迫撃の銃装戦士編 6
ボクっ娘ニンジャガールのマサムネちゃんは、レベル十二のニンジャだった。
外見や言動とはうらはらに、ものすごく強い。
レンジャーをレベル四十まであげて、そこからクラスチェンジして十二までレベルアップする。
「どんだけやりこんでんだって話だよね」
「社畜もびっくりの稼働時間でゴザったよ」
「つらすぎる」
マサムネの言葉にうへぇとなる。
『LIO』はゲームなんだから楽しそうでいいじゃんって思った人は要注意だ。同じゲームを一日中、脇目もふらず、三ヶ月以上に渡って延々とプレイするんだって考えて欲しい。
ちょっとした奴隷労働でしょ?
僕の場合は、一日だいたい四時間くらいをテストプレイにあてて、残りの就業時間でレポート作成などをおこなっている。
一般的なテストプレイヤーはこんな感じなのだが、なかにはぐいぐいレベルアップしながら進んでいく連中もいるらしい。
「うむ。つらい日々でゴザった」
遠い目をするマサムネちゃん。
休日返上で『LIO』にダイブしてたんだってさ。
ひどい話もあったもんである。
「ちょっと問題よね。そんなこと強制されるチームもあるなんて」
腕を組んで、やや憤慨するクシュリナーダ。
この人はきっとリアルでも正義感に溢れているんだろうね。
上層部に抗議とかしそう。
「強制されてないでゴザルよ? レベル上げにハマり出したら止まらなくなってしまったでゴザル」
はっはっはっと笑う。
「てい」
「あいたっ! でゴザル」
クシュリナーダにチョップされるマサムネであった。
もちろんまったく痛くないだろう。
OK。
僕の同情を返してくれ。
むしろアンタのチームの技術部社員が被害者じゃねーか。
なんだこのダメ人間は。
シオウとコーガが無言で首を振っていた。
気持ちは判る。
ともあれ、廃プレイヤーのマサムネが加わったことで戦力が飛躍的に向上したのは事実だ。
レンジャーというのは、前衛を張るにはいささか心許ない役割だが、ニンジャになれば話は違ってくる。
ぶっちゃけマサムネはクシュリナーダよりもはるかに強いのだ。
「それにしてもウリエルは珍しい装備でゴザルな。銃と剣とは」
「新しい役割の聖戦士だよ。今回はこれの使用感を確かめるってのが僕の仕事なんだ」
「ふむふむ。だからウリエルなのでゴザルな」
いいえ。
それはまったくの偶然です。黙示録にあるような罪人を業火で焼き尽くすような過激な天使様からとったわけではないんですよ。
さて、あんまりのんびりしてもいられない。
邪黒竜を追いかけないと。
「巣穴に戻ったってところかしらね」
「たぶん、二重構造になってるんじゃないかな」
小首をかしげるクシュリナーダに、僕は自分の解釈を語る。
草原での戦いは前哨戦で、本番は巣穴……ダンジョンの中だ。
そもそもここで全滅しちゃう程度のパーティーは、邪黒竜には挑めないのである。
もともとオクタマには、関東随一といわれる鍾乳洞があった。
日原鍾乳洞という。
僕もしばらく前に亜里砂と行ってきた。
リアルRPGって感じの雰囲気だったね。
で、それが『ミキシング』の際に巨大ダンジョンになったらしい。
竜の棲む、危険な迷宮である。
「なにげに、はじめてのダンジョンアタックだよ。僕は」
薄暗い回廊を進みながら呟く。
これまでどういうものか、館とか城とかには入った経験はあっても地下迷宮に挑んだことはなかった。
「私は北海道で潜ったわね。蝦夷蟠龍洞をモチーフにした『ダブルドラゴンの洞窟』に」
横を歩くクシュリナーダが言った。
なんかすごそうな名前である。
隊列は二列縦隊。
前衛は僕とクシュリナーダ。後衛はシオウとコーガだ。
マサムネは隊列には加わらず、斥候として先行している。
見た目と言動はアレだけど、すごいユーティリティープレイヤーなニンジャガールなのである。
先行偵察も単独戦闘もこなせて、敵探知能力も高く扉の開錠や罠の解除もできる。
魔法は使えないけど、似たような効果を発揮する忍法を行使できるんだ。
ニンジャ強い。
さすが上級役割。
本人曰く、「器用貧乏でゴザルよ。にんにん」だそうだけど。
「次の角を曲がったところにモンスターでゴザル。竜人が四匹」
そのマサムネが音もなく戻ってきて告げる。
彼女が偵察してくれるから、不意打ちされる可能性がぐっと低くなっているうえに、曲がり角でばったりっていう遭遇戦も回避できてるのだ。
つくづく便利な猫耳ニンジャなのである。
「竜人かあ。ちょっときついねい」
「だな」
後衛のシオウとコーガの会話である。
普通に考えたらレベル二十四の竜人って強敵なんだよね。レベル二十五の僕たちにとっては。
サガでは見飽きて吐くほど戦ったけど。
『LIO』の世界において、自分のレベルより一つ二つ下ってのはけっこう苦戦するラインだったりする。
なにしろ僕なんか、二十四レベルも下の邪小鬼に殺された経験があるからね。魔法少女時代に。
操作になれてなかったとはいえ。
「やつらの弱点は頭よ。四匹くらいなら前衛ふたりでなんとかするわ」
とは、クシュリナーダの言葉である。
頼もしい!
姉御! 結婚して!
「失礼なことを考えてる顔ね。ウリエル」
「まさかまさか。そんなそんな」
与太を飛ばしながら、僕とクシュリナーダは先行して洞窟を進む。
僕の獲物は拳銃だ。
剣は竜人と相性が悪いからね。
両手で大型拳銃を構え、やや身を屈めて壁に張り付く。
クシュリナーダが左手の指を三本立てた。
そしてすぐに一本折る。
ハンドサインだ。
突撃のタイミングである。
二、一、ゼロ!
同時に飛び出す。
横っ飛びのような体勢で、竜人の頭に狙いを定めながら。
景気の良い発射音とともにモンスターがのけぞる。
致命的な攻撃、の文字が浮かぶ。
ふたつ。
クシュリナーダもまた伸ばしたマリーゴールドで竜人の頭を貫いていた。
あと二匹!
僕は前転して、クシュリナーダはスライディングで距離を詰める。
突然の攻撃に戸惑っていた竜人が立ち直り、蛮刀を振り上げたときにはもう遅い。
クシュリナーダに足を払われた竜人は、バランスと命をふたつながらに失った。
がくりと崩れたところを鋭く刺突され。
僕はといえば、腕を上げがら空きになった竜人の顎に、起きあがりざま銃口を押しつけ、そのまま撃ち殺す。
戦闘開始から十秒も経っていない。
文字通り瞬殺だった。
「お見事でゴザルなあ」
援護するためだろうか、両手にクナイを持ったままマサムネが近づいてきた。
格好付けた仕草で銃くるくる回し、ホルスターに戻す僕。
「連携とはこうやるんだ、という感じでゴザった。まるで長年連れ添ったパートナーみたいでゴザル」
長年ってほどじゃないよ。
そもそも『LIO』のオンラインプレイが解禁されてから、まだ三ヶ月じゃないですか。
実際、彼女と一緒に戦ったのだってサッポロ、ナゴヤ、サガの三回だけだ。
……でも不思議だね?
どういうわけか判るんだ。
クシュリナーダが次に何をするか、相棒の僕にどういう動きを期待しているのか。
うーん。
これはなんなんだろう?
やっぱり運命的なサムシング?
「なななななんてこというのよ! この子は!」
そしてクシュリナーダは真っ赤っかになっていた。
なんと。
顔が上気するってエフェクトもあるのか。
すごい機能だ。
あんど、グッジョッブだ。『LIO』。
照れまくってるクシュリナーダを見れただけでも、僕はこのゲーム買う。絶対に買うよ。
いやまあ、もともと予約はしてあるけどね。
社員価格で買えるし。
「あんたは、なにを、にまにま、してるんだ」
べしべしとクシュリナーダに叩かれました。
ありがとうございます。
僕はあと十年戦えます。




