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雷光の大魔法使い編 3


 玉座のうえにあるのは、伯爵級の稀属であるラーク。

 レベルは三十八。


 うっひい。僕たちより十三も上じゃないですか。

 やばいやばい。


 ソロだったら絶対に勝てないね。

 側近と思しき魔豹人が十匹もいるし。


 さて、どう戦うかな。


「む……? 扉が開いているぞ?」


 なかなか渋くて良い声だ。

 取り巻きの魔豹人うち一匹が恐懼(きょうく)しながら閉めに向かう。


 そろそろとそれについていくカルラ。

 よし。そいつは任せるよ。


 ヤイバとクシュリナーダが目配せし、一挙動でラークに襲いかかれるポジションにつく。

 僕は、謁見する人が(ひざまづ)くような場所に立った。


 その前にシュトルム。

 肉弾戦の苦手な僕を守ってくれる構えだ。


 ゆっくりと左手をあげ、魔法の準備をする。

 選ぶのは、使える中で最も強い範囲攻撃魔法、炎の嵐(ファイアストーム)だ。

 あれ? ストームとシュトルムって語感が似てる?

 どうでもいいことを考える。


 魔法使いの杖をかざし、左手を振りおろす。


「ファイアストーム!!」


 発動ワードとともに。

 違う魔法を使ったため、インビジブルが解ける。


 次の瞬間、いくつものことが同時に起こった。


 僕の声に驚いて振り向いた魔豹人の首を、カルラの短刀が掻き斬る。


 ラークを中心に何本もの火柱が立ちあがり、不規則な軌道で暴れ回る。


 いきなり攻撃され混乱する魔豹人どもが、五匹六匹と光の粒子に変わってゆく。


 その混乱をついて突進した戦士二人。


槍技(ランススキル)! 煉獄乱舞(れんごくらんぶ)!!」

刀技(シャムシールスキル)! 百花繚乱(ひゃっかりょうらん)!!」


 同時にスキルが発動する。

 怒濤(どとう)の五段突きと、閃光の五連斬撃。


「ぐぼぁっ!?」


 これにはラークもたまらずに吹き飛ぶ。

 耐久ゲージを六割ほど一気に削られて。


「やった!」

「まだ」


 手を叩くシュトルムを、僕は冷静に押しとどめた。

 不意打ち一発で倒せるような相手じゃない。むしろあの耐久ゲージの減り方はおかしい。


氷の矢(アイスアロー)! スリーウェイ!!」


 魔法使いの杖を振り、頭上に三本の氷でできた矢を浮かべる。


「GO!」


 直線の虹を描いて飛んだ矢が稀属に突き刺さる。

 大ダメージを与えるのが目的ではない。

 スキル発動後の硬直が解けるまでの時間を稼ぐのが目的だ。


「クシュリナーダ! ヤイバ! いったん戻って!」

「了解よ」

「判った」


 槍使いは幾度も蜻蛉を切って、サムライは狙いを絞らせないようにジグザグに走りながら、それぞれ後退する。


 魔豹人どもが追いすがろうとするが、眉間からナイフを生やして次々と転倒し、光の粒子になって消滅した。

 いつの間にか僕の隣に立ってナイフ投げの妙技を見せているカルラの仕業だ。

 そつがない。


 ゆっくりとラークが立ちあがる。

 金の瞳に怒りの炎を灯らせて。


「ニンゲンども……いつのまにここへ……」

「警備がザルだったからね。すいすいと入ってこれたよ」


 油断なく杖をかまえ、僕は軽口を飛ばした。


 視線で仲間たちに警戒するよう促す。

 ダメージが入りすぎてるのだ。


 前に戦った子爵級の稀属であるイーダスは、もっとずっと硬かった。

 あるいはこれって、前哨戦かもしれない。

 なぜならこのシナリオは『魔王ラークの野望』だから。


 いまここにいるラークに、魔王なんて冠言葉はついてない。

 つまり、倒してもまだ続きがあるってこと。


 前衛二人が、この時点でダメージを受けすぎるのはまずい。

 できれば傷を負うことなく次のステージに進みたいところだ。


「スザク?」

「大きい魔法で一気に削る。たぶんそれではっきりする思うよ」


 言うが早いか、魔法一覧から単体攻撃用のやつを選ぶ。

 これが一番強いかな。


 げ。

 なんだ詠唱必須って。

 そういうギミックいらないから!

 くっそうくっそう。


「意思もちて舞いおどれ魔竜の(アギト)! 咬み砕け! 竜牙(ドラグファング)!!」


 ひー、恥ずかしいよう。


 魔法使いの杖でラークを指す。

 謁見の間の床と天井から突き出した四本の鋭利な石筍が、まるでドリルのように回転しながら稀属の身体を貫いた。


「ぐあ!?」


 一気に耐久ゲージを削りきる。

 が、光の粒子にはならない。

 倒していないのだ。

 やっぱりね。


「くく……魔法使いよ。いつから気付いていた? 我がただの稀属ではないと」


 や。気付いてないけどね。

 まさかシナリオタイトルから、当てずっぽうの推理をしただけとは言えない。


「言っただろ。警戒が薄すぎたって。微風公子を捜すなんて適当な情報に踊らされたにしてもさ。ここまで警戒してないのはおかしいんだよ」


 さあ僕。なんかもっともらしいことを言うんだ。


「まして攻め込むなら、領主のことも公子のことも調べていないなんてわけはないよね。公子が領地も領民も捨てて逃げるような人かも、ちゃんと判ってるはずさ」

「くくくく……」


 なんか笑ってる。

 でも、自分で言っていてこれ正解な気がしてきたよ。


 なにしろここまでが簡単すぎる。

 誘い込まれたんじゃないかってくらいにね。


「待ってたんでしょ。微風公子が挑んでくるのを。わざわざ偽情報に踊らされた振りをして」

「良く読んだ。ニンゲン」


 笑みを絶やさないラーク。

 その身体が膨張してゆく。ぼこぼこと筋肉が盛り上がり、側頭部からは巨大な角が生え。


「だそうだよ。シュトルム。いや微風公子」

『えええーっ!?』


 一人を除いた仲間たちの、驚愕の混声合唱である。


「人が悪いな。スザク。いつから気付いていた」

「最初からさ」


 はい。

 うっそでーす。


 ついさっき、自分の魔法の名前で気付きました。

 ストームは嵐。

 シュトルムも嵐。ドイツ語で。

 そして、微風(そよかぜ)の反対は嵐だからね。


「城を失い、両親を殺された私はそよかぜであることをやめた。ここにあるのは嵐。貴様ら稀属を討ち滅ぼす颶風(ぐふう)だ」


 腰間の剣を抜き、びしっとラークに突き付ける。

 かっこいい。


 けど、それはラークも読んでいたんだってさ。

 きみが遠からずやってくるって。


「ふふふ。飛んで火に入る夏の虫とはこのことよ」


 ぼん、という音ともにスモークがあがった。ラークの周囲に。

 次の瞬間、立っていたのは三割以上もでかくなった稀属……いや、魔王ラークである。


 身長は三メートルに達するだろうか、ボリュームとなるとちょっとたとえようがない。

 胸筋はぐわっと盛り上がってるし、二の腕なんて丸太みたいな太さだ。


「まじ……?」

「レベル四十二だと……」


 カルラとヤイバが掠れた声を絞り出す。

 さっきの三十八も充分にやばかったけど、それより四つも上とかね。

 もちろん耐久ゲージも全快してる。


「ようするに、ここからが本番ってことね」


 ぺろりとクシュリナーダが唇を舐めた。

 その顔は緊張はしているものの、恐怖にこわばってはいない。

 強いな。

 相変わらず。


 うん。

 僕も負けていられない。


「全員がノーダメ。消費してるのは僕の魔力だけ。かなり良い形で開戦できる。みんな、自信を持って」


 仲間たちを鼓舞する。

 ヤイバとカルラが軽く息を吐き、頷いた。


 まともに考えたら、ここまでにけっこう消耗しているはずなのである。

 それに比較したら、ずっとずっと有利な条件で始められる。

 というより、これより良い条件にはなりえないだろう。


 プレイヤーキャラクターが、パーティー上限の六人揃ってるとかね。

 でもシュトルムがいるんだから、あと一人しか入れられないわけで、戦力としては微々たる差じゃないかな。


「ここからは小細工なし。総力戦だよ!」

『望むところ!』


 仲間たちが唱和する。

 まず飛び出したのはクシュリナーダだ。

 得物を右手に、一気に距離を詰める。


 魔王ラークの両手に太刀が出現した。

 でけえ。

 夜叉丸が使ってたのと同じくらいのやつだ。それを二刀流とか。


氷の矢(アイスアロー)! スリーウェイ! ダブル!!」


 杖の力も借りて、僕は六本のアイスアローを生み出した。


「GO!」


 不規則な機動で飛ぶ矢。

 迫るクシュリナーダがブラインドになって見えないでしょ。


 ゆーて、魔法は必中だから、ぐねぐね曲げようと真っ直ぐ飛ばそうと一緒なんだけどね。

 でも、一瞬だけでも注意を逸らせれば。


 小うるさそうに太刀を振る魔王ラーク。

 その隙を突いてぐっと踏み込んだクシュリナーダが、伸び上がりざまに槍を繰り出した。



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