬よりも畏怖の割合が強いせいで子供たちが怖いと思ってしまっている。


「怖くないぞー。リンネおねえちゃんは優しいから」

「お兄ちゃん。ムダだよ。魔族にとって強大な魔力は憧れであり恐怖なの」


 俺の背中をよじ登りながら、ミヤが教えてくれた。


「気にしないで、僕みたいな最下級魔族なんてみんな見たくなんてないから……」

「無理をさせてすまない」

「謝ることはないよ」


 やってしまった。知らなかったとはいえ、リンネに辛い思いをさせてしまった。


「もう……」


 ミヤが俺から降りて、リンネに近寄った。


「ミヤを抱きかかえなさい。そうすれば、周りの子も少しは慣れるはずだから」

「ミヤちゃん……」

「勘違いしないでね。お兄ちゃんの悲しそうな顔を見たくないだけだし、お兄ちゃんはミヤのものなんなんだから」


 さっきまでの子とは思えないほど強気になっている。


 ミヤも少し足が震えている。リンネの魔力に圧倒されているのは他の子と同じなのにすごい度量だ。


「ありがとう!」


 リンネがミヤを抱きしめた。


 俺のフォローでダメ押ししてみるか。


「剥きだしの刃物じゃあるまいし、怖がる要素はないぞ。ほら、こんなに優しい」


 意図的にリンネとの距離を詰めた。

 これで、俺を隠れみのにしていた子供たちもリンネに近寄ることになる。


 リンネにしゃがむように手で指示した。


 小学生ぐらいの時に読んだ保育の本に書いてあった。


『子供の目線では大人はみんな巨人に見えるので、目線を合わせましょう』


 俺の時は子供たちが俺を舐め腐っていたからあんなに懐くのが早かった。

 だが、リンネは違う。


 ミヤの行動と目線合わせ、この二つだけでも子供たちはリンネに興味を持っているはずだ。


 後は俺が背を押せばいい。


 一番の難題である一番槍は既に行っている。


「怒られない?」

「そんな、怖い人に見えるか?」

「ううん!」


 可愛い物が大好きで言い争いをしていた女の子がリンネの所に行った。

 それに合わせて複数の女子がその後をついて行くように近寄った。


「おねえちゃんは優しい人?」

「そうだよー。あっ。ちょっと待ってね面白い物を見せてあげるから」


 リンネの方も積極的に子供たちに関わろうとしている。


「リンネお姉さんの魔法はキラキラしてかっこいいぞ。お前らも近くで見てくるといい」


 女子が行ったことで、男子も恐怖はかなり薄くなっていた。


 俺が勧めると男子たちもリンネの元に行った。


「《塵星チコスター》」


 リンネは手から発光する小さな星を数十個出した。

 その星は辺りを照らしならが、上昇していった。


 超遠距離魔法《くず星(ダストスター)》が落ちて来た時のあの光だ。


 全く同じ魔法を弱体化させた。こんな事をするのはリンネにとって初めての事だろう。それに凄い精密なコントロールを要求されているはずだ。


 子供たちはその幻想的な光景に見惚みとれている。


 そうこうしている内にミヤが俺の頭に乗っかっていた。


「ミヤ。頑張ったでしょ?」


 この感じは褒めて欲しいのだろう。確かに恐怖に耐えて誰もやりたがらない一番最初になる事を自ら引き受けてくれた。

 恐怖によく立ち向かえたと思う。


「よくやったぞ。ミヤ」

「これで、お兄ちゃんはミヤのもの!」


 角に触れないように頭を撫でるのは大変だった。


「おい。嘘だろ。ミヤが……」


 その光景を帰って来ていたコウが見ていた。



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