迫撃の銃装戦士編 7
何度かの戦闘と、幾度かのピンチを切り抜けながら僕らは進む。
それなりに回復薬も消費したけど、ダンジョン内の宝箱からいくつかゲットもしているから、そんなに危機的な状況にはなってない。
むしろ残念なのは手に入れた装備類である。
かなり高レベルなダンジョンらしく、ここで手に入る装備はかなり良いものが多い。
ということは、ほとんど僕たちが持っているものばっかりなのだ。
たとえばシオウの使ってる魔法使いの杖は、直前に使った魔法をもう一回使えるっていうスグレモノで、普通にプレイしていて手に入れたら狂喜乱舞しちゃうレベルのものだ。
うっひょう! って。
でも、持っているのよ。すでに。シオウは。
だから宝箱からそれが出てきたときの、彼女の何ともいえない顔は、失礼ながらちょっと笑っちゃった。
そんなこんなでボス部屋の前である。
ひときわ豪華な扉は、ナゴヤのお城なんてレベルじゃない。
「さあ、いくでゴザルよ!」
ばーんとマサムネが蹴り開ける。
ニンジャぁぁっ!
忍べよぉ!
思わず目が点になっちゃう僕を尻目に、クシュリナーダが勇躍して部屋に飛び込む。
「開戦は派手に行かないとね」
などとのたまいながら。
もう。
好戦的なおかたである。
遅れじと僕も続いた。
ちょっとありえないくらいの広さの広間の中央に鎮座する巨大なドラゴン。
あいかわらずでけえ。
草原で見たときもすごかったけど、ボス部屋で見るのはまた迫力が違うね。
びびっちゃいそうになる弱い心を叱りつけて拳銃を抜く。
走りながらの連射だ。
当たり前のように全弾命中するけど、与えたダメージなんて蚊が刺したほどだろう。
かまわない。
僕の狙いは、こっちを向かせることだからね。
ニンジャガールは、すでに邪黒竜を回り込むように走っているし、クシュリナーダもポジションについた。
三方包囲って方針は草原での戦いと同じ。
邪黒竜の視界には、必ず二人が入るようにする。
どちらを攻撃するのか、判断に迷わせるためだ。
本当は二人が死角に回り込んだ方が攻撃の効率はあがるんだけど、それだとまずは目の前の敵から倒そうって短絡しちゃうかもしれないからね。
ドラゴンさんには、ぜひ誰を攻撃したらいいのか大いに迷って欲しい。
「振りかざすは巨神の槌。雷の雄叫びとともに打ち下ろせ! 万丈の雷火!! ダブル!!」
シオウの魔法が決まる。
単体攻撃用の魔法としては最上位ではないけど、やっぱり麻痺効果がおいしいのだ。
「槍技! 火車の舞!!」
間髪入れずに槍を突き刺すクシュリナーダ。
いい連携だ。
ずどんと突かれた一点から火焔が吹き上がり、邪黒竜の全身を駆け回った。
追加ダメージがある系の技っぽい。
苦悶の絶叫をあげながら鎌首をもたげ、邪黒竜がブレスを吐こうとする。
が、その鼻先に突如として現れたマサムネ。
「忍法! 猫だましの術! でゴザル」
ぱんと両手を打ち鳴らす。
驚いたように目をぱちくりしてしまうドラゴン。
ブレスを吐こうとしていたのを忘れたかのように。
「特殊攻撃キャンセルのスキルでゴザルよ。にんにん」
にはははと笑いながら、ふたたび巨体の向こう側にニンジャガールが消える。
いや、本気で便利だな。ニンジャ。
直接的な攻撃力は上位役割の中じゃ低いけど、もっのすごい多彩なことができる。
プレイヤーの機転次第ってのは、かなりの熟練を要求されるかもだけどね。
ツウ好みのキャラクターだ。
問題は、そのツウが猫耳少女だってことだろう。
解せぬ。
はっとしたようにドラゴンは大暴れを始めた。
なんとか受け、さばくものの僕たち前衛の耐久ゲージは、音がしそうな勢いで減っていく。
うひぃ。
かすっただけで大ダメージとか、強敵すぎぃっ!
与ダメージの稼ぎ頭は、やっぱり魔法使いのシオウだ。
魔法は一発がでかいからね。
必中だし。
ただ、どうしても連射が効かないのが玉に瑕。
そして地味に最も重要な役割を果たしてくれてるのが、回復術士のコーガである。
さすがに接近戦には参加しないものの、前衛三人の耐久ゲージをしっかりと管理しながら回復魔法を飛ばしてくれる。
彼がいるから、僕たち前衛は残り耐久を気にすることなく攻撃だけに集中できるんだ。
小さく見えて、これがすごいでかい。
邪黒竜は、僕が今まで戦ってきたボスキャラの中でもかなり強い方なんだけど、なんか一番ラク。
耐久ゲージを見なくて良いことが、こんなにラクだなんて思いもしなかったよ。
回復術士さまさまだ。
ただし、それにも限界があるけどね。
「魔力回復薬の残、あと一だ」
「こっちはこれで打ち止め!」
コーガとシオウの声が響く。
回復薬の残りをカウントしてくれているのである。
攻撃魔法の方が消費が大きいから、さきにシオウの回復薬がなくなった。ということは、でかい魔法はあと六回くらいしか使えないはず。
邪黒竜の耐久ゲージは半分を切ってるけど、魔法で削りきるのは難しいかもしれない。
となると、僕たち前衛の働きにかかってくるよね。
気合いを入れないと。
胴体の下から魔剣ラジルで、ざっくざっくと攻撃する。
小うるさげにドラゴンが腕や尻尾を振れば、飛びさがって拳銃で攻撃だ。
顔とか目を狙って。
これがうっとうしいらしく、ドラゴンはしきりに首を上げ下げする。
ダメージそのものは小さいんだけど、嫌がらせとしては充分だろう。
と、そこまで考えて僕は首をかしげた。
嫌がらせ攻撃に反応するのって、おかしくないか?
たとえば、かつて戦った魔王ラーク。彼はクシュリナーダやヤイバの通常攻撃を無視した。
もちろん効いてなかったわけじゃなくて、やせがまんだ。
人間ごときに弱みなんか見せられないって矜持だったんだろう。
なにかの本で読んだことがある。戦士ってのはどんなに痛くても辛くても顔に出しちゃいけないって。
弱みを見せたらそこを攻撃されるから。
だから大昔の力士とかは、包帯だのサポーターだのを土俵上で身につけることはなかったらしいよ。
「てことは、邪黒竜は不快感を示しているんじゃない。攻撃されたくない場所を守っている……?」
ぴん、と、天啓が降りる。
ある。
ドラゴンには弱点が。
逆鱗だ。人を乗せてやるくらい温厚なドラゴンでも、そこに触れられたら怒り狂うという場所。
つまりそれは弱点だから。
目をこらす。
銃士ほどじゃないけど、他の戦士系よりもずっと良い視力で。
「……あれか」
黒い鱗のなかで、一枚だけ茶褐色のものがある。
このまま戦闘を続けた場合、勝てるか勝てないかは微妙だ。
もしかしたらなんとか勝てるかもしれない。
けど、負ける可能性だって半分はある。
どうする?
「勝負に出るなら余力のあるうちによ。追いつめられて、どうしようもなくなってから一か八かの一発逆転を狙ったって、それで失敗したら後がなくなるだけだらね」
ふと美月先輩の言葉が蘇る。
いつだったかな。たしか大きな契約に踏み切るかどうかって悩んでいたときだ。
余力のあるうちならリカバリもできる。
僕たちはギャンブラーじゃない。
社会人だ。
ですよね。先輩。
「クシュリナーダ! マサムネちゃん! 一秒で良い! 邪黒竜の動きを止めてくれ!!」
叫ぶ。
「了解よ!」
「承知したでゴザル!」
頼もしい声が返ってきた。
次の瞬間。
「忍法! 影縛りの術! でゴザル」
ドラゴンの周囲にクナイが刺さり、その動きを疎外する。
お見事。
が、
「にょにょにょっ!? 引っ張られるでゴザル!?」
なんか変な悲鳴があがった。
仕方ない。カルラが使ったワイヤートラップも魔王ラークに引きちぎられたのだから。
「伸びろ! マリーゴールド!!」
クシュリナーダの声に従って伸びた槍が、なんとドラゴンの足を引っかけた。
がくりとバランスを崩す巨竜。
一瞬だけ無防備になる。
僕は両手で拳銃をかまえ、地面に片膝をつき、腕を真っ直ぐに伸ばす。
精密射撃だ。
「終わりだ! 邪黒竜!!」
連続して響く銃声。
放たれた弾丸が、真っ直ぐに逆鱗に吸い込まれた。




