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憂いの金髪剣士編 4


 声をかけてきた男は、ノルブと名乗った。

 僕と同じ賞金稼ぎである。


 あ、領主軍兵士とか○○家家臣とか、そういう決まった職についてないプレイヤーは、賞金稼ぎ(バウンティハンター)ってひとくくりされるんだ。

 さすがにプーとかニートとは呼ばれない。


 じっさい、主な収入源ってモンスターを倒して賞金を得たり、さまざまな依頼をこなして報酬を得たりだから、賞金稼ぎって呼称でだいたいあってる。

 あるいは何でも屋(ジェネラルジョブ)とかね。


 で、そのノルブの申し出は、うまい話があるから一口乗らないかっていう誘いだった。

 一目見て、僕の強さを見抜いたらしい。

 なかなかの慧眼(けいがん)だ。


「さて。なにをもってうまい話とするか、それは見解が分かれるところだろうが」


 ニヒルに笑って、僕もノルブの正面に見据える。

 表示されたステータスは、レベル七の戦士だ。

 強者である。


 魔法少女のときに会ったゴジョウよりもずっと強い。

 ということは、『赤髭公の鬼退治』よりも三ランクか四ランク上のシナリオだろう。

 僕のレベルはまたしても二十五なので、わりとラクにこなせるはず。


河岸(かし)を変えないか? 良い店を知ってる」


 くいと顎をしゃくる。

 乗っかるか、回避するか。

 ちらっと考えるけど、乗っからないとゲームにならない。

 こういうのには積極的に首を突っ込むのが吉だ。


「良い店? 美女つきかい?」

「あんたも好きねえ」


 漂白されたような顔で返された。

 え?

 いまのはボケ? それともツッコミ?

 悩むわー。


 悩んでいるうちに案内されたのは、いかがわしい店だった。

 正面にステージがあり、たぶんショーとかやるような感じなのかな?

 どーんとポールが立ってる。


 うん。

 これってあれだよね。海外の映画に良くでてくるストリップとかをやるステージだよね。

 どうなってんだよ。『LIO』の倫理規定。

 全年齢対象なんだからさ。


 なんて思ったんだけど、どうやら店は開店前で、魅惑の踊りはやってなかったし、ステージの照明も落とされていた。

 たぶん営業中にプレイヤーが入ることはないんだろうね。

 残念無念。


 NPCとおぼしきダンサーたちが、ジャージ姿で練習をしているのみだ。

 どっちかっていうとスポーツジムみたいだね。


「座ってくれ。ニルス」

「ああ」


 促されるままに席につく。

 当たり前だけど、お酒もツマミもでてこない。


「あんた、ひとかどの戦士だろ? 飄々としてるけどよ」

「どうかな? 並より上だって自覚はあるけどね」

「その返しが強いヤツの証拠さ。弱っちい犬ころは良く吠えるもんだからな」


 ふ、と、笑うノルブ。


 こいつはこいつで格好いいな。

 鍛えられた鋼みたいな肉体で黒髪を刈り込み、アメリカの海兵隊員みたいだ。

 こんな人に強者認定されるって、すっごい気持ちいい。


「話を聞こう」

「ああ。まずはこいつを見てくれ」


 テーブルの上に地図を広げる。

 紙製の古くさい地図だ。おそらくは『ミキシング』まえのシロモノだろう。

 その中の一ヶ所、ホウライ館と書かれた場所に赤い丸で囲まれている。


「館?」

「ああ。『ミキシング』より前から建ってるらしいんたけどな。ここに稀属(きぞく)が住み着いた」

「なんだと?」


 僕は目を見張った。


 稀属ってのは、ようするにモンスターのたちの中で貴族みたいな存在だ。

 ものすごい強敵なんだけど、同時に、倒すとものすごい賞金が得られたり、ものすごく強力なアイテムが手に入ったりする。

 ごくりと息を呑む。


「位階は?」

「男爵級」

「ふむ……」


 稀属の中では最弱か。

 奴らはべつに爵位を持っているわけじゃないけれど、その強さによって人間たちは勝手にランク分けしている。

 公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、と。

 一番弱いのは男爵級。


 といっても、普通のモンスターよりずっとずっと強い。

 レベルはたしか十八からだ。

 夜叉丸でも八だったことを思えば、その強さが想像できるだろうか。


「俺一人じゃ手も足もでねえ。けどニルス。あんたと一緒ならいけるんじゃねえかと思ってな」

「なるほど。そこまで見込まれたら、まさか嫌とはいえないな」


 僕はにやりと笑って右手を差し出す。

 ノルブが、がっちりと握りかえした。

 シナリオスタートである。


「じゃあ、さっそく行ってみるか」

「だな」


 立ちあがる。

 このあたりはゲームなんで、事前に情報を集めたりとか、そういうプロセスはない。

 装備を調えるくらいはできるだろうけど。


 連れだって開店前の店を出る。

 その瞬間、ふと視線を感じて振り返るとNPCダンサーのひとりが、こちらを見ていた。


 ていうか、視線を感じるってすごくない?

 いまさらながら、よくできてるよなあ。


 ただ、それは単に店を出て行く人物を見ていただけだったようで、ダンサーはすぐに他のNPCと話し始めた。

 美女から声をかけられるかと思ってドキドキしちゃった!

 ちょっとだけ!






 かなり広い公園を歩く。

 風情あるなあ。

 これでモンスターが出なかったら、最高の散策だよね。


 もっとも、邪小鬼とか邪妖精ばっかりなんで、たいした苦戦もしないんだけどさ。

 前者はレベル一だし、後者はレベル二だもん。


 苦戦はしないけど、こんなん何匹倒したって経験値は微々たるもの。

 さすがにレベル二十五くらいになると、次のレベルまでの必要経験値は膨大なんですわー。


「あの屋敷だ」


 ノルブが指をさす。

 木漏れ日のなか、ひっそりとたたずむホウライ館は、文字通り貴族の館って感じだった。

 周囲には二足歩行の獣、牙狼人(がろうじん)が何匹も歩哨(ほしょう)に立っている。


 やつらのレベルは四だ。

 まともに戦えば負けるような相手じゃないけど、ちょっと数が多い。


 少し数を減らすか、と、右手を腰の後ろにまわし、そこに魔法少女ステッキなんかはないことを思い出す。

 そうだった。僕はもう魔法少女は卒業したのである。


 いまは戦士ニルス。

 魔法は使えない。


「芸もなんにもないけど、正面突破か」

「レンジャーか魔法使いでもいれば話は別だろうがな」


 僕の嘆きにノルブが苦笑した。

 考えてみたら、館に来る前に組合によって仲間を募っても良かったかもね。

 もしかしたら僕以外のテストプレイヤーもいたかもしれないし。

 すっかり忘れてたよ。


「無い物ねだりしても始まらない。いこうか。相棒」

「あてにしてるぜ。相棒」


 右拳同士を軽くぶつけ、無造作に接近を始める。

 僕たちに気付いた牙狼人が、一斉にこちらに向かってきた。

 数は八。


 腰間の剣を抜く。

 ノルブもまた得物を取り出した。

 左右の手にハンドアックスをひとつずつ。

 おお。格好いいんでないかい。


「いくぞ」

「おう!」


 同時に駈け出す。

 接近されるのを黙って待ってたりしない。


 ぐんぐん加速しながら、


「せい!」


 一閃。


 バックハンドで繰り出した長剣が牙狼人の首をはねる。

 すぽーんって勢いで。

 視界に浮かぶ致命的な攻撃(クリティカルヒット)の文字。


 OK。やっぱり首をはねれば一発だね。

 二足歩行タイプは、そのあたりが弱点っぽい。

 まあ、首はねたらたいていの生物は死ぬだろうけどさ。


 光の粒子に変わってゆく牙狼人に目もくれず、僕は次の相手に襲いかかった。

 振り抜いた剣の勢いを殺すことなく袈裟懸け。

 返す刀での掬いあげ。


 瞬く間に、さらに二匹を倒した。


「次!」


 さらに踏み込む。


 牙を剥き、両手の爪をのばしで襲いかかってきた牙狼人。

 大上段からの爪攻撃を音高く弾く。

 その瞬間、視界の隅で剣技アイコンが点滅した。


 おおっ! 発動条件を満たしたか!。

 上からの攻撃をそのまま上にはじき返すこと、かな?

 なるほどなるほど。


 けど、剣から手を離してアイコンに触れる余裕はない。

 なのでもう一つの発動方法を選択する。


 すなわち、


剣技(ソードスキル)! 浮舟(うきふね)!!」


 声による入力だ。


 僕の身体が滑るように前進し、爪を弾かれて万歳みたいな格好になってしまった牙狼人の身体を胴薙ぎにして突き抜ける。

 二歩も三歩も進んだ後方で哀れなモンスターは上下二つに分かたれ、光の粒子となった。


「よっつ!」


 撃破数を叫ぶ。

 ノルブに向かっていた四匹のうち、慌てて二匹がこちらに向かってくる。


 そっち二対一で大丈夫だよな。ノルブ。

 視線で問いかければ、にやりとした笑みが返ってきた。

 上等。


 アイコンはまだ光りっぱなしだ。

 派生剣技(コンボ)があるのか。

 今回はタップする余裕があるけど、ここはあえて音声入力でいきましょ。


「剣技! 疾風(しっぷう)!!」


 ふたたび加速した僕の身体が、向かってきた牙狼人の間をすり抜ける。


 速!

 一気に後ろをとった!


 こうなったら、もう目を瞑っても倒せるね。

 がら空きの背中を晒す二匹を、僕は次々と斬り伏せた。



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