3話 住み処を同じくするモノ
海魔の討伐の良いところは、後片付けがほとんど必要ないことだ。
『環境革命』を境に発見が相次いだ海魔。正体は未だ不明。そもそも誰も解明しようとしていない。
こんなことをいつまで続けるのか、そこに誰も疑問を持てない。
……いつしか当たり前になっていた。以前はあり得なかったはずの未確認生命体に襲われ続ける生活は、700年もすれば世代交代のうちに浸透していた。
もちろん、対海魔科の面々も、終わりに目処がない仕事に苛立ってはいる。しかしなぜ海魔が頻出するのかについてはほとんど疑問を持たないのだ。不遇であることに苛立つが、根本においては疑問を持たない。人間はそんなものだ。
例えば、飴が一粒あったとしよう。そこには二人の人間がいるとする。
二人の人間は取り合い、片方が手にし、片方は手にしえなかった。
すると手にしえなかった一方は多くの場合、嘆くか、怒るか、はたまた悲しむか、いずれにせよ不遇を恨むだろう。
しかしどうだろう。
ほとんどの人間は、手に入れられない『不遇』に苛立つものの、直ぐになぜ飴が一粒しかないのか、なぜ片方にしか与えられないのかということには目が向かない。
そんなものだ。
そんな中でも少数派の『変人』は講座敷に帰還した。
未成年の対海魔科所属者は、基本的に雇用という形は取れない。だから講座敷、昔は学校と呼んだらしいが、その中での課外活動として取り組ませているのだ。
あくまでも入隊拒否権はあるのだが、名目上は大変名誉的なのだ。相当の理由がなければ『勧誘』は断れない。
「休憩中に仕事とかブラックですかー」
「そういってやるな少年。ところで嬢ちゃんはどうした?」
「知りませんよ」
「……バディだろ?」
「知りません」
鵜ノ崎は戦闘後に「これ汎用性ないわ」と言ってどこかへ行った。知らない。
「じゃあ部屋戻りますね」
「アレの世話かぁ? もう文句は出さないが責任は自分等でとれよ?」
(捨てたら怒られるんだよな……。というかあれもう捨てる気になれない)
少し歩くと宿舎棟に着いた。
講座敷に通う人間は皆ここに住まいを置く。
実家を出るのは当たり前、親族と会うなんて誰もしない。一部のヤツだけだ。『昔』の価値観ではあり得ないらしい。
とはいっても寂しくはない。喧しい仲間もまた同じ建物にすんでいる、それで十分だった。
0207号室。四人部屋だが今は3人で活用している――そこが饗庭と鵜ノ崎の部屋だった。
「戻ったぞー」
「お戻りかー」
……3人で活用している。その残り一人がこの少女(?)だった。名前はない。だから鵜ノ崎はコイツを「ネーレ」と呼んでいる。
「相変わらずだな。ネームレス」
「たぶん名前の由来はそこだろーとは自分でも思っているんだけどわざわざ言う必要あるかな。君はいつも私に対する扱いが雑だとおもー。ところで……」
「知らないよ」
ネーレに認識されている通り、『酷い』のではなく『雑』だ。
対してネーレは気にする素振りも見せずに言った。
「りょー。では水をちょうだいな?」
「はい」
「さんくす」
正直に思った。
(……面倒くさい)
Thanks⇒さんくす




