荒野の二丁拳銃編 3
走ること一分ほど、竜人が人間に襲いかかっているのが見えた。
赤銅色の肌で、竜というより蜥蜴みたいな頭をもったモンスターである。
身の丈は二メートルほど。
レベルのせいもあるけど、邪小鬼なんかとは迫力が違う。
右手に蛮刀を持って左手に円盾。
粗末なものだけど、ちゃんと武装しているってのも怖いね。
その怖い竜人が四匹。
刀を振りかざしたり、吠えたりしながら、十人ほど農民を追いつめている。
そして農民たちの前には長剣を構えた男が一人、一歩も退かない構えで竜人どもを睨みつけていた。
NPCじゃない。
僕たち同じプレイヤーである。
けど、いくらレベル二十五だって竜人四匹は厳しすぎる。
襲いかかられたらアウトだ。
「クシュリナーダ!」
声をかけ、僕は足を止めて両脇の拳銃を引き抜いた。
距離は五十メートルくらい。問題ない!
助ける!!
連続して火を吹く拳銃。
「げ。まじか」
一匹に一発ずつ当てたのに、耐久ゲージが四分の一も減ってない。
鱗かっ!
武装しているのに鎧を身につけていないのは、硬い鱗が身体を覆っているからだ。
「くそ!!」
正面に拳銃を構え、前進しながら撃ち続ける。
今度は一匹に集中して。
左右二発ずつの射撃で、ようやく光の粒子に変わった。
なんて堅さだ。倒すのに合計五発必要なのかよ。
僕の拳銃には六発しか装填できないってのに。
「伸びろ! マリーゴールド!!」
叫びとともに槍で地面を突いたクシュリナーダ。棒高跳びの要領で高く舞い上がる。
そして数メートルの高さから、猛禽のように襲いかかった。
高角度のドロップキックだ。
防御もできずに、竜人が顔面で受ける。
バァン、と、景気のいい音。
致命的な攻撃の文字が空中に浮かぶ。
頭が弱点か。
光に変わる竜人に目もくれず、華麗に着地したクシュリナーダが、長さを戻した槍で別の竜人の足を払った。
「頭よ!」
「わかった!」
体勢を崩したそれの頭を、気合い一閃、男が斬り裂く。
瞬く間に仲間を三匹もやられ、残った竜人がたじろいだ。
そこに僕の銃弾が降り注ぐ。
弾倉に残った四発、すべてプレゼントだ。
「足を止めたら終わりだよ」
消滅してゆく竜人向かってうそぶきながら、拳銃をくるくる回してホルスターに収める。
完勝、と、言いたいところだけど、たった四匹の竜人に十二発も弾丸を使っちゃったよ。
サガの街で予備の弾買っておいて良かったぁ。
「助かった。礼を言う」
長剣を鞘にしまった男が、クシュリナーダに頭を下げた。
金の髪と赤い瞳が嫌味なほど決まった美形剣士である。
「問題ないわ。間に合って良かった」
笑顔で右手を差し出す槍師。
ふーむ。
けっこうこの女性って簡単に握手を求めるよね。
戦士は利き腕を触らせないとか、そういうことを気にしない人なのじゃろうか。
まあ、べつになんかの根拠があるものでもないしね。
漫画で読んだ程度の知識だし。
ズボンで手を拭ってから、男がそれを握り返す。
「ワトだ」
「クシュリナーダよ」
ごく簡単に名乗りあう。
僕も歩み寄り、挨拶をした。
彼もまた農場を守る依頼を受けた賞金稼ぎである。
「私たちと組まない?」
「もちろん。こちらからお願いしたいくらいだ」
目的が一致している以上、パーティーに誘わない理由はない。
ワトだって、加わらない理由はないだろう。
「なあ? きみの他に賞金稼ぎはきてないのかい?」
「見ていないな。俺が到着したのは昨日だが、誰もいない」
「そっか……」
事態はけっこう深刻かもしれないぞ。これ。
考え込む僕に、ワトが首をかしげる。
彼は危険性に気付いたからこの仕事を受けたのではなく、ただ単純に報酬の安さにつられたらしい。
正義の味方だから。
弱きを助け強きを挫くのだ。
これはべつに珍しい心理じゃない。ゲームだもの。
わざわざ悪党っぽいプレイをしたいって人は、むしろ少数派だろう。
多額の報酬も用意できない貧しい農場。無慈悲に襲いかかるモンスター。この状況を放置するって人は、そもそもこの手のロールプレイングゲームには向いてないんじゃないかな。
「なるほどな。そう考えると、この動きは単独のものではないかもしれんな」
説明を聞き終え、ふむ、と、ワトが腕を組む。
農場を襲うモンスター。それ自体は妙でも珍でもない。
やつらは、あるところから奪おうとするから。
食料が欲しいなら農場を狙うのは当然だろうし、警備が薄くなっているいまならなおさらだ。
だからこそ誰も不思議に思わなかったけど、じつは魔王軍の動きと連動しているという推理も成り立ってしまうのだ。
兵站を狙うというのは、軍略として至極真っ当だから。
赤い瞳に思慮深げな光がたゆたう。
ああもうっ。
イケメンだなぁっ。
「それでも、私たちのやることは何も変わらないけどね」
ふふりと不敵な笑みを浮かべるクシュリナーダ。
黒曜公に援助を求めても無駄だ。彼らも手一杯なのだから。
であれば、僕たちとしては予定通りに竜人どもをやっつけるしかない。
戦力が不足しているのは承知の上で。
「負けられない戦いから、絶対に負けられない戦いになっただけだね」
僕は肩をすくめてみせる。
クシュリナーダの言うとおり、僕たちは自分のできることをやるしかない。
「肝が太いな。ふたりとも」
ワトも微笑した。
かなり苦笑に近かったけどね。
「あの! ありがとうございます!」
村人の中から、少女が飛び出してきて礼を述べる。
ステータスには農場主の娘、チコとあった。
セイギが言っていた、ガンナーでも差別せずに付き合ってくれる娘さんだろう。
栗色の髪に、すこしだけそばかすのある愛くるしい顔立ちだ。
年の頃なら十六、七ってところかな。
僕は柔らかく笑いかける。
「ガンスミスショップのセイギからきいてるよ。僕たちが来たからには安心してほしい」
なぜか頬を染めるチコ。
ははーん。
なるほど、この子がガンナーにも優しいのは、ちゃんと理由があるってことだね。
好きな人の職業なら、そりゃあ目も甘くなるってもんだ。
もちろん無粋なツッコミなんてしないよ。
理由はどうあれ、はぐれ者の僕たちを受け入れてくれるんだからさ。
良い子じゃないか。
「お礼はあんまりできないんですけど……」
「気にしなくて良い。昨日もいったが好きでやっていることだからな」
消え入りそうな声で言うチコに、ワトが淡々と応える。
イケメンだけど口下手な剣士って印象そのまんまだ。
なんつーか、主人公ポジションだなぁ。
「モンスターを狩るのが私たちの仕事。人助けだって同じよ」
クシュリナーダも笑顔だ。
こっちは姐さんって雰囲気。
それはそれでばっちり決まってる。
あれだ。
美月先輩みたいな感じ……。
あれ?
まさかね……?
「ともあれ、この戦力で敵の本拠地を突くというのは現実的ではない。まずは守りを固めて戦力を削いでゆく、という方針しかないだろうな」
「あ、うん。そうだね」
ワトの声で、僕は変な想像を打ち消した。
リアルとゲーム内での性格が同じなんて限らない。というより、なりたい自分になってるんだから、違うと考えるべきだろう。
そもそも、リアルを詮索するなんて重大なマナー違反だ。
ゲームはゲーム。
リアルとは別腹なのである。
「一斉にかかってこられたら対応できないわよ?」
小首をかしげるクシュリナーダ。
凛とした人だけに、こういう仕草がものすごく可愛らしい。
「たぶん大丈夫だと思うよ」
僕は笑ってみせる。
「そのこころは?」
「さっきワトが戦っていたときも、四匹しかいなかっただろ?」
「それは、あまりにも薄弱な根拠じゃない?」
「でも判断の一助にはなるよ」
竜人の盗賊団は農場を舐めている。
まあ、警戒する理由なんてどこにもないから当然だ。
ならば戦力を出し惜しむだろう。
盗賊団の中でも下っ端をいかせるって感じ。使いっ走り感覚でね。
常に反撃を警戒して圧倒的多数で動く、なんて盗賊の発想じゃない。
ぶっちゃけ、ちゃんとした軍事教育を受けてるような連中の考え方だろう。
「けど、魔王軍の可能性もあるんでしょ?」
「そうだ。軍隊としての発想なら、次の手は偵察だ。すなわち、少数の部隊ということになるな」
ワトがにやりと笑う。
ふふ。
わかってますね。ワトの旦那。
無軌道な盗賊団にしても、訓練された軍隊にしても、次の手は同じなのである。
少数で動く、という意味において。




