20話 平穏な日々 -part.1-
「あー生きてたの? よかったわね」
「おかえりー」
「いや冷たいなお前ら」
例の屋敷にこもっていると聞いたので来てみればこの通りだった。
すごいドライ。バディ死んだっていうのに呑気に零装をいじる叶恵に、わりと懐いていたはずのネーレはどちらも軽い反応だった。
別に晶斗も悲しんで欲しかったわけではないのだが、ここまで冷めてると逆に驚く。
「んー? あー誤解だよ。私はさっきもうきーてたから。にしてもよかったよー」
「私は誤解でも何でもないわよ? ていうか晶斗ならなんとなくわかってたはずだけど」
いやまあ昔のアレがあるからだろうと思い当たることは晶斗にもあった。
「てかなんでこっちに居るんだ」
「自分用の鍛冶場あるし」
そういうことじゃない。ていうかそれは晶斗でも知っている。ちょっと色々設備が充実しすぎていることぐらい。
「何よ」
叶恵がゴーグルを外してこちらを見てようやく気付いたのだが、普通に目元が赤く腫れていた。
「……すまん」
「何がよ」
「話は変わるがここどうなってんだ」
「どうなってんだとは」
さっきから気になって仕方がなかったのだが、正直突っ込みどころの方が多かったので後回しにしてしまったが。
「ここ結界でもあるのか? なんか雀が入れないっぽいんだが」
「?」
誰かわからないといった顔を浮かべる叶恵。
「白」
「あー」
そういうわけで白は外で待機中。森の外で。
なるはやでやれと言われていた。
「あんまりよくわからないけど、とりあえず準備できたら帰るから。先行ってていいわよ」
「ん」
「私もいくー」
とりあえず先に行くことにした二人の後ろで、一人叶恵はボソッとつぶやいた。
「……一人にするんじゃないわよ」
そのつぶやきは、誰にも届かず中空へ溶ける。
饗庭にはこの言葉の本当の意味が分かるはずなのだが、聞こえないように意識して言ったので、当然気づきはしなかった。
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全員で帰宅後はとにかく忙しかった。
死亡したことにされていたので、連絡班や情報集積システム運営部に、そもそも死体が生き返るようなことは前例があるはずもなく診療では質問攻め、細かい検査の嵐。更には上層部に呼び出されて簡易的なモニタリング。その他いろいろ。
これが晶斗についてのこと。
任務帰りに連れて帰ってきた雀の戸籍登録(戸籍はあるみたいだが「私じゃないし」とかなんとか言って新しく戸籍登録)、入寮手続き、雇用契約は未成年だと言い張り免れた。それに仲のいい人たちに紹介し(あらぬ噂の防止)、支給零装の発注、隊員登録、保険に入ったりと本当にやることばかりだった。
気づけば夜中の3時。いや、これだけのことをこの短時間で為しただけ素晴らしい。
そして今、この部屋では女子会が開催されていたりした。正確に言えば古裂白(白の新戸籍)の素顔を暴けの会が開催されていた。
「いやちょっと無理にはがすのはNGっ!」
「顔見せるくらいいいじゃない!」
「いやだっ! 仮面を外すってのはわーしがわーしじゃなくなっちゃうのと同義! 寧と一緒!」
「いーじゃーん」
「良くないっ!」
因みに晶斗は夜食の買い出しにパシられている。止める者がいないとこうなる。
「いい加減話さないとドメイン行使するけどー!」
「なっ!」
ドメインとは、まあ簡潔に言えば固有結界。領海の人間バージョンみたいなもの。厳密には少し違うが大体そういう感じなのでそれさえ分かっていれば大体どうにかなる。
同刻、カップ麺コーナーで白の好みを把握していない晶斗はどれにするか悩んでいた。
「ちょっとだけでいいから顔見してみなさいよー」
「そーだよ」
「いややだ」
頑なに譲らない白。もういいやと最終手段に出ることにしたネーレと叶恵。
またその同刻、晶斗は冷食コーナーでもうチャーハンとかでいいかなと考えだしていた。
「なんでそんなに嫌なの?」
「わーしがわーしとして現界できないから」
「ふうんそう。絶対ヤダ?」
「絶対ヤダ」
「そ」
くいくいと合図を出す叶恵。
すると背後に回っていたネーレが仮面をはぎ取った。
「ぁ」
「ナイスよネーレ!」
「えっへん!」
「ぃゃ。ぅ……」
「「?」」
なんかうめき声のようなものが聞こえる。よく分からないが、白(?)が俯いている。
ふと顔をあげる。端正な顔つきだった。体の大きさに反することなく童顔で、はっきり言って女の叶恵から見てもかなりかわいかった。
声を発してきた。
緑色の大きな目に涙を浮かべて。
「ぁ、の……白さん、かぇしてっ……」
「「へ?」」
無性に罪悪感に駆られる弱弱しい様子に、流されるまま面を返した。
わっわっと急いで受け取り急いでいつものように仮面を身に着ける。するとすぐにいつもの調子に戻っていた。
「何してんの」
「「ごめんなさい」」
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「やっぱり特にひねらず醤油で行こう」
饗庭は塩、叶恵は味噌、ネーレは豚骨、白は醤油、というふうに決定した。
そして、ようやく晶斗はレジに並ぶのだった。




