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荒野の二丁拳銃編 4


 竜人どもの数は七十と推測されている。

 確度の高い数字とはいえないが、これを基準に考えるしかない。


 さっきの戦闘で四匹倒したから残りは六十六。

 決戦に至るまでに、せめてあと二十は削り落としたいところだ。


「これ、六人パーティーだったらもうちょっとラクだったかな?」

「どうだろ? 難易度はたいして変わらないんじゃない?」

「だよねー」


 歩哨(ほしょう)の最中に呟いた僕に、クシュリナーダが苦笑する。


 翌日のことである。

 夜襲があるかと思ったけど、とくになにもなく僕たちはそれぞれにあてがわれた粗末な客室で、ゆっくりと休むことができた。


 ちなみに、どういうわけか客室は七つだった。

 もしかして七人パーティーでやるようなシナリオなのかな、と、邪推したものである。

 パーティーの上限はNPCをいれても六人なので、どういう感じになるのか判らないけれど。


 ともあれ、パーティー人数が上限に達していたとしても、こちらが圧倒的に不利だという条件は、一ピコメートルも動かない。

 竜人は七十匹もいるんだもの。

 基本的には各個撃破するしか方法はないのだ。


「お。おいでなすった」


 はるか前方の丘の上に立つ影を視認する。


「よく見えるわね。レックス」

役割(クラス)特性だよ。銃士の視力は戦士系のざっと三倍なんだってさ」

「そういうことできるの?」

「もともと僕たちは目で見てるわけじゃないからね」


 目はあくまでもレンズ。

 認識しているのは脳だ。

『LIO』の場合には、脳に電気信号を送ることで、ありもしない様々なものを誤認識させている。


 いま見ている景色だってそう。

 僕は四キロほども離れた丘の上がちゃんと見えてるけど、クシュリナーダの視力はそこまでは届かない。

 そういうふうに調整されているから。


「よくできてるわよねえ」

「ものすごい技術なんだってことは、技術部じゃない僕にも判りますよ」


 言いながら、竜人どもの動きを注視する。

 数は六。

 警戒しているような感じではない。

 偵察隊ではないね。あのだらしなさは。


「ちんぴらって雰囲気だね。こっちから仕掛けようかな」


 とにかく数を減らしておきたい。

 映画の『七人の侍』だって、敵の野武士は四十人だったぞ。

 こちとら三人しかいないのに、相手は七十匹とか無理ゲーすぎ。


 と、そこまで考えて、僕は吹き出してしまった。

 そうか。そういうことか。


「どうしたの? レックス」

「いや。判っちゃった。これって『荒野の七人』だ」


 アメリカで製作された映画で、黒澤明(くろさわ あきら)監督の『七人の侍』を舞台を変えてリメイクした作品として有名である。

 貧しい農村を救うため、一人頭たったの二十ドルの報酬で奮戦する凄腕ガンマンたちの話だ。


「ふふ。それで客室が七つだったのね」


 クシュリナーダも笑う。

 もちろんシナリオのストーリーはまったく異なるけど、報酬の少なさとか農場とか、設定はだいぶオマージュされている。


「ゆーて、これは三人しかいないけど」

「難易度は倍以上。いいじゃない。その方が燃えるでしょ」

「たしかに。そんなわけで、とりあえずはあの六匹を潰してくるよ」

「一緒に行く?」


 大丈夫と応え、僕は歩き出した。


 クシュリナーダまで農場を離れるのは、無警戒すぎるというものだ。

 ワト一人では複数の竜人に対抗しきれない。


 これはべつに彼が弱いという意味ではなく、相性の問題である。

 硬い鱗と盾が、戦士系の役割(クラス)と相性悪すぎなのだ。

 しかもあいつらでかいから、弱点の頭を狙いにくいし。






 気配を殺して近づく。

 相対距離は二百メートル。竜人どもも農場に近づきつつあるが、完全に無警戒だ。


 魔王軍と連動した動き、という線は、これで完全に消えたかな。

 最大限に見積もったとしても私掠(しりゃく)許可をもらった山賊、くらいのものだろう。


 つまり連度も士気も軍隊のものじゃないってこと。


「まあ、これだけ数の差があるんだ。きっちり訓練された軍隊だったら勝ち目なんかなくなっちゃうからね」


 すっと木陰に隠れる。

 あと百メートル。


 銃の強みは、なによりもまずその射程距離だ。

 僕のはハンドガンなので五十メートルが限度だけど、狙撃銃とかだったら軽く二百メートル先のモンスターを撃ち抜ける。

 それは弓矢や魔法では不可能なこと。

 つまり、完全に一方的に攻撃することができるのだ。


「だからこそバランス調整が難しいんだけどね」


 言葉とともに、僕は姿を晒す。

 両手にはすでに愛銃が握られている。

 同時に射撃。


 乱れ撃ちではなく、精密に狙いを定めて左右一発ずつ。

 突然あらわれた人間に驚いた竜人どもの頭を撃ち抜く。


 浮かび上がる致命的な攻撃(クリティカルヒット)の文字。

 まずは二匹。

 弱点を攻撃させてもらうよ。


 雄叫びをあげて竜人たちが迫ってくる。

 けど距離がある。どんなに足が速くたって、五十メートルを駈けるためには五秒は必要なんだ。

 それだけの時間があれば、僕は残ってる十発を全部撃つことができるよ。


 たたたたーん、と、連続する銃声。

 さらに二匹が光の粒子に変わった。


 舌打ちしつつ銃をホルスターに収納し、腰のダガーを抜く。

 倒しきれなかった。

 やつらが左手のバックラーで頭をかばったためだ。


 拳銃の威力では、頭への攻撃(ヘッドショット)以外では一発では倒せない。

 一匹倒すのに四発から五発必要なのである。


「残り十発で二匹倒せたのは、良しとしたもんかな」


 頭を切り換えて迎え撃つ。

 視界の隅には、弾丸の再装填に必要な時間が表示されている。

 あと五秒。


 振り下ろされた蛮刀を跳びさがって回避しつつ、右手のダガーを突き出した。

 盾に弾かれる。


 ですよねー。

 僕にはワトやクシュリナーダほどの近接戦闘技能はない。


 邪小鬼ていどならレベル差で楽勝だけど、一レベル差の竜人相手にダガー一本で勝てるわけがない。

 それを承知で接近戦を挑んだのは、ちゃんと勝算があるからだ。


 横薙ぎの一撃をダガーで受ける。

 重っ!?


 膂力が違いすぎるなあ。

 けど、動きは止めたよ。


 刀を右手のダガーで止めたまま、左手がホルスターから拳銃を抜く。

 超至近距離から連続発射された弾丸が竜人の身体を貫いた。

 ずるりと崩れ落ち、光の粒子に変わってゆく。


 銃はね、密着した状態でも撃てるんだよ。


 ダガーを空中に投げ、落ちてくるまでの一瞬で左の銃をホルスターに戻し、右手で左脇の銃を抜く。

 落ちてきたナイフは、ぱしんと左手で構え直す。


 音程の狂った叫びをあげ、最後の一匹が逃げ出した。


「残念。逃がすわけがないよね」


 右腕を真っ直ぐに伸ばし、狙いを定める。

 銃声が響き、無様に走る竜人の後頭部に命中した。


 くるくる回した銃をホルスターへ、ダガーを腰の鞘に戻す。


「こんな小兵ひとり、すぐに倒せると思っただろ? でもね、銃は等化器なんだよ」


 うそぶきながら。

 こいつを扱うのに、ものすごい筋力なんか必要ない。

 究極的には、引き金を絞る力があれば撃てるのだ。


 けど、誰が撃ってもこいつの威力は変わらない。

 大男にもチビにも、男にも女にも、大人にも子供にも、マッチョマンにも貧弱ボーイにも、同じだけの力を与えてくれる。

 だから等化。


 ゲーム的にいうなら、筋力度(ストレングス)の補正はないってこと。

 必要なのは、ここ一番でびびらないで引き金を引けるか。

 そのクソ度胸だけだ。


「びびったら負け。これは銃に限らないか」


 僕は踵を返し、農場へと戻り始めた。

 が、慌てて戦闘ポイントに戻る。


 格好つけるのに夢中でドロップアイテムの回収を忘れてた!

 恥ずかし!


「あっぶねー 回復薬を拾い損ねるとこだったよ」


 竜人六匹が落としたのは回復ポーションが三本だった。

 まんま、減った耐久ゲージを回復させるアイテムで、買ったらそこそこ良い値段がする。


 回復術士(ヒーラー)のいない僕たちパーティーには、もっのすごい貴重品である。

 そもそも農場から遠く離れられないから、街まで買いにいくこともできないしね。


「三本もドロップしたってことは、けっこう耐久が減る戦いになるってことかな?」


 激戦の予感に、僕はぺろりと上唇を舐めた。


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