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約束

ホールを出ると一度大公子妃の宮に戻って、ヴィオレッタとダリアに会いに行く。

外で待っていた二人は、僕の姿を見た途端駆け寄ってきた。


「どうされたのですか、ローゼリンド様。顔色が真っ青ですよ」

「今すぐ横になりますか!?それとも、気つけ薬を持って来ますか?」

「いえ…大丈夫よ。それより、今日はフロレンスと二人で帰るから、あなたたちはカンディータ家の馬車に乗って戻っていて」


よほど酷い顔色をしているのだろう、しきりに心配する二人に僕は公爵家の馬車に乗って帰るように伝えた。

途端に、カッ!!と爆発するような勢いでヴィオレッタとダリアが迫ってくる。


「ローゼリンドお嬢様!そんなお辛いなら、私たちがお世話をいたします」

「そうです。大事な御身から離れるなんて承服しかねます」


言い募るダリアとヴィオレッタに押されそうになる僕の間に、フロレンスが割って入ってくる。


「二人とも、ローゼが心配なのは分かるが、どうか私を信頼して任せてくれないか?」


フロレンスの優しく微笑む薔薇色の瞳は、誰もを魅了して止まない甘さが宿っている。

それはカンディータに忠誠を誓う二人の従女にも有効みたいだった。


「…、…分かりました。公爵様もいずれ戻られると思いますので、そのようにお伝え致します」


渋々ではあったけれど、従女たちの鉄の決意を曲げさせると、大公子妃の宮の前庭に停めていた馬車に、ヴィオレッタとダリアを乗り込ませる。

二人が乗った馬車が遠くなると、僕はようやく肩から力が抜けた。

一仕事終えて、もう一度ロザモンド家の馬車に乗り込むと、ゆっくりと走り出した。


窓の外に視線を向けると、今日起こったことが次々思い出された。

幸せだと信じていた妹は婚約者の浮気を黙認し。

完璧な男だと思っていたヘリオスは、笑顔の下で僕たちを騙していた。

そしてまだ正体の知れない、愛人の存在。

婚約式の時に僕を睨んでいたヒルデが、相手なのだろうか。

まるで、悪夢を見続けているような気分だ。


「フロレンス…ヘリオスの相手だけど、誰か分かっているの?」

「いや、私も正体は知らない。噂にも上っていないしね。ローゼも敢えて覗こうとはしてなかっただろう?」

「そうね…」


黙認するなら、確かに正体を知りない方が良いのかもしれない。

知ってしまえばどうしたって態度に出るだろうし、嫉妬した姿を見せるなど、妹のプライドが許さなかっただろう。


双子の妹の苦しい心の内を思えば、再び僕は口を閉ざした。

しばらく馬車の車輪と蹄の音だけが、響く。

再び落ちた静寂を打ち破ったのは、今度はフロレンスの方だった。


「ローゼ…良ければ4日後に、一緒に街に行かないか?祭りをやっているから、気晴らしに遊ぼう」

「え…」


不意の問い掛けに、僕は面食らってフロレンスの顔を見た。

フロレンスは、悪戯っぽく僕に笑いかけていた。


「良いじゃないか。これからもっと忙しくなっていくんだから、今のうちに羽を伸ばそう。君が親友のお願いを無碍にするような子じゃないって、私は知ってるよ?」

「でも、抜け出すなんてできないんじゃ…」


こんな誘い、僕や妹じゃなくても誰だって頷きたくなるだろう。

でも、もしも、僕の秘密がバレたら。

そう思うと二の足を踏んでしまう。

そんな僕の優柔不断な姿を、フロレンスは不思議そうに瞬いて見つめていた。


「何を言ってるんだい?一緒にしょっちゅう遊びに行ってたじゃないか」

「でもっ、どうやって」


───いや本当に、どうやって?


自慢ではあるが、公爵家の警備は鉄壁を誇っている。それこそ猫の子一匹も逃がさないぐらいに。

それなのに、子猫よりも大きな僕の妹はどうやって抜け出していたというのだろうか。

頭の中は疑問でパンパンの膨らんでいく。


「いつも通り、屋敷の秘密通路を通っていけば良いじゃないか。街に出たら、噴水広場で待ち合わせしよう」


───ええええええええ!!!


僕の頭の中は、『え』の嵐で埋め尽くされる。

だって、あの大人しくて可愛いローゼリンドが。

淑女の見本。

完璧な乙女。

綺羅星のごとく輝く公女が。

家族に内緒で抜け出して遊びに行ってるなんて、思ってもみなかったのだ。


「じゃあ4日後に、一緒に祭に行こう。約束だよ」

「…、…分かったわ」


僕はいつの間にか、頷いていた。

フロレンスの誘惑と勢いに負けた、ということももちろんあったのだけれど、それよりも僕の知らない妹の姿を知りたかったのだ。


「今から楽しみだね」

「ええ…」


嬉しそうに僕の手を両手で握るフロレンスに、曖昧に微笑み返す。

どれだけ妹のことを理解できていなかったのか、痛感させられることになるのだが…馬車に揺られているこの時の僕は、まだ知るよしもなかった。


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