迫撃の銃装戦士編 5
「振りかざすは巨神の槌。雷の雄叫びとともに打ち下ろせ! 万丈の雷火!!」
凛とした声が響く。
勢いよくシオウが杖を掲げた。
次の瞬間、虚空から降り注ぐ雷が邪黒竜を打ちのめす。
「ダブル!!」
続けてもう一度だ。
揚力を失い、真っ逆さまに落ちてくる巨竜。
やるねえ。
けれん味のない、じつに安定した魔法行使だ。
どう、と、黒い竜が地面に叩きつけられる。
音がしそうな勢いで耐久ゲージが減っていった。
魔法のダメージにプラスして、落下のダメージがあるためだ。
万丈の雷火の付随効果である麻痺の影響で、まともに着陸できなかったのである。
もちろんシオウはこれを狙っていた。
魔法使いとしての戦い方を熟知している。
僕はリロードを終えた拳銃をホルスターから抜き、ふたたび続けざまに発砲した。
銃技の月を撃ち抜けが使えれば一発で勝負は決まるんだけど、あれはボスキャラには通じないし、そもそも聖戦士に使用可能になるのはレベル三十からである。
魔法剣士もそうだったけど、複合役割はこういうところがつらいよね。
あっという間に全弾を撃ち尽くし、銃を剣に持ち替えて突進を敢行する。
クシュリナーダひとりに前衛を押しつけるわけにはいかないから。
「でけえ……」
最接近した邪黒竜を見上げ、思わず呟いちゃった。
本気で小山みたいである。
「的が大きくて良いじゃない」
勇敢に槍を振るうクシュリナーダのお言葉だ。
ほんとね。
彼女に怯懦って文字は似合わないよね。
負けていられない。
僕もがむしゃらに剣を突き刺す。
おうふ。
銃よりずっと効いてるなー。
さすが魔剣ラジル。レベル二十五で装備できる一番強い剣だ。
「伸びろ! マリーゴールド!!」
クシュリナーダの声に従い、ぎゅんって勢いで槍が伸びる。
彼女を掴まらせたまま、六メートルくらいの高さまで。
どっかどかと黒竜の胸あたりに蹴りを加えるものの、あんまり有効打にはなっていない。
場所が悪いのだ。
せめて首の高さくらいまでいければ良いんだけど、どう考えても一番筋肉が分厚そうなあたりだもの。
小うるさげに腕を振る邪黒竜。
攻撃の継続を断念して、クシュリナーダがひらりと地上に舞い降りる。
さらっと言っちゃったけど、六メートルの高さから飛び降りるってこのすごく怖いと思うよ。
クシュリナーダの身体能力をもってしても。
「いやあ、マリーゴールドの伸長機能に限界があるって、はじめて知ったわ」
「……まあ、限界まで伸ばすなんて滅多にないもんね」
あんまりなセリフに、思わず返答が遅れちゃったよ。
あんた自分の武器の限界も知らないで突撃したのか。
どんだけ特攻野郎なんだよ。
しっかし困ったね。
地上からちょこちょこ攻撃しても、なかなか致命傷は与えられない。
致命的な攻撃が出る急所は、たぶん首とか頭とかだろうしね。
で、それは地上はるか十五メートル以上の高さだ。
銃で狙ってみる?
左手で拳銃を抜いた僕は、ほぼ真下から顔というか顎を狙って射撃する。
どごーんどごーんと。
音だけは立派なんだけど、与えてるダメージは微々たるものだ。
仕方ないことではあるけど。
「掴み取るは紅蓮の魔手。業火を纏いて燃やし尽くせ! 地獄の炎陣!!」
ここで決まるシオウの魔法。
もっのすごい巨大な火柱が吹き上がり邪黒竜を包む。
僕やクシュリナーダも巻き込まれるんだけど、『LIO』での攻撃は味方には当たらないので普通に素通りするだけだ。
黒い竜が苦悶の絶叫をあげながら、憎々しげに僕たちを睨む。
そして、かっと口を開いた。
げ。
ブレスか。
やばいと思う間もなく、広範囲に撒き散らされる黒い炎。
うひいっ!
耐久ゲージが削れていくぅぅぅっ!
これ、近くにいる方がダメージ大きいらしい。
シオウとコーガもかなり良い勢いで耐久ゲージが減ってるけど、僕やクシュリナーダほどじゃない。
ちらっと目配せした僕たちは、ほうほうの体でドラゴンから距離を取った。
ひえええ。
ブレス一発で、七割くらいもっていかれたよ。
「すべての者に癒しを」
両手を広げたコーガの身体からあたたかな光があふれ、全員の耐久を回復させてゆく。
助かった!
いっぺんに全員分の回復ができるんだね。
「魔力の消費は激しいけどな」
コーガが苦笑してる。
こればっかりは仕方ない。
全員が完全回復できる魔法なんか、そうほいほいは使えないだろう。
もちろんドラゴンのブレスも連射はきかないだろうけど、一発がでかすぎる。あれを喰らうたびに全体回復が必要だと考えると、ぶっちゃけジリ貧だ。
「私とウリエルが左右に分かれて攻撃。これでどう?」
クシュリナーダの提案は、的を分散するというものである。
なかなか大胆な戦法だ。
両方向から攻撃すれば、たしかに邪黒竜のブレスは全員には当たらない。必ず死角ができるから。
けれど、僕もクシュリナーダも常に一人で戦わなくてはいけない。
互いの背中を守り合うってわけにはいかないのである。
「よし。それでいこう」
それでも僕が頷いたのは、このままでは手詰まりだからだ。
削り合いの消耗戦になってしまったら、ちょっと勝算の立てようがない。
同時に走り出したふたり。
僕は時計と逆回りに右から、クシュリナーダは左から回り込む。
コーガはシオウを守りながら、回復魔法が届くぎりぎりの位置で待機だ。
距離を詰めてゆく。
大胆に、そして慎重に。
邪黒竜が動いた。
爪と牙でクシュリナーダに襲いかかる。
さすがに強い。持ち前の速度と体術でしのいではいるものの、ごりごりと耐久ゲージが削られてゆく。
一撃が重すぎるんだよな。
そして僕ものんきに観戦している余裕はなかった。
唸りをあげて風を切った尻尾が叩きつけられたからである。
間一髪で回避してバックステップを刻む。
くっそう。
攻撃が多彩すぎる。
せめて寄せ手が三人いれば死角をつけるんだけど。
と、はなはだ建設性を欠く思考が頭をよぎったときだった。
「援軍、ただいま到着でゴザル!」
かん高い声が響き、僕とクシュリナーダの等距離の地点に何者かが現れる。
黒装束に青い目、右手には小刀。
そして頭に猫耳のカチューシャをつけた少女だ。
左手がかすむと、何本ものクナイが邪黒竜の胴体に突き刺さる。
ニンジャである。
エキスパート系の役割であるレンジャーの上位役割だ。
転職はレベル四十からだから、このプレイヤーはすごく強い人である。
ただ、なぜだろう。
「パーティー申請をするでゴザル!」
まったく強そうな感じも、すごそうな感じもしない。
だって、猫耳ニンジャガールだよ?
どこからつっこんで良いのかわからないよ。
「了承よ! 私はクシュリナーダ! よろしく!!」
「マサムネでゴザル!」
猫で少女でニンジャで名刀だ。
どんだけ盛れば気が済むのだろう。
「僕はウリエル」
「大天使でゴザルな! うぷぷぷっ!」
笑われた!?
なんだこの屈辱はっ。
むっきー! この恨み、ドラゴンにぶつけてやる。
右手で剣を構えたまま左手で拳銃を抜き、至近距離から尻尾に撃ち込む。
不快げに吠えた邪黒竜がばさりと翼を広げた。
そのままふわりと浮き上がる。
ブレスか、と、一瞬警戒を強めるが、どうやらドラゴンは逃亡を選択したらしく、そのまま飛び去ってしまう。
追撃しようと杖を掲げたシオウが、ため息とともにそれをおろした。
クレバーな判断だ。
この状態から一発二発くらい魔法を当てたところで、それで倒せるわけではない。
魔力は温存しておいた方が良いだろう。
戦いはまだ先があるのだから。
「頭の良い奴でゴザルな。ボクが加わって前衛が三人になったことで、勝算が一割くらい下がるだろうって計算ができるようでゴザル」
かちりと小刀を鞘に収めたマサムネが、えっらそうに論評する。
ボクっ娘だったよ……。




