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僕を人殺しと呼ぶ魔女  作者: 蓼科 黎


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1話 新任特魔官

『僕を人殺しと呼ぶ魔女』1st PV

2026年10月2日(金)21:00 よりYouTubeにて公開中。

▼YouTube

https://youtu.be/OgxDnCscaYc

見慣れた天井が見える。

いや、見慣れたと言えるほど意識して眺めたこともなかったか。

まだ回らない頭で、そんなことを考える。


確かなことは、この部屋から一日が始まることが多かった……くらいだろうか。

この部屋の外で目を覚ました時には、何を考えていたのだろう。


まとまらない考えが、眠気と共に沈んでゆく。



……ピピピピッ、ピピッ——



左手を伸ばし、通信端末にセットしたアラームを止め、そのまま画面を開く。


 AM 6:35 メール通知 10件

 受信時間 AM 4:23

《今日は新しい子が入ってくるから、全員遅れることがないように!!!!!》

《お》《く》《れ》《る》《な》《よ》《!》《!》《!》


…………見なければよかった……。

募っていく後悔と比例するように、眠気はどこかへ消えていった。


——————————————————


首から掛けた機関証をカードリーダーへかざし、エレベーターホールへと向かう。

エレベーターホールには既に数人ほどの職員が自分の端末へ視線を落とし、エレベーターを待っている。

……クラシカルな音楽が、この場を包む。


流れる音楽を邪魔しないよう到着を知らせるベルが鳴り、他の職員たちがエレベーターへ納まるように乗り込む。

その流れに続き俺もエレベーターへ乗り込み、46階を押す。どこの職員かも分からない同乗者と肩が触れる中、ドアがゆっくりと閉まる。

肩が触れたまま身動きも取れず、固まったまま階層表示板を黙って見つめる。


11階、14階……とアナウンスが流れる。停止するたびにエレベーター内の人数が減り、30階を過ぎると誰もいなくなった。

階層表示板が46階を示し、無機質なアナウンスが流れる。やたらゆっくり開く自動ドアを待たずして、半身でその隙間をすり抜ける。

無駄に長い廊下を進みながら、首に掛けた機関証を再び手に取り——ようやく見慣れた扉の前で立ち止まる。



対魔女特別対策機関——対魔女特殊対策部



仰々しく書かれたその文字には一瞥もくれず、その下にあるカードリーダーへ機関証を迷わずかざす。

認証時の機械音を合図に、部屋のドアを開ける。


「おはようございま、す……。」


机に突っ伏し眠る一人の女性を見つけ、引き気味で見つめる。

デスクの上には栄養ドリンク剤が蓋も閉じ切っていない状態で散乱している。

ラベルに毒々しく書かれた『目がトビっ!!!』という文字を見て顔を引き攣らせる。

……本当に認可が降りた飲み物なんだよな?


「……ん?あぁ、アノン君か……おはよう。いま何時?アノン君が来たってことは、7時40分くらいかな?」

「まだ7時39分ですけど……。それよりハンナさん、顔洗ってきた方がいいと思いますよ。」


無言のまま彼女は顔を上げ、端末を鏡代わりに寝癖で乱れた髪を手で直す。

その青紫色の髪の隙間から、時折右目の義眼がこちらを覗く。


「うわっ、何この通知量。きも……。」

「よくこんなに通知が来てたのに寝てられましたね。」

「いや、私あの人からの通知オフにしてるから、さ。」

「……一応、部長からの通知なのでオンにしてください、とだけ言っときますね。」


悪びれる様子もなく、右目に眼帯を付け手袋をはめながら答える。

その様子を横目に、俺も自分の業務用端末を立ち上げながら手袋をはめる。


「ん。大丈夫。アノン君からの通知はオンにしてるから。」

「いや、そういう問題じゃ——」


「おはようございまーーーっす!!!」

「ちょっ、ミアさん!それ俺が買ってきたパンなんっすから、返してくださいよ!!!」


勢いよく扉を開けながら、これまでの空気を断ち切るように二人が入室してくる。


先頭を走るのは、淡い栗色の髪を揺らした小柄な女性。

俺の胸元ほどしかない背丈で、片手にはパンの袋が握られている。


その後ろを、橙色にも見える明るい茶髪の後輩が追いかけていた。

……遠目から見ると、兄妹にも見えるな。


「テオ、部署内でそう騒ぐな。」

「だって起きたらあの量の通知っすよ!?俺だって遅れちゃまずいって、その辺の購買で朝飯買ったのに——」

「あ!アノンおはよう!もぐもぐ……。」

「あーーーーーー!!!俺の朝飯、が……。」


……災難だったな。

心の中で呟きながら、部屋の隅にあるコーヒーマシンへと向かう。


グラスをセットし、エスプレッソを二杯分——いや、まずは一杯飲んでからだな……と考えながらボタンを押す。マシンから聞き慣れた抽出音が鳴り響く。


聞いた話によると、マシンから出る振動音は「ソ」の音程らしい。

……これが「ソ」の音程なのか?全く分からんな。

そんなことを考えながら、少しずつ抽出されるコーヒーを眺める。


片手で一杯分のエスプレッソを喉へ流し込み、もう一度コーヒーマシンへグラスをセットする。再び鳴り響く抽出音を聞きながら、ふと壁に掛けられた時計を見上げる。


 AM 8:02


……予想はしてたが、あんな夜中に連投してきた本人が遅れるなんてことがあっていいのか?


抽出音が鳴り止み、二杯分のエスプレッソを入れたグラスを口元へ運ぶ。

今日は昼まで飲み干さず保たせられるかと考えながら、グラスの隙間から黒い液体を覗き、大事に口へと含ませる。


「やぁ、諸君。おはよう!今日も気持ちの良い朝だな!」


扉の方向へと視線を向ける。

少し赤みを帯びた長い髪を結えた女性が、堂々と胸を張って立っていた。

……誰も返事をしない。


「……あのぁ、リサさん。もう八時過ぎてるんすけど——」

「うむ!新しい仲間が来るというのに、遅れてくるなんて言語道断だからな!皆揃っていて私も安心しているぞ!!!」


清々しいほどの棚上げに、室内の空気はさらに冷めていく。


……椅子を戻す音とミアがくしゃみをする音が鮮明に響く。


「……おはようございます、リサさん。今日は新人が来るとのことでしたが、後ろの方が……?」

「そうだ。今日からこの特殊対策部に新しく配属されることになった、セリナ・ヘイル特魔官だ。ヘイル特魔官、皆に挨拶を。」


ヘイル特魔官と呼ばれた女性が、一歩前へ出てリサさんの隣に並ぶ。


卸したてなのだろう。制服にはしわの一つもなく、艶やかな黒髪も乱れなく整えられている。

しかしその整った装いとは不釣り合いに、目元には薄い隈が残っている。


前へと出た彼女はすぐには言葉を発さず、部屋を一度なぞるように見渡す。

一瞬、彼女と目が合う。少し驚き、慌てて視線を逸らす。


逸らした先には、身体の前で丁寧に重ねられた彼女の両手が映る。

右手へ重ねるように置かれた左手には、黒い手袋がはめられていた。

手袋と左袖の隙間からは——金属製の義手がわずかに覗く。


「……本日付で対魔女特殊対策部に配属となりました、セリナ・ヘイルです。よろしくお願いします。」


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